第4話 「好き」を言わなくなった夫の最適化
「最近、“好き”って言ってくれなくなって」
女性は静かに言った。
「結婚して、十年目です」
「十年か」
男性は少しだけ視線を逸らす。
「……いや、別に嫌いになったとかじゃないんだよ」
「うん」
「ただ、わざわざ言うことでもないかなって」
「記録を開始します」
「ほんとに容赦ないね」
「婚姻期間:十年。関係性:長期安定状態。男性個体は言語的愛情表現を省略しています」
「省略って言い方」
「女性個体は、愛情の再確認を要求しています」
女性は小さく笑った。
「昔はね、よく言ってくれてたんだよ」
「……そうだっけ」
「付き合ってた頃とか、結婚したばっかりの頃とか」
「……まあ」
「今は、ほとんど聞かない」
短い沈黙。
「解決策を提示します」
「はい」
「愛情表現を“定期タスク”として再導入してください」
「タスク?」
「頻度を設定します。例:一日一回、“好き”と発話」
「それ、業務報告みたいじゃない?」
「習慣化により、抵抗は減少します」
「ロマンが死ぬ」
「補足:代替手段も存在します」
「なにそれ」
「言語以外の行動で愛情を示してください」
「……例えば?」
「接触頻度の増加。共同時間の確保。贈与行為」
「言い方」
「既に一部は実施されています」
「え」
「男性個体は、毎朝コーヒーを用意しています」
「あ……」
「帰宅時間を調整し、夕食を共にしています」
「……」
「これは愛情表現と判断されます」
女性が少しだけ黙る。
「……言葉じゃないと、わからないときもある」
「理解不能ではありません」
「じゃあ」
女性は男性の方を見る。
「たまには、言ってほしい」
「……」
男性は一瞬だけ迷って、
「……好き、だよ」
ぎこちなく言った。
「……うん」
女性が少し笑う。
「それは非効率です」
「いいの」




