助けが来る。
「おい、朝霧」
「ぅっ…ぃ」
一見すると優しく、だけど底冷えする程に冷たい笑顔で明咲は朝霧に呼びかける。
朝霧はそれに言葉にならない返答をした。理不尽な暴力の前に、もう完全に心が折れている。
何度も殴られたせいで頭痛が酷いし、痛すぎて吐きそうだ。足はスネのあたりで、どう見てもよくない方向を向いている。こっちはもう痛すぎてよく分からなくなっている。だが、あるべき形でない足を見ているのは、それだけで恐ろしいのだった。
「あっ あぁ ぃ…」
ただただ、涙がでてくる。
痛くて苦しくて助けて欲しいのに、彼女には何もできなかった。
「な、朝霧」
「…ぅ ぁ」
ぐちゃぐちゃになった心に、明咲の声が刺さる。
怖い、怖かった。
「お前、家に帰りたいよな」
にこりと、全く笑ってない笑顔を向ける明咲。
「…ぃゃぁ」
その笑顔に恐怖する朝霧。
掠れる声で「嫌」と言った朝霧。その嫌は、家に帰るのが嫌、と言った訳ではない。
ただ単純に、目の前の事象に対する嫌だ。目の前の明咲に対して、本能的に「嫌」と言ってしまっただけなのだ。
「ふぅん」
すとん、と美咲の表情が抜け落ちる。
「… ひ 」
口ごたえをするべきではなかった。朝霧にそのつもりが無かったのだとしても、口ごたえに聞こえることを言うべきではなかった。
この、明咲というイかれた危険人物を前にして。
「もう」
明咲は朝霧の喉に手をやる。
「喋らなくていいよ」
「ぎぁ、、、、、ッ!!」
そして朝霧の声帯を潰した。
クシャっと、軽く潰す。朝霧の口元から血が溢れた。
ごほ、ごほ、と血を少し吐きながら、喉元を抑えて地に臥す。
明咲は思ったのだ。どうせ洗脳は別の場所でじっくり行うから、もう喋らせなくていいな、と。甘ったるいこの声が、非常に耳障りだな、と。
「ッ…!」
背中を踏み付ける。
「…ぁ…っ」
背中を踏み付ける。
「 っ …」
背骨を折らない程度に背中を踏み付ける。
「ふふ」
踏み付けるたびに、朝霧の口から血が溢れ、そして苦しげに酸素を吐き出す。
見ていて楽しい後景だ。
「…はぁ」
楽しいが、少し物足りない。
明咲は気をつけて痛めつけていた。
顔はもちろん傷つけられないし、生命に関わるから臓器は損傷させられない。
もちろん声帯だって元に戻るよう綺麗に潰した。本当に声を潰すつもりならもっとグシャグシャにしている。
吐血だって声帯を潰したからであって、内臓からくる深刻なものではない。
踏み付けだって、ただ苦しめたいだけで、内臓は破裂させないよう力加減をしている。
本当はもっと壊してやりたいのに。
こいつはそれだけの事をしているのに。
これくらいで済ませてやるなんて、自分は何と慈悲深いのか。
少しだけ溜飲の下がった明咲は、そう思った。
「ふぅ、私は優しいな」
「…ッ… っ!?」
最後に手を踏み付ける。とりあえず、これで最後にしてあげることにしたのだ。
続きは別の場所で、次は精神への攻撃を重点的に。まずは人格否定から。
優しいと自称する明咲は、利き手ではない左手を、踵で踏み潰す。
「…ぅ …っ」
少しづつ負荷をかけて。万力で潰すように、指先を潰していくのだ。
目をぎゅっと閉じて、その閉じた目からは涙が溢れ、口からは血が滲んで、苦しそうな嗚咽が漏れ続ける。
その様を見ながら、明咲は穏やかに微笑むのだった。
そして。
「!?なッ」
次の瞬間。
「っに!?」
矢のような飛び蹴りが明咲に突き刺さる。
辛うじで防いだ明咲だったが、たたらを踏んで朝霧から数歩離れた。
「おまえ」
飛び蹴りを放った少女が、明咲と朝霧の間に降り立つ。
「おねーさんに、何を?」
そこに、激怒した六道あやめが、立つのだった。
あやめちゃーーーーん!
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ここで今回の朝霧リョナ回は終わりです。
ここまで読んでなお読み続ける気概のある皆様に感謝を。
ブクマされていない方々はこの機会に、どうぞよろしくお願いします。
出来れば高評価も頂けるとありがたいです∩^ω^∩




