事件の後で。
あの後。
朝霧はすぐさまあやめによって病院へと運ばれる。
六道御用達の病院だ。あやめが祖父と父にお願いすれば「普段お願いしないあやめがっ!?」と、大喜びで手配してくれた。
病院に搬送してすぐに永久子が飛び込んできて、朝霧のあんまりな惨状に少し泣いた後に「三世に病院に移しますわっ!」と主張したが、あやめがバッサリと「三世がちゃんと保護を公表していたら、こうはなっていない」と胸ぐら掴んで言い放った。
それに永久子は「ぐぅっ!!」とぐうの音をあげた後に、小一時間ごねて、その後に泣いて帰った。
その間、朝霧は熱が出てしまって朦朧としていた。ので、どのみち転院は無理であった。
明咲は鹿鳴によって拘束されたあと、九家省直下の執行部「貴監院」により逮捕され連行された。今は貴監院監獄へと収監されているだろう。
これまでの取り調べにより発覚したのは、用意周到な洗脳計画だった。
明咲は「呪術師」と通称される、拷問術と暗示と薬を用いて人格を比較的維持したまま価値観を激変させることができる洗脳術師と繋がっていて、朝霧をさらった後はその術師監修の元、朝霧を「明咲に都合の良い人間」に仕立て上げる予定だったらしい。
明咲は今回その計画があったにも関わらず、私情が先行し朝霧を痛めつけることを優先してしまったのだ。
もしあの時あやめが来るのがもう少し遅ければ、朝霧は連れ去られていたことだろう。
しかも明咲が想定していた逃走経路は実に巧妙で、連れ去られていたら計画は成功していた可能性は高い。明咲が雇っていた「呪術師」の腕は確かで、洗脳は僅か五時間ほどで済むらしいからだ。
以上の事柄より明咲の悪質性は高く、加えて明咲の罪を重くするように、三世、九醸、五業からの要請があったため、明咲はもう学園にも戻って来れないと思われる。
朝霧の父八切は、事態が全て最悪の方向に転がったことに絶望しながらも、その全てを妻に伝える事にした。
九醸家当主朝月はその連絡を受け、急ぎ帰還することを決めた。来週の頭にはもう戻るとのことであった。
朝霧の怪我はどれも命の別状は無い。
そして意外にも、精神は参ってはいなかった。
いくつかのトラウマを抱えてしまったものの、朝霧は割と元気であった。
引き続き六道の病院の個室でのんびりとしていて、念のため三日は入院して、金曜からまた学校に行くつもりらしい。
病室には毎日、学校帰りのあやめが立ち寄り、散々朝霧を甘やかして行く。
そして朝霧もまた、窮地を救ってくれたあやめに甘えきっていた。
「あの、おねーさん?」
「…?」
「そろそろ帰らないといけないんですが…」
「…!」
「で、でも、流石に泊まる訳には」
「…っ」
「それは名案、みたいな顔されても」
「…ぅ」
「ぁぁ、そんな顔しないでください、ね?」
「ぁ」
朝霧はあやめの掌に書いた。
「……は、はい。私もおねーさんが好きですよ」
「…♪」
そうして、二人は病室でいちゃつく。
この様な感じで、今回の明咲による騒動は、一通りの終結を得たのである。
「じゃあ、今度こそ帰りますからね」
「…!」
「はい、また明日」
ーーーー
帰り道。
自宅へと向かう車の中で、あやめは思う。
好きだ。
だから失いたくない。
あの時。
本当にあの場所に行ってよかった。
間に合わなければ、取り返しのつかないことになっていた。
あの時、鹿鳴がいて良かった。
流石に年の差があった。年齢の差はそのまま練度の差だ。
一対一での勝率は五分だった。五分では絶対守れるとは言えない。
「悔しい」
朝霧を守るのは、絶対に自分でありたいと、今は望んでいる。
だから、絶対に。
「強くなってやる」
あやめは流れる景色を見ながら、決意をあらたにする。
そして。
この頃より、あやめの身体に異常な変化が見られ始める。
それは、六道家に度々現れる異能が関係していた。




