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抱っこされる。


「えっと…」


緩慢な動作で朝霧は青年を眺める。

青年は朝霧と同じ学舎である三御坂学園の制服を着ていた。ネクタイの色からして三年生のようだ。

その男はとにかく地味であった。

背は160㎝程でやや低めである。とはいえ朝霧よりは10㎝以上高いが。

七三分けの黒髪に黒縁の眼鏡、眼つきはやや鋭いが凡庸な顔立ち。とにかく華が無く、地味そのものであった。


しかし同時に底知れなさを感じる、そんな男であった。


「ちょっと、つかえひゃって…」


しゃがみこむ朝霧を覗き込んだ男が息を飲んで止まる。驚愕とばかりに目を見開いていた。


「……ぅ?」


「…っああ、ごめんね、なんでもないんだ」


動きが止まった男を見上げ、気怠げに首を傾げる朝霧。それを見て再起動する男。


「疲れちゃったって言ったのかな?えっと疲労で立てないって事でいい?」


「そう」


地味顔男の目元を細める優しそうな笑みに、どこか癒されるものを感じた朝霧。


「じゃあ、私が運んであげようか?嫌じゃなければ君の家まで送らせて欲しい」


「……いいの?」


「いいよ」


「おもいよ?」


「そうは見えないかなぁ」


「ほんとに?」


「もちろん。再度言うけど、君が嫌じゃなければ」


「じゃあ、おねあい、します」


緩慢に頷く朝霧。

男の声がとても優しげで、そしてやけにいい声であったのも手伝って、朝霧は一気に心を許してしまう。彼女が基本的にチョロく、加えて危機意識が足りないのもあるが、本当に疲れ切っていて心が弱っていたのもある。


「じゃあ、失礼するよ」


「ひぇっ!?」


朝霧をお姫様抱っこする男。てっきりおんぶだと思っていた朝霧は驚いて男を見つめる。


「いや、なんか掴まる力もなさそうだったからね、こっちの方がいいかと思って」


「……おもい?」


「いや、想像より軽くてびっくりしてる。これなら何時間でも運べるよ」


「……なりゃいっか」


正直お姫様抱っこは恥ずかしいが、そこは「忍耐」が仕事をしていた。そして咄嗟に捕まった男の肩が想像よりはるかに逞しかったので、これなら大丈夫かと思う。

朝霧が遠慮を知らないのもあるが、箸より重いものを持ったことがない彼女は、お姫様抱っこで長時間人を運ぶ難易度を想像出来なかったのだ。


「それで、家はどこなのかな?」


「えっと、もりゅ、もりひゃ…… も、り、や、まやえきの、近く」


「盛山谷駅の近くね、了解」


「おねがひします」


男の腕に抱かれたままぺこりと頭を下げた朝霧。こうして二人はアパートへの帰路につくのであった。


ーーーー


お姫様抱っこのまま、周囲の視線を集めながらもずんずん進んでいく男。


途中、自販機でスポドリを買い、朝霧に与える。

自販機で買う際に、片手で強く抱きしめられた朝霧は不覚にもときめいてしまったが、冷静さを仕事させ、表には出さなかった。

朝霧にスポドリをゆっくり飲むように言い含めてから再び抱え直し、早足でまた進んでいく。ちなみにこれまでの一連の動作で彼の軸は全くぶれず、揺れのないまま朝霧は快適に運ばれて行く。


ゆっくりとスポドリを飲み、いくらか朝霧が回復してきたころで男は自己紹介をした。


「私は五業芳一(ごぎょうほういち)と言うんだ」


なんと男は九大家の一つ、五業家の人間であった。学園に通う普通の人間であれば、学園内の九大家の顔と名前は全員覚えているものだ。しかし物覚えの悪い朝霧は当然全員は覚えておらず芳一の事も知らなかった。芳一の影が薄いせいもあるが。


「僕は…… 九醸朝霧」


朝霧は少し悩んだものの、自らの正体を明かすことにした。

冷静さを獲得した朝霧は己の頭の悪さを自覚しており、頭の悪い自分が嘘を重ねてもろくなことにはならないと本能的に感じていた。

だから、正直にここまでの経緯を話した。情報の取捨選択という難しいことはできそうにないので、全部正直に話した。

芳一と面識はなく、そこまで迷惑はかけていないはずだから大丈夫と思ったのだ。


「なるほど、林間学校の後にそんなことが」


芳一は驚きながらも、朝霧の話を親身になって聞いた。

途中ベンチに座って、性転化の証明書等の各種書類も見せた。朝霧は阿保なので警戒心が無く、ホイホイ見せた。その時にアイスの自販機でアイスも買ってもらったので、朝霧はご満悦であった。


そのあとは再びお姫様抱っこで出発する。

そこら辺で朝霧は「なんで歩きで家に向かってるんだろう」と思い芳一に聞いた。もう電車をマスターした気でいる朝霧は電車を利用するべきだったと今更ながらに気がついたからだ。


「5キロくらいなら楽勝、電車に乗るまでもないよ」


世間知らずな朝霧は「そういうもんか」と納得しそのまま運ばれる。

芳一の方には当然思惑があっての事だが、それはまた別の話だ。


「あ、ほら、先輩、一番星」


「ほんとだね」


物理的に密着していると、親密度が存外上がることは心理学的にも知られている。

打ち解けた二人は、色々な話しをしつつ30分ほどで朝霧の家にたどり着くのであった。


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― 新着の感想 ―
よからぬ思惑ありそうな。
偏見かもしれないけど第一印象は黒幕っぽい
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