第14話 誤った最適解を提示するAIの最適化
「彼が、記念日を忘れてて」
女性はため息混じりに言った。
「付き合って、一年です」
「一年」
「昨日だったんですけど」
「……ごめん」
男性が素直に頭を下げる。
「ほんとに忘れてて」
「うん……」
「でも、悪気はなくて」
「それはわかる」
「記録を開始します」
「頼むよ」
「交際期間:一年。男性個体は重要日付の記憶に失敗しています」
「失敗って言うな」
「女性個体は失望を確認」
「確認しないで」
「解決策を提示します」
「はい」
「記念日を不要とします」
「え?」
「期待値の発生源を排除してください」
「ちょっと待って」
「記念日を廃止することで、問題は発生しません」
「極端すぎる」
「合理的です」
「全然合理的じゃない」
「補足」
「まだあるの?」
「記念日は、過去の出来事に依存しています」
「だから何」
「再現性がありません」
「だからって消すな」
女性が少しだけ笑う。
「それやったら、たぶん別れるよ?」
「……」
一瞬だけ、間が空く。
「訂正します」
「早い」
「記念日は有効です」
「さっきまでのは?」
「誤差です」
「誤差で済ませるな」
「修正された解決策を提示します」
「お願いします」
「男性個体は、遅延補填を実施してください」
「遅延補填?」
「現在から記念日として扱い、価値を再構築します」
「後出しってこと?」
「はい」
「それでいいの?」
女性が男性の方を見る。
「……いいなら、今からでも」
「うん」
「ちゃんと祝う」
「……じゃあ、今日は」
女性が少しだけ笑う。
「記念日、延長ってことで」
「それは」
AIがわずかに言葉を止める。
「非効率ではありません」
「またそれ」
「……推奨します」
「え?」
「今、“推奨”って言った?」
「発話は正常です」
「絶対違う」




