本当を言う。
「なに?話には聞いていたが、これがあのクソ豚だと言うのか?」
九大家が一門、一生家の次男、一生直幸が顔をしかめて言う。
「元男が変わってわずか数日で女服を着ているのですか? ふぅん、そのあからさまなリボンも… 実に気色が悪いですね」
同じく九大家が一門、ニ界家次期当主の長男、ニ界正司が侮蔑を浮かべる。
「そんな、二人とも言い過ぎだよ」
そんな二人を嗜めるように言う天使詩織。
この三人は朝霧にとって、因縁の相手である。
朝霧がまだ男であった頃、朝霧は天使詩織を好いており後をつけ回していた。
それを同じく天使詩織を好いている一生直幸とニ界正司が、事あるごとに制裁をしていたのだ。
そして一生直幸に至っては、朝霧が天使詩織を犯そうとした時に、それを阻止して完膚なきまで叩きのめした人物でもある。
朝霧にとって会いたくない者達であった。
「あ、あの、色々あったみたいですけど、大丈夫でしたか?」
「詩織、こんな屑の豚を気遣ってやるなんて… お前は優しすぎる」
「本当ですよ。だからこそ、優しい貴方を私達が守らないと…」
そうやって、なにやら彼等達だけの優しい世界を展開する。
一方朝霧側は…
「豚はテメーらでござる」
「はぁ?ゴミがなんかいってんぜ?」
「穢れているね、その心」
「僕のデータによれば奴等をぶん殴ったらスッキリすると思う」
「どうしようかしら(拳を見つめている)」
朝霧を囲む五人は小声で殺気だっていた。
一応相手は九大家で、揉めればタダではすまない。
しかし友人を悪し様に言われて黙っている彼等でもなかった。
そんな中、朝霧は思いつめた表情をする。
その様子に気づいた久能詩子が朝霧に「どうしたのかしら?」と声をかけた。
朝霧その声にゆっくりと顔を上げ、久能詩子をじっと見つめる。そして他の四人を見回した後、決心した表情を浮かべる。
朝霧はスマホを取り出し(五業の爺様に買ってもらった。よくラインが来る)保存してあった文章を見せる。これは先日、永久子とあやめにだけ見せたものであった。
そこに書いてあったのは…
僕は天使詩織が好きだった。
今は好きと言う感情はない。
林間学校のあの日、僕は天使詩織に誰もいない部屋に呼び出された。
そこで天使詩織は僕に性行為を誘ってきた。
僕は熱に浮かされるように何も考えられなくなり、事に及ぼうとした。
僕が服を脱ぎ、天使詩織が少しだけはだけさせた時点で、天使詩織が突然叫んだ。
彼女は「嫌!」「やめて!」「助けて!」と叫びながら僕を蹴り飛ばした。
そこに一生が入って来た。
天使詩織は泣きながら怯えていて、僕はほぼ全裸だった。
後はみんなの知る通り。
現場を押さえた先生(吉永ではない)には正直に話したけど、信じてはくれなかった。
そういった内容が、書いてあったのだった。
「……ぅ」
その眼差しには「信じてくれるのだろうか」という怯えがあった。
誰にも信じてもらえなかった。家族にも信じてもらえなかった。
全ては今までの自分の行いのせい。一番悪いのは自分。
本当に後悔しかない。
誰も信じてくれない自分の人生に、後悔しかなかった。
その後悔が行動を変えた。
冷静に自分が見れるようになったのもある。
いろんな感情に耐えられるようになったのもある。
でも、一番自分を変えるきっかけになったのは、後悔だったのだ。
だけど、人を信じさせられるだけの説得力を自分はもっていない。
なんでも愚鈍な自分は、誰の信頼も勝ち取れそうにない。
だからせめて正直に。
自分を偽らず。
自分の気持ちを素直に伝える。
飾らずに。
ありのままで。
そのままで。
信じてはもらえなくても、嘘はついてないと思って欲しい。
「……ぅぅ」
そう自身に願って、朝霧はここまで変わったのである。
永久子は信じてくれた。
あやめは信じてくれた。
友達の五人にも、信じて欲しい。
そう思って、朝霧はみんなを見つめた。
みんなは…
「ござるっ!」
「大丈夫だ姫、信じるよっ!」
「色々ごめんね!信じる!(素になっております)」
「そのデータは信頼できる!」
「もっと早く言って欲しかったわ!」
そしてみんなは、それを信じてくれたのだった。
「……っ!」
朝霧はそれに、涙を浮かべて微笑む。
しかしそこで…
「おいっ!俺を無視をするな豚ごときがっ!!」
一生直幸の怒声が響くのであった。
実は朝霧って自分の口で「犯そうとした」って一回も言ってないんですよね。




