先輩と帰宅する。
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当然のように芳一を、ホイホイ家にあげる朝霧。
九大家の人間なので信用に足るだろうとの判断だが、実際のところまだ芳一が五業家の人間であると裏をとっていない。阿保なのでそれに気がついてはいないが。あと九大家でありながら信用に足る人間でない自分のことを忘れている。
「朝霧、約束をしてくれ」
「なんでしょう?」
アパートに入り、芳一が淹れたお茶を飲みながら会話を始める。因みに朝霧は当然お茶のありかも入れ方も知らなかった。芳一が探してくれたし、淹れ方も教えてくれた。ちなみに大分前から呼び捨てだ。
「今後僕以外の男を家に入れてはダメだ」
「……いいですけど、なぜ?」
朝霧はチョロいので、もう芳一を信頼しきっていた。部活などをやってこなかった朝霧にとって、初めてのちゃんとした先輩というのもある。
「君は天使詩織に乱暴しようとしたのだろう? なら分かる筈だ」
「あー…」
言わんとしている事がわかった朝霧。
「確かに。僕は今、可愛いんでしたね」
「可愛いんじゃない」
即入った芳一の否定に、少しだけムッとする朝霧。
「ありえないほど、超絶弩級に可愛いんだ」
「…………なんか、照れるのでやめて」
「いいや、やめない。君が約束してくれるまで可愛いと言うのをやめない」
「…っやめ」
「かわいい」
「…ぃ」
「すごくかわいい」
「ぅ…」
「めちゃくちゃかわいい。君は可愛い」
「…ぇぇ」
おもむろに眼鏡を外し、一切の照れなく言い切る芳一。
朝霧の全身が、じわじわと熱を持ってきて、なぜか縮こまってしまう。
「わ、わかりました、わかりましたから…」
「約束する?」
「し、します。先輩以外は入れません」
「よろしい」
芳一は鋭い眼つきを隠すように、眼鏡を掛け直した。
「さて、察するに君は飯を作れないのではないのかな?」
「あ、はい、作れません」
「では、レトルト食品の作り方を教えてあげよう。棚にいくつかあったよ」
「うわ、ありがとうございます」
甘えることに抵抗のない人間朝霧は、遠慮なく芳一に頼りまくり、そして教えを請うのであった。
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その後、芳一は朝霧に風呂の入れ方を教え、彼女が風呂から上がるまで待った。
疲労度から考えて、風呂場で倒れる可能性があったからだ。
そして上がったあとは布団の敷き方を教えて、ようやく帰ることにした。
「先輩、今日は本当にお世話になりました」
「いいよ、気にしないで」
朝霧がスウェット姿で芳一を見送る。ちなみにこのスウェットと替えの下着は芳一が五業の部下に電話で命じて朝霧が風呂に入っている間に買って来させた。観察眼に優れる彼は見ただけでスリーサイズがわかるのだ。
朝霧にはダッシュで買ってきたと説明した。朝霧は馬鹿なので信じたし、ぴったりの下着も何も考えずつけた。
「先輩」
「ん?」
玄関、朝霧は芳一に一歩近づき、微笑む。
「今日先輩に見つけてもらえて、よかった」
まゆをさげ、瞳をきゅっと細めて、口元をやわやわとさせて、嬉しそうにする朝霧。
「また、僕を助けてくださいね」
そうして彼女は、芳一に甘えるのであった。
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朝霧が玄関の鍵を閉めたことを確認し、扉から少し離れて眼鏡を外す芳一。
眉間を揉みながら天を仰ぎ、そしてクソでか溜息を吐く。
それを監視する、朝霧の警護要員の一人。
その一人はアパートから一番近い電柱の裏に身を隠し、気配を消していた。
朝霧が出かけている間に、アパートの中には安全の為の盗聴器を複数設置している。
そのため、朝霧と芳一のやりとりに不審な点が無かったとわかっている。だがそれでも五業家の三男は警戒すべき対象だ。
故に彼がここを離れるまで監視しなくてはならない。
と。
警護兵が思っていたその瞬間。
芳一が消えた。
「がッ!?」
次の瞬間にはもう後ろから首を掴まれていた。
「いいか、俺以外の誰も、朝霧の元に男は通すな」
冷たく、威圧感のある声が響く。
肌を刺すような殺気が吹き付けるようにして全身に降り注ぐ。
首にかかった手が「いつでも折れるぞ」と言っている。
「九醸の御当主様にもそう伝えろ、あの子は無警戒すぎる」
一拍遅れて集まったほかの警護兵に刃を向けられているのに、全く動じた様子がない。身に纏う研ぎ澄まされた雰囲気が「全員を瞬殺できる」と物語っていた。
「あの子は…」
手を離し、彼は眼鏡を掛けなおす。
「私が守護らねば…」
そう言い残し、五業芳一は踵を返して夜の闇へと消えていく。
警護兵の全員が去りゆく芳一を見やり「マジでやべぇ」と生唾を飲んだのだった。




