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怒鳴られる。


「さっきからこっちを無視して喋りやがって!俺を愚弄する気かっ!」


一生直幸が肩をいからせて、こちらへと歩いてくる。


朝霧達は、朝霧がスマホの文を見せた段階で自分達の世界に突入し、その後は周りを気にせずやいのやいのしていた。

なのでその間、高様な態度でなにやら喋っていた一生直幸とニ界正司はガン無視であったのだ。


「クソ豚の分際で俺を馬鹿にするとは!少し顔がマシになったからって調子に乗っているのだろうっ!」


沸点の低い一生直幸は唾を飛ばしながら朝霧の目の前まで来る。


「その驕り高ぶった態度、俺がまた調教してやっても良いのだぞ!」


そして拳を掲げて見せた。


「…っ」


朝霧はそれにびくりとして硬直する。目を見開き、息を呑み、身体を縮こませる。

例のトラウマが出てしまったのだ。


「……なんだ?貴様まさかこれだけで怯えているのか?情けないなぁ」


劇的に変化した朝霧のその様子に、途端に気を良くした一生直幸。

元は豚とは言え、今は怯えて震える美少女。それは一生直幸の嗜虐心を大いに刺激した。


「下々をはべらせていい気になっていた様だが、所詮は臆病な豚という訳だ。くくくっ、無様に怯えるそのさまは実に似合いだな」


ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべて、もう一歩朝霧にちかづき、その胸元を掴み上げようとする。


その時。


「あぐっ!?」


朝霧に迫るその手が、突如下に向かって弾かれた。


「ああ、大丈夫でござるよ姫。泣かないで」


手をさする一生直幸を尻目に、太刀川椿が涙を溜めた朝霧をなだめる。


「き、貴様!い、今俺を叩いたな!下民の分際でっ!」


一生直幸はズキズキと痛む手の甲をさすりながら、太刀川椿に怒鳴る。

凄く痛むのに、打たれた所は赤くなってもいない。何故か内側が痛い。


「見えたのでござるか?」


「は?」


そんな一生直幸に、太刀川椿は問いかける。


「恐らくは武芸にも秀でておられるであろう一生殿は、先程、拙者が叩いたのを見たのでござるか?拙者は一生殿を叩いてなおどおらんでござるよ?」


「な!?」


暴論だった。状況的に見て恐らく椿が叩いたのであろう。しかし、それを一生直幸は捕捉できなかった。椿の食らわせた手刀を、肉眼では捉えられなかったのだ。


「なるほど」


「ぐべっ!?」


久能詩子が「なるほど」と言った次の瞬間。今度は一生直幸の顔面が後方に弾け、後ろによろける。久能詩子が肉眼では捉えられないジャブを放ったのだ。


「な、何をしたっ!?」


ズキズキとする眉間を抑えながら、一生直幸は叫ぶ。


「何もしていませんわ」


シラを切る久能詩子。


「何もしてないでござるなぁ」


すっとぼける太刀川椿。


その様子をみて…


「あいつら程度が見えない攻撃なら出せるけど…」


「痕が残らず、内側にのみ衝撃を通す攻撃のデータがない…」


「我が力が至らぬばかりに…」


その後ろで市ヶ谷光輝と天城兵輔と羽柴木之実が悔しそうにヒソヒソと喋っていた。


「く!!ふ、ふざけるなよ、この一生直幸に手をあげて何もないで済むと思うなよっ!!」


「そ、そうだ九大家に暴力を振るってただで済むと思うなっ!」


「証拠がないでござるなぁ」


「痣とかも無さそうですが?」


眉間を痛そうに押さえながら激昂する一生直幸に、ニ界正司も声を上げるが、太刀川椿と久能詩子はシラを切り続けるのであった。


ちなみにこのあたりにも監視カメラはあるが、監視カメラ程度の録画精度では、先程の攻撃は撮れていない。


「お、おい!九醸朝霧!!」


「……っ!?」


太刀川椿と久能詩子の様子を見て、らちがあかないと思った一生直幸は、朝霧を名指しする。


「お前だけ一人でこっちに来い! お前が土下座するんなら、お前の取り巻きの愚行を許してやってもいい!」


そして名案だとばかりに叫び、嫌らしい笑みを浮かべた。


「…ぅ」


朝霧はみんなを見上げる。

当然みんなは首を振った。


「こっちが穏便に済ませてやってるうちに帰れでござる」


「ばーかばーかばーか」


「愚者に語る事などないさ、疾く去るとよいよ」


「僕のデータが暴れ出さないうちに帰れ」


「顔がキモいですよ一生君」


そんなみんなの毅然とした態度を見て、朝霧も腹を括った。


別に朝霧は自分を信じてくれた友達の為なら、土下座くらい楽勝でできる。

土下座は経験があるので、きっと完璧にこなせるだろう。

しかし、みんなは自分が土下座することを良しとしないと感じた朝霧は、一生なんかには絶対に土下座しないと決めた。


朝霧は目の前に居た天城兵輔の腰に抱きつく。


「…データがっ!?」


取り乱す天城兵輔。ちなみに朝霧は女子に許可なく抱きつくのはまずいだろうと思い天城兵輔にしただけだ。

天城兵輔に抱きつきながら、顔だけを横に出し…


「…っ!」


舌を出して拒絶の意思を示すのだった。


「き、きさまぁっ!」


そして散々にコケにされ、自分の要求を一顧だにされなかった一生直幸は…


「キサマらぁぁあああああ!絶対にタダでは済まさんからなっ!」


顔を真っ赤にして、怒鳴るのだった。


「姫、いけないでござるよ」


「データッ!?」


そんな最中、太刀川椿がスッと天城兵輔に回された朝霧の手を外す。そして天城兵輔を蹴り飛ばした。


「拙者ならおっけーでござるから」


そしてその手を自分の腰に巻いたのだった。

朝霧はその一連の流れにキョトンとした後、小さく笑って太刀川椿をぎゅっとする。

激昂する一生直幸をよそにほんわかするふたり。

だが、その呑気なやりとりは一生直幸をさらに怒らせた。


「…もう怒ったぞ」


一生直幸は表情を消す。


「一生家の権力を使ってでも、跪かせてやる」


そして剣呑な雰囲気で、携帯を取り出す。どうやらどこかに電話をして、援軍を呼ぼうとしているようだ。


しかし。


「そこまでですわっ!」


大きな声に全員がそちらを向く。

するとそこには三世永久子がいた。そしてその後ろには武蔵が控えている。どうやら彼が永久子を呼んできたらしい。


「な、なんだ三世君。邪魔をしないでくれないか!」


「朝霧さん絡みで私が黙っているはずはありませんわ」


「なんで三世君がこんな奴を…」


永久子の登場に動揺する一生直幸。永久子は運動連の副総代を務める、九大家の中でも格上の存在である。同じく運動連の副総代であった明咲が失脚した今、次期総代が確実なエリート中のエリートなのだ。九大家の中では三下の部類である一生直幸では一目上に置かざるを得ない。


「ちょっと失礼」


「ご、ござるぅ…」


永久子は太刀川椿に回されていた朝霧の手を取り、そして自分の腰に回す。

朝霧はそれをけらけら笑いながらもぎゅっと抱きしめた。


「あなたはご存知ないやもしれませんが…」


そしてそのまま永久子は話し始めた。


朝霧は五業の先先代当主の曾孫であり、今は五業家が第一の保護者である。

先先代と先代の両方から寵愛を受けており、その証拠として五業の従族家である豪徳寺家の中でも有力者を護衛としてつけている。

さらに朝霧の保護者には、三世と六道もついていて、彼女にあだなすのはこの三家を敵に回すことと同義である。


そう、説明するのだった。


「そんな、馬鹿な、う嘘だろう?」


「し、しかし三世永久子さんが、九醸を庇っているのは事実」


激しく動揺する一生とニ界。

そこで、武蔵が一歩前に出る。


「私はこれでも数年前までは、豪徳寺家の筆頭を務めていた者でございます。お疑いであれば、今すぐにでも実力をお見せしますが?」


そう言って武蔵は殺気を出す。決して朝霧には顔が見えない位置に立ち、簡単に人を殺しそうな目で、一生とニ界と天使の三人にだけにピンポイントで殺気を放った。


「ひぃいぃいい、お、き、きょうの所は、か帰るうううう」


「ぅううわああああああ、た、す、けぇぇええっいう」


「きゃあああああ、ぁ、ぇぇええ!?お、置いていかないでぇぇえええ!!」


三人は一目散に逃げ帰った。

バタバタと音をたてて、去っていく。


そして去った後。


永久子から手を離した朝霧はおもむろにスマホを取り出す。

そしてメモに「たけくらって苗字じゃなかったんだ?」と書いた。


「ふふ、豪徳寺武蔵(ごうとくじたけくら)と申します、お嬢様」


それに、武蔵はにこやかに返す。

その呑気なやりとりに、全員の表情がほころび、そしてこの件は終結したのであった。



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― 新着の感想 ―
なんだろうおしおきだべさーとかドロ〇ジョ様とか今週のびっくりどっきりメカとか思い出してしまった。
一生とニ界ザコすぎる。こいつ朝霧(♂)がいなくなったら学園のヘイト全部集めそうな性格だなあ。
更新あざます! 脅し方も逃げ方も三下ムーブやんw 個々の実力は一生と二界より朝霧のクラスの方が上なのかな?
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