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真夜中のただなか  作者: 藍沢紗夜


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積み重ね 2022/3/23

 私には、諦めた夢がある。それは、小学生の頃からずっと大切に持っていて、高校生になって体調を崩すまでは、それだけを目指して頑張っていた、かけがえのない目標だった。


 小惑星探査機のはやぶさが帰って来たのは、私が小学生の時のことだった。その手に汗握る奇跡のような実話の虜になった私は、いつしか宇宙研究に憧れるようになった。

 両親もその夢を応援してくれて、私はそれからずっと、宇宙についての図鑑を愛読したり、研究機関のニュースを追ったり、天体ショーに釘付けになったり、真っ直ぐに夢を追いかけた。JAXAのイベントに参加したし、市の企画でアメリカに渡航してNASAの施設も訪れた。そんな時間を積み重ねるたび、憧れは大きくなる一方だった。


 高校生になって、その夢がより具体的な目標になった。文系科目の方が得意ではあったものの、理系を選択して、物理の授業を取り、国立大学の物理学科を志望していた。理系科目の点数は、優秀と言えるほどではなかったが、2年生時点で十分巻き返せる程度に模試の判定も良かったし、努力次第で合格を狙える、と思っていた。


 だが、2年生時点で既に、私の体は限界を迎えていたようだった。体調を崩す日が急増し、授業を休むことも多くなり、危うく進級できないところまで追い詰められていた。それでも、冬からは病院に通いだしたし、きっと良くなると信じて、私は希望を捨てずに勉強を続けていた。

 3年生に上がって、状況は一変した。危険信号を無視して自分を追い詰め続けた結果、文章が理解できなくなり、大学受験など到底できない状態になってしまったのだ。


 それでも私は諦めていなかった。いつか良くなって、1、2年経てば大学を受験して、また研究者を目指せると思っていたのだ。しかし、待てど体調は安定せず、まともに勉強することも叶わず、2年ほど経ってようやく、私はもう夢を追いかけることができないのだと悟った。


 覚えた公式も用語も、得意だったはずの英文法や英単語も、使わないことでどんどん風化して、思い出せなくなっていく。やってきたことは無駄になってしまったのか、と虚しく思い、どん底に突き落とされた気分にもなった。


 だが、そんなある日、高校に入学した妹が、課題で分からないところがあると言うので、私は頭をどうにか使って、参考書を見ながら解いてみた。驚いたことに、風化して全く思い出せなくなった物理や数学は、もう一度読み返してみるとすんなり理解でき、問題もほとんど難なく解くことができた。


 積み重ねてきたことは、知識としては消えてしまったのかもしれない。でも、培った感覚は、身体が覚えていた。無駄になどなっていない、学んだことは私の一部として、ここにあるのだ、と気付いて、すっと心が軽くなった。


 努力を重ねた結果、夢を諦めることになっても、その積み重ねは無かったことにはならない。あの日苦しみながら藻搔いたことも、先が見えないまま、今やれることを探していることも、全て私の糧になって、必ずいつか私を助けてくれる。そう考えられるようになったから、大切な夢に届かなかった過去も、悪くはなかったのかもしれないな、と思う。


 きっと、これから先、今抱えている夢を諦めることがあったとして、それでも前に進んでいける。どれだけ無駄に思えようとも、何一つとして無駄になんかさせない。どんなに些細なことさえ、積み重ねてきた全部が、私なのだから。

2022/3/23にnoteにて公開したエッセイです。

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