お説教される。
その後、吉永の説教は一時間続いた。
曰く、謹慎とは自宅謹慎のことで、家から一歩も出ず大人しくして粛々と反省するものだと。勘当されてアパートに移されたのだというなら、そこで謹慎し出歩くべきではないと。
貴方はそれだけ卑劣で下劣な行いをしたのだと。
そう言った事を強姦未遂の件も再度詰める形で、こんこんと一時間かけて説教した。
まあ、吉永的には説教は五分でよかったなと思っている。
何故なら…
「ご、べんっ、な、ざぁ、い」
子供の様に泣きじゃくる朝霧がいた。
もう彼女は、開始五分からずっとこの状態である。今ではもう声も枯れてしまって可哀想だ。良心が痛んで痛んでしょうがない。
ただ、謹慎中に出歩いたことはやはり問題で、事情があるにせよお咎め無しとはいかない。
事情があるのならまず学園に一報を入れるべきだし、そうする様に謹慎開始時に説明はした。あくまで破ったのは朝霧だ。当然親側にも監督不行き届きとして抗議を入れるが、向こうは現役の九大家なので強くは言えない。ので、こちらに言うしかない。
だから、体裁上一時間はしっかり叱らねばならないが、嫌で嫌で仕方がない。可哀想すぎて見ていられない。少しでも早く終わらせたくて、時間オーバーしないよう何回も時計を見ている。早く終われ、早くおわれ。担任の吉永はそう願い続けた。
「……では、今後は気をつけるように」
「は、ぃ」
「ちょっとそこに居なさい…」
「…はぃ」
しおしおと萎えた朝霧の姿に胸が痛む。
吉永は踵を返し、早足でスポドリとのど飴を調達しに行った。
自販機でスポドリを買い、売店で蜂蜜のノド飴を買う、タオルを濡らして絞る。
そうして直ぐに朝霧の元に行こうとした際に…
「災難でしたね吉永先生」
「え?」
同僚の体育教師、獅童が声をかけてきた。
この男は九大家の一つ四天家の分家筆頭の家柄でつまりは名家の出だ。
名家の出ということを傘に着て生徒に横柄な態度を取る。そのくせ身分が上な九大家の面々には媚びへつらう人間で、生徒にはとても嫌われている。
ちなみに吉永は七星家直系の男が他家に婿入りして生まれた娘なので、獅童も一目置いていた。
「あれ、強姦騒ぎの九醸朝霧なのでしょう? どうやらまた問題を起こしたみたいですね」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて近寄ってくる。
彼はこうして朝霧をこき下ろすのが好きだった。本来敬わねばならない九大家の人間を蔑める快感に酔いしれているのだ。
「アイツは本当に何をやっても駄目な奴だ。それに加え、性転化も患ったんですって?」
朝霧は対外評価が低く、九大家でありながら、陰でこき下ろす分にはかまわないという風潮があった。
「女性化して早々に女の服を着れるとは、きっと奴は変態ですよ気持ち悪い。流石、性犯罪を犯す奴は違いますなぁ。あんな生徒を持って、先生は本当にお可哀想だ」
同情する様にしてひたすらに朝霧を蔑む獅童。問題ばかりの九大家の面汚し。朝霧を蔑むのは許される行為だ。
「喋らないで下さい、息が臭い」
「え?」
そう、今までは。
「…………なんでもありません。すみません獅童先生、急いでますので」
「あ、え? ちょっ、吉永先生!?」
今までは、「よして下さい獅童先生」と苦笑いで済ませていた。
実際に朝霧は問題行動が多く、そして成績も悪い。なのに本人は全く反省をしない。故に、悪しように言われても否定しきれなかった。
しかし今の朝霧は違う。どう見ても演技でない痛々しいほどの反省をしている。
性転化した彼女はとても素直だ。それは、この一時間の説教で嫌というほどわかった。
お馬鹿さは加速しているように見えるが、とにかく素直だ。
色々あって、冷静に自分を見つめ直す機会に恵まれたのだろう。傲慢さと偏屈さが消え失せている。
そして。
何より。
かわいい。
とんでもなく。
濡れてきらきらとする瞳。ぽろぽろと溢れる雫。下がりきった眉にふにゃふにゃになった口元。全身を震わせ、叱られた仔犬のよう。
度を越した美少女の泣き顔は、愛おしすぎて可哀想すぎて、吉永は何度心が折れそうになったかわからない。良く一時間耐えきったと己に賞賛を贈りたい程だ。ここで甘い顔をしては朝霧の為にならないという想いだけで彼女はやりきったのだ。
強姦未遂というとんでもない罪があるし、謹慎なのに大人しくしていない。
たしかに朝霧は良い生徒ではないのだろう。
だが。しかし。それでも。
今の吉永は、朝霧を悪く言われて笑って済ませる事が、出来なくなってしまったのだ。




