出来ること。
永久子が一本の電話をして数分。
「ふははははっ!待たせたね、若人達よっ!」
大柄な女性が扉を開け放つ。彼女こそ三御坂学園の理事長、三世刀子である。
「お母様、知恵をお貸しいただきたいですのっ!」
「ああいいよ、なんでも言ってごらん」
学園長に飛びつく永久子と、それを受け止めてにこやかに微笑む刀子。朝霧はそれを羨ましそうに見つめた。もう、母には見限られたと思っているから。
そして永久子は説明する。朝霧の境遇、朝霧がいかにドジっ娘メイドか、そしていかにしごできないか、それらを端的に説明した。
「ふむ、要はこの子にメイド服を着せつつ、合法的に金銭を与えてやりたいと言う事だね?」
「その通りですわっ!まとめると酷い内容ですわっ!」
「それなら、無いではないよ」
「ほんとですの!?」
「ああ、ただそれには…」
そこで刀子は朝霧を見やり、しゃがみ込む彼女に目線をあわせると顎クイをした。
「朝霧くん。君には大事なものを一つ捨ててもらわねばならない」
「だ、大事なものですか?」
なんだろう、えっちなことだろうかと思いつつ朝霧は刀子を見つめた。
「それはプライドだよ」
そんな朝霧に、刀子はそう答えるのだった。
ーーーー
三御坂には付属の幼年部がある。要するに九大家御用達の幼稚園だ。
そこの児童の中で有力な、学園入学と鳳雛会入会がイコールの優秀な子供。
そんな子らは、幼年部から鳳雛館に出入りをする。
使用人達のお手伝いという名目で、鳳雛会の面々に顔見せするのだ。
女子は可愛く飾ったメイド服で、男子は凛々しく飾った従者服で。
鳳雛会のお兄様お姉様方にお給仕をしたりしつつ、可愛がってもらい交友を図るのだ。
その際、ちょっとした洒落のようなもので、お給料として五百円を一枚支払うのだ。
その機会に初めて硬貨に触れる児童も多く、ちょっとした思い出となるらしい。
「つまり幼年部の子らがやるような、簡単なお給仕をするだけでいいんです?」
「ああ、時給五百円に加えあまった軽食を賄いとして持たせよう。他にも入り様な物があれば、強請ってもいい」
つまり幼年部がやるような「お遊び」の仕事を、朝霧の「バイト」として斡旋するというのだ。
「お、お母様、それは、えっと…」
言葉に詰まる永久子。
「理事長、それは流石に…」
吉永も同じように詰まる。
「だが、これなら永久子の望み通りだが?」
そう、望み通りである。
これなら朝霧はメイド服を着て仕事をする事ができる。
しかも使用人と同じお仕着せでなく、朝霧様にあつらえた特別可愛いメイド服を着せられるのだ。
時給は五百円だが、賄いを持たせれば食費が大分浮くので給料以上の利益となるだろう。
仕事内容はあって無い様なものだから、無能の朝霧でも問題ない。
むしろ可愛くおめかしした朝霧を座らせておくだけで十分有益といえるだろう。
まさに望み通りだ。
一つ問題があるとすれば、これは誰がどう見ても「施し」であると言うこと。まあ、実際施しであるのだが。
幼稚園児がやる様な事をやらせて、それで少しのお金と食事を与える。
それは最早ペット扱いである。九大家の子息にする扱いでは無い。
確かにこれなら不満も出ない。誰もそうは扱われたく無いのだから。
先程、刀子が言った「プライドを捨てる」とはつまりそのままの意味だ。
刀子は朝霧に「うちのペットになるなら便宜をはかってやるぞ」と、そう言ったのだ。
「では朝霧くん」
「はい」
不敵に微笑む刀子を朝霧はじっと見上げた。
「改めて聞こう。君はやるかい?プライドを捨てて鳳雛館のペットを」
そう問いかける刀子に朝霧は。
「はい!ペットやります!がんばります!」
そう、プライド無く言い放ったのだった。




