放課後歩く。
「姫!拙者達と今度、空桶にでも行こうでござる!」
「空桶?ああ、カラオケね?」
「おっ!いいじゃぁないですか!俺の美声、聞いてくれよなっ、姫!」
「あ、あの、姫ってやめない?」
「僕のデータによると、クラス全員が入れて学園からも近いカラオケヘブンが最適だね。もちろん電話番号も把握済みだよ姫」
「いや、だからね?あのね?」
「ふふふ、姫、共に旋律を奏でよう。…あ、デュエットしようってことだよ?」
「だ、だから、姫は、ちょっとはずいからー」
「決まりね、では「姫との親睦会」は今度の土曜日でどうかしら」
「ねえ、聞いてる?聞いてるの?」
「かしこまった!午後でもよいでござる?」
「オッケー!午後ね!今から超楽しみ、ヒャッホーウッ!」
「今予約が完了したよ。13時半開始だから、遅れないでくれたまえ」
「ふふふ、その運命を受け入れよう。あ、姫もその予定で大丈夫?そう、よかった」
賑やかに会話をしながら、放課後を進む面々。
あの、混沌とした求婚合戦の後。
ようやく落ち着いた頃に吉永が場を閉める。
事前連絡は朝霧紹介前に終えていたので、そのまま解散となった。
その直後に再び朝霧はクラスメイトに群がられ、この直後に出かけて懇親会でも開こうと言われる。しかし朝霧は「平日は全部鳳雛館での奉仕作業」があるからと、残念そうにした。
それならば、と先程の会話である。
今は皆んなで、朝霧を鳳雛館へとお見送りしているところだ。
ちなみに鳳雛会へ入会を果たしているのは、彼ら一年七組の中では久能詩子だけである。このクラスの面々は運動こそできるが、勉強はそこそこで、鳳雛館に入れる程ではないのだ。
「ごめんなさいね、朝霧。本当は一緒にいてあげたいのだけど」
「ううん大丈夫、鳳雛館の入り口でお迎えが待ってくれているはずだから」
鳳雛会の会員は皆優秀故に多忙なので、始業式のあとはそれぞれ予定が入っている。
なので永久子も付き添いたがっていたが、泣く泣く人に任せたのだ。
「あ、ほら玄関で待ってくれてるみたい。じゃあ、行くね」
玄関にはこちらを見てぺこりと頭を下げるメイドさんがいた。おそらく永久子が手配した、朝霧のお守りであろう。
「ばいばい」
別れの言葉を言い、数歩あるいたあとにピタリと止まる朝霧。
そしてくるりと振り返る。
少し俯いて、胸元で手を組みもじもじしている。
そしてちょっとだけ照れ臭そうにニヨニヨした後…
まゆをさげ、瞳をきゅっとほそめて、くちもとを二っとしてわらう。
「…ありがと!」
そう言い残して朝霧は、たたたっと走って行ってしまう。
すこし紅くなった頬、翻るスカート、なびくサイドテールとリボン、走っているのに遅い足。全てがいとかわゆし。
残された一年七組の面々はまた、情緒を破壊されることになるのだった。
ーーーー
「とても似合っておいでです」
「そう?変じゃあない?」
「とっても可愛いです」
「へへ、よかった」
朝霧のメイド服は永久子が用意したもので、和服ベースの割烹着風メイド服であった。
とても愛らしい朝霧の姿に、周りのメイドの顔も綻んでいる。
ちなみにこの朝霧のお守りを任されているメイドは、永久子付きの従族家こと糸目の壬生沙那恵の妹で、名を壬生与志恵と言う。
姉とは似ない、ぱっちりお目目の中学一年生だ。ちょっと感情の起伏が乏しいタイプだが優しい良い子である。
「えっと、僕はこの後の何すれば良いのかな?」
「朝霧様は、この後新学期の会議を終えた皆様方にお茶をお出しする係です」
「そっかわかった。教えてくれてありがとう」
「いいえ。皆さまが戻るまで、本日のスイーツを召し上がられますか?」
「いいの?良いのなら、食べたいなぁ」
「ご用意致しますね」
口元だけで微かに微笑む与志恵ににっこりする朝霧。そして甘味と紅茶をお給仕をしてもらう。
朝霧は幸せだった。
朝はあんなに不安だったのに、クラスメイトがあんなにも良くしてくれたからだ。
謝ってよかった。心から謝ってよかった。そして許してくれてよかった。
いい人達とクラスメイトで本当に死ぬほどよかった。
まだ謝らないといけない人はいっぱいいるが、ひとまず今日はこの喜びを噛み締めよう。
と。
思っていた朝霧が…
…そんな朝霧が幸せにまみれていたのは、ここまでだった。
「アサギぃッッッッッ!!」
そこに、九醸明咲の怒声が響き渡ったから。




