また会う時に。
「病院まで連れてきてくれてありがとうございます」
「いいえ、いいのよ。私がそうしたかったのだから」
あれから。
手を繋ぎながら切符を買ってあげ(朝霧は当然の様に買って貰っていた)、売店でチョコを買ってもらい(朝霧は当然の以下同文)、初めて見る生の電車に興奮し、密着して隣に座り、目的の駅に到着し、最寄りのコンビニでお茶を買ってもらい、さらには病院まで送ってもらっていた。
短時間ではあったが、あまりにも頼れる久能詩子に朝霧は、敗北感も忘れてすっかり懐いていた。そう、彼女はチョロいのだ。
そして久能詩子の方もすっかりやられていた。
柔らかい手。甘やかな香り。上目づかいの愛くるしいタレ目。チョコを頬張る小さなお口。
電車にびびってしがみつき、だけど興奮気味に「…おぉぉ」と感嘆する声。コケそうになった時に支えて、うっかり触ってしまった小ぶりのお胸。
もう、全部が可愛かった。
もう、すっかり普通にLOVEだった。
正直、喰っちまいたかった。
勿論、淑女なのでそんなことはしないが。
「本当についていかなくていいのかしら?」
「うん、ありがとう。大丈夫です」
久能詩子は道中に、医者の所まで付き添おうかと進言している。なんなら、帰りの迎えも申し出た。もう愛しちゃっているので当然だ。
しかし朝霧は、それを丁寧にお断りしていた。医者まで付き添われては身バレしてしまう。
ここまで良くしてもらっているので、正直に言ってしまいたくもあるが、ちょっと時間を置きたいのが朝霧である。
正体を明かせば確実に嫌われると思っている朝霧は、「ちょっと今嫌悪されるのはキャパオーバーかな」と感じていた。こう見えて彼女はいっぱいいっぱいなのだ。
今後も通学の意志があるので、クラスメイトである以上数日後には確実にバレる。なのでそれまでに心構えをするから、今は先延ばししたいのだ。
「では、会いに来てくれるという約束、忘れないでくださいまし。絶対に」
「うん、約束します。絶対」
当然連絡先を聞いた久能詩子だが、朝霧は「携帯を持っていない」と答えた。人心把握に長けている久能詩子はそれが虚偽ではないと認めた。
そして「近日中に会いに行く、その時に改めて名乗らせてほしい」との朝霧の言に真意を感じ、それを信じることにした。無論、しぶしぶだ。内心は今すぐ家にお持ち帰りたい気持ちでいっぱいの誘拐犯予備軍である。
「あの、詩子さん」
「何かしら」
「ぼくの、僕の正体を知っても、出来ればでいいから…」
そう言ってうつむき、久能詩子の手を両手で握る朝霧。
「……出来ればでいいから、何かしら」
「出来ればでいいから、嫌いに」『ならないわ』
「で」『ならないわ』
「あの」『ありえないわ』
そう言って久能詩子は朝霧の頬を撫でる。このまま顎クイしてアホなことさえずる、その可愛い唇を塞いでやろうかとさえ思う。
「…うん、じゃあ、その時はどうぞ、よろしくお願いします」
朝霧は、まゆをさげて、瞳をきゅっと細めて、口元をやわやわとさせて、喜ぶのだった。
その時、久能詩子のハートに恋の矢の縦断爆撃が降り注いだ。




