141. パッチ説明ライブvol.1(前半)
その告知は唐突にプレイヤーへ知らされた。
表に出ず、影の薄かった運営からの最初のコンタクトは、張り手で投げ飛ばすようなもうちょっと加減してくださいと言わんばかりの情報量を伴って、お知らせとして各個人と、三国のユニオン前に立て看板として出現した。
ひとつ、大規模なアップデートを行うということ。
ふたつ、アップデート後、公式イベントを行うということ。
みっつ、リアル側との各種コラボを行うということ。
よっつ、アンバサダーとしてあるてぃめっと社所属Vtuber天土うららを起用したということ。
いつつ、それら全ての説明ライブを、「ゲーム内にて」行うということ。
先立ってパッチノートも公開されたが、大きなところから小さなところまで、かなりの分量と文量となっており、活字中毒者以外は読むことを断念したとかなんとか。
「デリバリーにお届けに上がりやっしたー」
「あ、こっちこっち! ここ並べて!」
「ボケが潰されて悲しい」
「配達とお届けを重ねるなんて分かりづらいのに突っ込まないよ」
本日は珍しいことにエールズの箱庭で、集まれるいつものメンバーで一緒に説明ライブを鑑賞しようの会だ。ぱっと見でもモルトとネネ、リト、リーナ、ギャジー、ステッラ、シェフレラの姿が見える。エドベルが居ないのは、プレイヤー会話が多くなることを見越してだ。一応、一緒に放送を見ることは出来るらしいが、どういう変換をされるのかとか不安が多すぎてご遠慮いただいた。いっそ住人は見れませんの方が考えることは少なくていいのに。まあ、彼も用事があるとのことで、丁度良かったのかもしれない。……住民、基本的にライブ時に予定があることになってませんかね??
「ところでリーナとギャジーさんや。その手に持ってるうちわはなんだね?」
「いや俺は別に! 持たされただけで!」
「良いでしょぉ〜! デコうちわ! うららちゃんが出るって聞いて作ったのぉ」
「なるほど推し活」
ギャジーがまだ言い訳めいたことを述べ連ねているが、お前がファンなのは周知の事実だ。本人隠してるつもりなのが哀れ。
そんな一幕もありつつ、ライブのために設置できるようになったとお知らせが来ていた、大型スクリーンの前に集合。横長テーブルと丸椅子を用意し、その上に持ってきた料理を配置してしばし。
『あー、あー、テステス……これはいってる? え? もう開始してる??』
中空に浮かんでいた半透明のウィンドウが透明度を無くし、三人の人物が表示されてパッチ説明ライブはスタートした。
『どうもこんにちはー、リアルだとこんばんはー。運営Aです』
『オイ馬鹿! リアル視聴連動用の機材まだ一般販売されてねえんだから! あ、どうも運営Bです!』
『Bさんのほうがアウトだと思いますよ……みんなー! こんつち〜! 万物を我が手に! 天土うららです。今回は、ホルトゥム・ネクソムの公式アンバサダーとしてお呼ばれしました! 司会進行と初心者目線で質問などをしていきます! 初めての方もいつもの方もよろしくお願いしますねっ』
入りからなんかちょっと聞いちゃいけないことが耳に入ってきたが、おおおむね平和なスタートと言える。うちわを振っているリーナと控えめに揺らしているギャジーが視界に入っているが無いものとして。あ、レラにもリーナがうちわ渡した。それぞれ自己紹介を始めるライブ側の三人に対して平等に振ってるのが可愛いね。
『さてっ! 自己紹介も終わったところで、早速進めたいと思います! いやー、台本貰ったらあまりの分厚さに正気か? って突っ込みましたよ』
『お手数おかけします』
『ふふふ、お仕事ですからね! それにわたくし達、Vの者にも嬉しい機能が満載のアップデート! ではその気になるアップデートの内容を順に見ていきましょう!』
いやもう出るわ出るわ、小さいのから大きいのまで。話していて気になるところは大型スクリーンに付属している機能の、ライブ辞典と呼ばれる小ウィンドウで詳細が見れる。これは見ている人がそれぞれ手元で展開できるやつで、パッチの説明が項目ごとに収納されているみたい。話している内容と連動して強調表示がされるから、見つけやすい。もちろんそうじゃない部分への検索機能も完備。
スキル威力調整、シナジー調整などの戦闘系の他に、基本素材の追加、使用率や取得率の低いスキルへの導線としてお助け機能の建物が新設……これは役所として中央交易区にできる模様。あとは天気予報や運勢占いなどのちょっとした遊びを提供してくれる住人の追加、箱庭で選べる地形の追加、交易区の整備クエストの追加……等々。
『さて、では次は皆さんお待ちかね! インベントリの追加についてです! ――今までインベントリなかったってマジですか』
『はい。オーナーの意向で実装されていませんでした。ですが渡り人の皆さんからの要望も多かったですし、私たち運営側でのテストプレイや運営側で実際に遊んでる者からもあったほうがいいという声がありまして、この度実装されることに』
『まあオーナーも遊んでみてある方が何かと便利だって思い知らされた感じですねー』
『なるほど……今までの方々はその中でも工夫されていたと聞いていますが、剛の者と言うしかない』
『一部、この不便さをリアルさと捉えて楽しんでいた方も居るのは把握していますので、設定からオンオフは選べるようにしてあります。パッチが当たった後、デフォルトでオンとなりますので、今までのようにインベントリいらない勢はオフにしてください』
「話題になってたわね」
「卸問屋としては優位性無くならないもんなの?」
「無限インベントリじゃない限りは影響は微々たるものよ。むしろこっちにも利が大きいわ。それにRP勢でインベントリオフにしそうなのは一定数居るし、そういう方々にもご贔屓にしてもらえてるからね」
「謎の手広さ」
ステッラから遠いところの飲み物を取ってやりながら、何気なく聞いてみれば嫣然と微笑まれた。私自身はインベントリ大歓迎派である。やっぱりなんだかんだ不便だったんだわ。
『アップデートの項目は半分くらいきたか』
『ちょっと疲れたねー』
『では一旦休憩……の前に! 少々お時間頂いて、わたくし天土うららについてを! 最初にサラッと自己紹介しましたが、今後どのようにこのゲームと関わらせていただくかを、Vの者に嬉しいアップデートと共にさくっと語らせていただきますっ』
「きゃー! うららちゃ〜ん!」
黄色い野太い声をBGMに手作りポテトチップスをつまむ。追加素材でスパイス類が手に入るようなら、自家製コーラも夢ではない。映画じゃないけど映像見ながらざっくり食べるのにはピザとコーラとポップコーンだよな。そろそろトマトも欲しいですね。確かストゥーデフには苗があるんだっけ。
Vtuberも、昔は特別な感じだったけど、今となっては誰しもが自分のアバターを持っている時代。アニメ調かリアル調かは置いておいて、電脳空間で仕事もするような状況だと、アバターを持っていない人のほうがレアだ。
そんな中で彼ら彼女らは、その特性や自分の才覚を武器に、アイドル戦国時代もかくやという勢いで特色のある配信をしている。誰もがなれはするけど続けて知名度を上げるのが難しい。まあ、それは今も昔も同じ事かもしれないが。
横目でギャジーとリーナを眺め、はちみつレモン入りのソーダ水を流し込む。
推しが出てきて画面に釘付けの二人は、どこかキラキラとしていた。推しは生きる力と誰が言ったんだったか。大変な仕事だよなあと、画面の中の天土うららを見て、自分には無理だわと思うのだった。
一本に収まらなかった
なおこれを執筆最中にファンフェスの怒涛の情報量を叩き込まれてリンクするんじゃないよと思いました




