登校する。
朝霧は今、非常に緊張していた。
なぜならこれから、教室に入らねばならないからだ。
「ふぅぅ、だいじょうぶかなぁ」
そう、朝霧は今更ながらに思い立ったのだ。
もしかすると、もしかしなくても「自分って気持ち悪い存在なのでは?」と。
本当に今更、性転換してしまったことへの戸惑いが生まれていた。
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朝は永久子が起こしてくれて、永久子が髪を整えてくれて、永久子が女子の制服を着せてくれた。
「制服、すごく似合ってますわ!」
「へへ、そう?」
髪はサイドテールにされていて、上品な細身のリボンが添えられていた。
スカーをひらりとさせて回って見れば、ことの他永久子が喜んだので、もう一回だけ回った。
そのあとは永久子が作ってくれた朝食を一緒に食べる。
「焼き鮭おいしーい」
「よかったですわ」
ほうじ茶を飲んで一服した後、二人は登校する。
広い三御坂学園の敷地内を、鳳雛館から高等部まで歩く。
九月の早朝は、ほんの少しだけ秋が混じっていて爽やかだ。
「はぁ、きもちいいね」
思わずそう言って微笑む朝霧。
すると…
「おい、あの三世様のとなりにいる人は誰だ?」
「永久子様とあんなに親しげな人、いたかしら…」
「おいおい、あんな美少女いたぁ!?いねぇよなぁ!?」
「転校生じゃね?あんな美少女一度みたら忘れねぇよ」
「え、かわい、やば」
「はーい、あの謎の美少女のファンクラブ入る人、この指とーまれ」
「おいおいおい、その指止まるわ」
「群がるわ」
周辺の朝練をしていた生徒達がすぐに朝霧の噂話を始める。
何を言っているかまでは良く聞こえないが、自分の事を言っているのは何となくわかった。
「朝霧さん、早く行きましょう」
「う、うん」
長居しては絡まれそうだと感じた永久子は朝霧の腕を引いて学園に向かう。
腕を引かれる朝霧は、戸惑いを感じていた。
今まで悪目立ちすることはあっても、こんな興味深そうに見つめられることはなかったからだ。いや、気にしてなかったからだ。
そう。実は朝霧。今の今までずっとテンパっていたのだ。
勘当され、性転化して、性転化の手続きして、生活の目処をつけて…
ずっと気を張ってやってきたのだ。昂ぶりすぎないよう、冷静が仕事していたし、挫けないように忍耐が仕事していた。
だけどずっといっぱいいっぱいの興奮状態だったのだ。
それが、永久子にお世話されまくったせいで、すっかりリラックスしてしまい、そのせいで素に戻ってしまったのだ。
そして、素の自分が、女生徒の制服を着る自分を客観視する。
それにより思い至る。
もしかして、今まで散々威張り散らしてたデブが、しおらしく女生徒の制服着てる今の状況って相当にキモいのではと…
人から注目を集めたことで、思い至ってしまったのだった。
ーーーー
その日。
始業式の後のホームルームで、担任の吉永が衝撃の報告をする。
なんと、あの九醸朝霧が性転化を患い、女性化したというのだ。
そして、その関係で林間学校での例の事件の処罰を謹慎から奉仕活動に変更したため、本日から通学するのだという。
クラスメイトはざわついた。そして吐き気をもよおした。
あのデブがそのまま女性化した様を想像してしまったからだ。
「オエ、最悪だぜ。性格も見た目も最悪になったってことかよ」
「ああ、やだ、一生謹慎しときゃいいのに」
「女子一人強姦仕掛けといて、どのツラ下げてくんのかね」
「はぁ、いやだわ。面倒くさいことになりそう」
「強姦未遂なんでしょ?一緒の教室とか嫌すぎるわ」
「最悪だよね。もう学園に来なきゃいいのに」
言い放題にいう生徒たち。このクラスは問題児である朝霧を迎えるクラスだけあって、意思の強い生徒を集めていた。命令されても毅然と断れる生徒を集めたのだ。
「はい、静かに」
そんな生徒を見やり「どうなるのかな、これは」と思う。
このクラスを受け持ってきた吉永は、クラスメイトの人なりを理解しており、それ故に、ここまでの発言が盛大な前振りにしか思えなかった。
なんとなく、この後の流れは読めた。
「では九醸さん。入って来てください」
静まるクラスメイト。
沈黙が広がる。
カタンとなる、教室の扉。
入ってこない。
「……朝霧さん?」
先生が扉を開ける。そこに誰もいない。
先生が下をみる。そして先生もしゃがむ。どうやら朝霧はしゃがんでしまっているらしい。
「…緊張するの?吐きそう?大丈夫?」
先生のかける言葉が優しい。ここでクラスメイト達はなんだかおかしいぞと思い始める。
「いける?頑張れる?」
そう言ったあと、先生は教卓に戻る。
「それでは九醸さんどうぞ」
そして、再度そう言った。
「……はい」
消え入りそうな愛らしい声。胸の奥をくすぐるような甘い声だ。
そして次に見えたのは小さくて細い手。
デブのむくんだ手ではない。
クラスメイトは息を飲む。
顔が出てきたからだ。
さらりと揺れるサイドテール。
さがりまゆと、涙が滲むふるえる垂れ目、くちもとはふにゃふにゃしておぼつかない。
小さい美少女。乱暴にしたら簡単に折れてしまいそう。なんでそんなに怯えているのか。
怖くないよと撫でたら微笑んでくれるのか?大丈夫だよ危害なんて加えないよ安心して。
そんな思いが圧縮されて渦巻く、クラスメイトの胸の内に。
クラスメイトの全員が思った。
貴女は、誰ですか?




