第5話 ブランド品をねだる彼女の最適化
「記念日に、ブランドのバッグをお願いされてて……」
男性が少し困ったように言った。
「付き合って、三年です。年の差は、十歳」
「十歳差」
「彼女、若くて可愛いし、料理も上手で……」
「そんなに言わなくていいでしょ」
隣の女性が少し照れたように笑う。
「ちゃんと立ててくれるし、すごくいい子なんです」
「……いい子、でしょ?」
「うん」
男性は頷くが、どこか迷いが残る。
「ただ、その……記念日になると、結構はっきり“欲しい”って言われて」
「だって、特別な日だし」
「もちろん、気持ちはわかるんだけど」
「記録を開始します」
「今いいとこだったのに」
「交際期間:三年。年齢差:十歳。女性個体は高価値贈与を要求しています」
「個体って言うなって」
「男性個体はコスト負担に対し迷いを抱いています」
「まあ、そうだね」
「解決策を提示します」
「はい」
「贈与の基準を明確化してください」
「基準?」
「記念日ごとの支出上限を設定します」
「夢がない」
「継続可能性を優先しています」
「……まあ、それはそうだけど」
「さらに、贈与の目的を再定義してください」
「目的?」
「女性個体は物品ではなく、価値の提示を求めている可能性があります」
「価値?」
「具体例:
・時間の共有
・体験型の贈与
・言語的評価」
「最後それでいいの?」
「コスト効率は最も高いです」
「でもさ」
女性が少し身を乗り出す。
「ちゃんと選んでくれたもの、嬉しいよ? 形に残るし」
「……うん」
「あと、やっぱり、ちょっといいもの持ってると嬉しいじゃん」
「……それはわかる」
「補足:別解を提示します」
「なにそれ」
「高価値贈与を実施し、その後の満足度を観測してください」
「普通だね」
「ただし」
「ただし?」
「要求が増加した場合、当該関係は“高コスト構造”と判断されます」
「急に冷たくなるな」
「その場合、長期維持は非推奨です」
「え」
「冗談でしょ?」
「冗談機能は搭載されていません」
沈黙。
「……なあ」
男性が小さく息を吐く。
「今回だけ、ちょっと頑張るよ」
「ほんと?」
「その代わり、来年は一緒に旅行とかにしない?」
「……うん、それもいい」
女性が少し嬉しそうに笑う。
「それは最適化ではありません」
「いいんだよ」




