仲良くなる。
「あやめちゃーん!」
「おねーさん!?」
高頻度であやめの家へ訪れる朝霧は、最早あやめの部屋へと直通である。
最近はもう、ほぼアポ無しであやめの家に訪れる。(一応武蔵が一報は入れる)
そして、訪れれば三世の家令が対応して、あやめの部屋へと通してくれるのだ。
朝霧はここ数日「転生」が佳境となったあやめのお見舞いに、毎日訪れていた。
あやめが異能の「転生」により、肉体が男性へと転じると聞いた朝霧は喜んだ。
あやめに、喜んで申し訳ないと謝りながらも喜んだ。
あやめはあやめで、朝霧が喜んだ理由を察し、それを噛みしめるようにして喜んだ。
そんな訳で、あやめは性転化に対してポジティブではあったが、それでも悩みは出てくるもの。
朝霧はそんなあやめの胸の内を親身になって聞き、その心に寄り添った。
そんな経緯を経て、二人はもっと親密になったのだ。
今も、あやめを見るなりその胸に飛び込んで抱きつく。あやめもそんな朝霧を驚きながらも危なげなく受け止める。そのくらいに気安い仲であった。
「あ〜、あやめちゃんのにおい〜」
「ちょ、嗅がないで下さい!」
あやめの体の変化は早朝の時点で完了している。
というか、一晩で性転化した朝霧と違い、一月以上かけての変化であったので、もう数日前には九分九厘変わっていた。なんなら一物だって大分前にはあった。
最後の数日間だけ、軽い発熱などの不調を伴い、それを経て細部まで完全に変わったようだ。
性転化が完了したあやめは絶対に今日も来るであろう朝霧を迎えるために、身体を清めて身支度を整えている。
しかし、それでも匂いを嗅がれるのは元女子としていささか恥ずかしかった。
「やだぁ、あやめちゃんの匂い、好きなんだもんー」
「も、もうっ」
あやめに抱きついて、首筋に顔を埋めてくんかくんかする朝霧。心なしか頬が赤い。
この一ヶ月の間に、二人は本当に打ち解けた。元々相性が良いというのもあったのだろう。
だがそれを抜きにしても、かなり仲が良くなっている。
朝霧はあやめに熱中症の時に救われ、そして明咲からも救われている。
なので、朝霧からのあやめに対する信頼は相当なもので、同時に恩も強く感じている。
朝霧はこれまでの人生で、誰かの為に何かをした事がない。朝霧の人生は、常に愚鈍な自分を誤魔化すためだけのものだった。当然、他に気を向ける余裕などなく、自分のことだけで精一杯であった。
そんな彼女が初めて「この人のために何かをしてあげたい」と感じた人間。それがあやめだ。
故に、その入れ込みようは尋常ではなかった。なにせ、そう言う経験がないので加減がわからないのだ。
自分に精一杯であることをやめた彼女は、あやめに精一杯寄り添ったのだ。単純に好きだったというのもある。
結果、朝霧はあやめがめちゃめちゃ好きになってしまった。入れ込みすぎて、もう感謝なんだか愛情なんだかわからなくなってしまったのだ。
対してあやめだ。そもそもあやめは朝霧が結構好きだった。
きっかけは朝霧の異能であったことは間違いない。あやめは女児であったころから文句無しの強者であり、朝霧の異能の対象そのものだ。故に初めから結構魅了されている。
その上、人間的にも普通に好きだった。
というのも彼女の家系。六道の家系は、そもそも姫属性に弱いのだ。
始祖、道場六衛門が武功を上げたきっかけも、仕えていた国が危うくなり、密かに想いを寄せていた姫に危機が及んだからだ。
つまり、遺伝子レベルでか弱い美少女が大好きなのだ。
なのでもう、あやめに成すすべはなかった。
そもそもの魅了+遺伝子レベルで好みのタイプ+雄化して雌が効く+めちゃくちゃ向こうも好いてくる。
もうボコ殴りである。好きの滅多打ちである。
言い訳のしようも無く、あやめは完堕ちしていた。
そんな好き同士がくっついて抱きあっているのだ。
何も起きないはずはない。
「ん〜」
「ちょ、いつまで嗅いでるんですか、そろそろ止めてください!」
今のあやめは朝霧より少しだけ大きい。朝霧はあやめにより抱きつくために、彼の膝にまたがりそして抱きしめる。密着して彼の匂いに包まれる。抱きしめた体は確かに雄で、硬くてたくましい。今まで特に意識していなかった朝霧の雌が刺激されてしまう。
「いいじゃん、もう少しだけ。あやめちゃんも嗅いでいいから」
「えっ!?」
そんなことをいう朝霧に、あやめは動揺する。
というのも、あやめはあやめで、朝霧を強く雌として意識しているからだ。
徐々に雄化していく過程の中で、あやめの朝霧に対する好意の質がどんどんと変わって行くのを感じていた。
ストレートにぶつけてくる朝霧の好意、次第に多くなっていく彼女のボディタッチに、だんだん強く感じる様になってしまった彼女の雌に…
…あやめは、大分前から、いやらしい感情を抱いていた。
勿論、それを朝霧に打ち解けてもいる。親身になってくれる朝霧に対しての罪悪感がそうさせた。
だが、そんな彼女の返答は以外にも「僕も」であった。
つまり、朝霧も、あやめに対して…
そして、その上で、こうやって、抱きついているというのか。
「っ、知りませんからね」
自分は精一杯、朝霧に対して配慮をしているというのに。
なのにこの朝霧の無警戒さ、無遠慮さ。
嬉しくもあるが、腹ただしくもある。
あやめは、自分の膝に跨る朝霧の、その細い腰を抱き寄せて、キツく抱きしめた。
「…ぅぁ」
強く抱きしめた瞬間に漏れた、少しだけ驚きを含む吐息。
見れば朝霧の耳も少し赤くなっている。
朝霧も自分と同じように、羞恥と歓喜が入り混じっているのだ。
あやめは、その反応からそれを悟る。
嬉しかった。
嬉しさがこみ上げるままに、あやめは朝霧の香りを胸いっぱいに吸い込む。
音に出して吸い込めば、ちょっと恥ずかしくなったのか、朝霧が少しだけ身じろぎをした。
それに少しだけいい気味だと思うものの、それどころではなかった。
とても良い匂いなのだ。
脳がとろけそうな程に。
今までも、良い香りとは思っていた。
だが、完全に男となった今、しっかりと嗅いだ今は違う。
脳髄が甘く痺れる良い香り。
きっと、朝霧もそう思っていると、なんとなくわかった。
もう一度ぎゅうっと抱きしめる。
朝霧の華奢で、柔らかで、甘やかな体を、自分の体に押し付けるように。
「…ひぅ」
抱きしめた際に吐き出される息が、小さな声が、甘い匂いが、脳と心を痺れさせた。
そして…
「好きだ…」
つい溢れる。
痺れた脳が、気持ちを零す。
「ぁ」
そして溢れた瞬間に我に帰る。
いや、お互いに好き同士であることは、流石にわかっている。
だけど、だからこそ、告白はちゃんとしたかった。
例えば景色の良い場所で、ロマンチックな愛の言葉を添えて、一生の思い出になるように、結婚を前提に告白をしたかったのだ。
「…………あやめちゃん」
朝霧が、ぽんぽんと背中を叩く。
一旦離せということだろう。
あやめは、抱きしめる力を緩めた。
ゆっくりと上体を起こして、あやめと顔を合わす朝霧。
そこには…
「……僕が大好きなの?」
小悪魔と呼ぶにふさわしい、蠱惑的な笑みの朝霧が「あーあ、ついに言っちゃったね」という顔をしていた。
負けを悟るあやめ。
あやめは男になって早々に気づきを得た。
もしかして男って、好きな女性には一生敵わないのでは?
と。
「……はい、大好きです」
あやめは目を伏せ、降伏する。
そんなあやめの…
「んぅ」
「んむ!?」
そんなあやめの唇を奪う朝霧。
軽く触れあって、すぐ離す。
驚いた顔で、真っ赤になるあやめ。
そんなあやめを見つめながら、朝霧はもう一度啄む。
「ん…」
そして、真っ赤な顔で、意地悪げに微笑むのだった。
「……僕もだよ」
そんな可愛い笑みをする朝霧に、あやめはもう見惚れるしかなく…
「ねぇ、今日からはあさぎって呼んで?」
「…あ、あさぎ、さん」
「ふふ… なぁに? 文目さん」
…きっと、これは生涯忘れない瞬間になると、確信をするのであった。
なんてこった!この小説はおねショタ(ショタがすでにでかい)だったのか!




