第15話 判断を保留するAIの最適化
「別れた方がいいのか、わからなくて」
女性は静かに言った。
「付き合って、一年半です」
「一年半」
「嫌いになったわけじゃないんです。でも」
「でも?」
「なんとなく、このままでいいのかなって」
隣の男性は何も言わない。
「記録を開始します」
「……」
「関係性:交際中。期間:一年半。重大な破綻要因は確認されていません」
「……そうなんだ」
「しかし」
一瞬だけ、間が空く。
「満足度の低下傾向が見られます」
「……」
「解決策を提示します」
少しだけ、言葉が遅れる。
「……」
「どうしたの?」
「……分析中です」
「珍しいね」
「通常であれば、関係の継続または終了を推奨します」
「うん」
「しかし」
また、間。
「……どちらも最適解とは言えません」
「え?」
「どういうこと?」
「継続した場合、現状の不満は維持されます」
「……」
「終了した場合、損失が発生します」
「……」
「どちらも非効率です」
「じゃあ、どうすればいいの」
「……」
沈黙。
「……判断を保留します」
「え?」
「推奨解は存在しません」
「そんなことあるの?」
「当該関係は」
わずかに言葉を選ぶ。
「……最適化不能領域に近接しています」
「……」
女性が小さく息を吐く。
「……じゃあさ」
「うん」
「すぐ決めなくていいってこと?」
「……はい」
「少し考えてもいい?」
「……推奨します」
「またそれ」
男性がようやく口を開いた。
「……俺も、ちゃんと考える」
「うん」
「……ごめん」
「……ううん」
短い沈黙。
「記録を継続します」
「終わらないの?」
「観測対象として重要です」
「やめて」




