バイトを探す。
それから。
朝霧はなんとか区役所までたどり着く。
久能詩子のアドバイスにより、電車でわからなくなったら駅員に聞けと教わっていたので、駅員をフル活用してなんとか目的の駅へと着く。
ここまでの経験で、「わからない事は、人にどんどん聞いてく」と学習した朝霧は、道行く人に案内してもらいながら区役所に到着。
区役所でも「ガンガン聞こうぜ」のスタイルで行動し、なんとか申請を通して無事身分証の変更をする事が出来た。
また、区役所員が気を効かせてくれ、学園への性転化手続きの書類を用意してくれた。これであとはこの書類を持って学園に行けば、一先ずの手続きは終了する。
「ふぅ、なんとかなるものだな」
区役所を出て、軽く伸びをする朝霧。
もう時間も大分遅くなったので、学園への手続きは明日にすることにした。
なのであとやることは…
「バイト先だなぁ」
お金が無かった。
実はアパートでタオルを探していた過程で、現金を見つけていた。
金額は十万円。そして、それにはメモが添えてあった。
メモによると…
仕送りは月、十万。
家賃が五万円。
学費は家が出す。
残り全てを残りの五万円から出さなくてはならない。
金銭感覚に疎い朝霧でも分かった。結構厳しいと。
病院に行くまでは久能詩子に奢ってもらったが、以降の電車賃は当然自分で出した。
病院での遺伝子検査は、どうやら家が出してくれたようだが、次回の診察はおそらく自分で出すことになるだろう。診察にいかほどかかるのかを聞いたところ、保険が効くのでそれほどでは無いとのこと。(保険というのがイマイチよくわかってない朝霧だが、区役所で保険証というのを再発行したので多分これを持って行けば良いのだと推測している)
それほどではないと言っても、残金五万の食費込みからこれを捻出するとなると相当厳しい。また、経験が浅すぎる朝霧には、他に何に金がかかるかわからない。
とにかく厳しいと言うことしか、朝霧には分からなかった。
そしてお金を得るには働かなくてはならない事は、さすがの朝霧も知っている。
「ついでにだから、この辺で探そうかな?」
ここは区役所の最寄駅で、朝霧が通う三御坂学園と一駅しか離れていない。
つまりここら辺でバイトを探せば学校帰りに通えるのだ。
そう考えた朝霧は早速探すべく、学園方面へと店を探しながら歩いて行く。
バイト募集の張り紙を見ながら、しばらく歩いていると…
突然。
「あ、れ?」
足に力が入らなくなり、しゃがみこんでしまう。
「え? ぁえ?」
全然力が入らない。立てない。
「なん、れ?」
そして、呂律も回らなくなっていた。
朝霧はぼんやりとした思考の中で先程、名護医師が言った「不具合」というのが頭にうかんでいた。
思考は鈍化しているが、冷静さは未だ失われていない。
朝霧は冷静に自分の状況を確認していた。
呼吸は乱れていない。頭痛はしていない。吐き気はない。
ただ、体に力が入らないだけ。
朝霧はなんとなく状況を理解した。
自分は今現在、極度の疲労状態にあると。
実は大分前から、強い疲労を感じていた。具体的には病院についた時にはもう大分疲れていた。三時間寝ても全く取れない程の濃い疲労であった。
そもそも。
性転化を一晩で起こしているのだ。肉体に負担が無いはずがない。
加えて朝霧は元々体力がない。
つまり朝霧は、朝の時点で肉体が疲弊していたのだ。
そこから、方々を駆けずりまわって今に至る。
立てなくなるほど疲弊するのも致し方ない。
朝霧は性転化により、「冷静」さと「忍耐」を獲得している。
そしてこの現状は、「忍耐」が及ぼした結果である。
要するに朝霧は大分前から疲労を自覚していたのだが、耐えれるので耐えてしまった。
これこそが、名護医師が懸念した通りの「不具合」である。
「そっか、疲えたあ休まあいと、ダメやよね」
朝霧はぐったりとして座り込む。
その様子に周りがざわつき出した時…
「どうかしましたか?」
ひとりの青年が朝霧に声を掛けた。




