バイトが決まる。
「朝霧さん、いいですか?」
「はい、なんです先生」
「私もご一緒しますから、事情を話してご実家に勘当を解いてもらうのは如何です?」
それは教師として当然の提案である。
庇護を受けるなら、当然実家から受けるのが自然だ。
「や、です」
しかし、朝霧は首をふる。
「多分、僕は、あの家にいない方がいいと思う」
朝霧は今までの人生を冷静に分析して、一つの結論を出していた。
祖母にそっくりとなった自分が実家に帰れば、多分だが母と祖父は駄目になると。
多分、いや絶対。この姿で帰れば母と祖父は受け入れる。
だが、それは自分を受け入れるのでは無く、亡き祖母のうつしみを受け入れるのだ。
母と祖父は未だに祖母の死を引きずっていて、目元が似ているというだけで朝霧を溺愛する始末。そこに祖母そっくりとなった朝霧が帰れば、多分なにかが狂う。二人の祖母への思いには狂気じみたものを普段から感じていたから。
当主である母と先代当主の祖父が狂えば、それは九醸が狂うということ。
そこまで大規模に狂わなくとも、家庭は確実に狂う。
そうなれば、父と姉と弟に被害が及ぶだろう。
だから、実家からは距離を置いた方が良いと、そう朝霧は考えた。
姿はともかく、どうせ人格は見限られているのだ。その方がいい。
きっと、その方がいい。
「だから、絶対に家にはいきません」
勘当されたのは、良い機会だったのかもしれない。
「……わかりました」
本人がそう言っていて、九醸が勘当という体をとっている以上、吉永に出来ることはない。
何より、吉永自身も朝霧は家を出た方が良いと感じていた。そして彼女は自分の教師の勘は存外当たると自負していた。
「さて、話はまとまったようだね。では細かい契約を詰めようか」
刀子理事長がパンと柏手を打ち、場を切り替えたのだった。
ーーーー
その後。
各種書類を書いて、朝霧は仕事に関しての手続きを終えた。
九大家の権威や歴史を背景とした「九家法」に基づく正式な書類だ。
この「九家法」による契約をしておけば、例え九大家でもたやすく解約はできない。
因みに朝霧は契約書を読んでも全く理解できなかったので、吉永と永久子に確認をお願いした。
刀子はそれに「おいおい、二人とも私側の人間だぞ。信じて良いのかい?」と笑いながら聞いてきたが、
朝霧は「二人が僕を騙す気なら、どちらにせよ僕には分かりませんから」と返した。
加えて「それに僕はもうお二人が好きになってしまったので、騙されても嫌じゃありません」と柔らかに微笑むものだから、件の二人は超真剣に書類を精査せざるをえなくなった。
こうして全てを終えた朝霧は帰宅を果たす。
帰りは永久子に車で送ってもらった。お弁当も買ってもらったので腹も膨れている。
帰宅後の朝霧は疲れきってしまい、上手く体が動かなかったが、なんとか這って寝床にたどり着く。
そして風呂も入らず寝に入った。もう限界だったのだ。
「ぅ、ねむ、あしたは、早速ばいと…」
明日は研修という形で早速お勤めをすることになった。
なんでも生徒会の会合があるらしく、それにお菓子を持っていくだけのお仕事らしい。
「おやす、みぃ」
こうして朝霧の長い一日はようやくの終わりを迎える。
夏休みが終わり、始業式が始まるまであと二日。
朝霧の人生は果たしてどうなるのであろうか。
「ぅ? なんかだる、あつ…」
そして朝霧は気絶するように寝入った。




