140.【運営】昼下がりの開発者たち
PCの操作音や何かをチェックする紙音が交差する室内で、稼働中のシステムを監視していた一部のエリアからけたたましいビープ音が鳴る。
「なんだ!? 障害か!?」
「あー、落ち着いてください主任。これお知らせ音なんだけでとくに問題は起きてないっす」
「……えらい不安を掻き立てるお知らせ音だな。変えてくれよ。で、なにがお知らせされたんだ?」
「んー、と。おい、これどのやつ?」
チームメンバーに確認を投げる開発リーダーを横目に、自らも大きな変化がないかをチェックする。これだろうとあたりが付いた段階で、メンバーから意見を吸い上げた開発リーダーからもまったく同じことが告げられた。
「初めての修復が行われたみたいっすねえ」
「予想より大分早いな」
「一応そのパターンもシミュレーションされてましたけど、確率としては低かったっすから」
「どれどれ……これはまた……頭二つ分くらい抜けてないかこのプレイヤー」
「地雷原でタップダンスでも踊ってるのかってくらい、ピンポイントで引き当ててますねー」
「その例えどうなん」
思わず半眼になるが、開発リーダーはどこ吹く風で複数ウィンドウを立ち上げチェックを始める。結果、早いことは早いが特に問題はないとのことで、大半のメンバーを元の業務へと戻した。
「ああ、おい。お前はミーティングルームだ」
「ええー」
自身も戻ろうとしていた開発リーダーをひっ捕まえて、あと数名の各部署のリーダーもピックアップし空いていたミーティングルームへと連れ込む。
「なになに、どした」
「恋バナ?人生相談?」
「なんでだよ」
企画リーダーとデザインリーダーの軽口を交わしつつ、まだ文句を言っている開発リーダーの頭をはたき、映像音響とシナリオ班があとから来るのを待ちつつ広報とコミュニティ班へと連絡を入れる。
「はいはーい。呼ばれて飛び出て広報だよー!」
「おう、きたか。そろそろフェーズ2に移行すっぞ」
「えっ!? もう? 早くない!?」
元気よく片手を上げて入ってきた広報の責任者にフェーズ移行の宣言をすれば、眼を丸くして大げさに両の手を開く。いちいちオーバーリアクションなのはこいつのキャラ付けなので、こちらも気にせず要点をまとめたデータをミーティングルームに展開した。
第一フェーズは情報収集が主体だ。公式に設置されている掲示板ではやれ広告が下手だのユーザー数が少ないだのと言われているが、それが「あえて設計された」ものだということを看破している奴は見当たらない。ある種のベータテストに近いが、扱いとしてはきちんとローンチしている状態。そうでなければ集まったデータの方向性がブレる。
初期段階はゲーム自体が人を選ぶ設計になっていることもあって、運営会社の親会社が保有する数多くの情報からマッチング度の高い人選が行われている。もちろん、表に出している以上、まったく関わりのない一般ユーザーも流入しているが、大多数がふるいにかけられた状態でスタートした。ただ、それも「ゲームの情報を与える」だけに留まり、実際にプレイするかどうかは個人によるので、ターゲットになっていてもプレイしていない層もある程度いるだろう。
こんな、営利企業としてはめちゃくちゃなことが実行されているのも、ここのボスがこのゲームで儲けようと考えていないのが原因だ。なにせ、彼女がほぼ100%の出資者で、さらに作成理由が「自分がプレイしたい世界を作れ」との理念。理念でもない、ある種の趣味と言っても差し支えない。それが出来るだけの権力も人脈も財力も揃っていたから今がある。
……とはいっても、どうせ作るならある程度、基本コストくらいはペイしたいなとのことで、マネタイズ計画もきちんと走っている。大きな金と人が動くことも見越して法人化もしているのだから、趣味と言うにはスケールがでかすぎる。デカいのは胸だけにして欲しい。金を使っても増えていくなんて言ってみてえよクソが。
「おさらいすっぞ。第一フェーズから第二フェーズへの移行トリガーは世界の初修復。で、これがついさっき行われた。第二フェーズでの初手はー?」
「はい! 公式イベント!!」
「ちょっと飛ばしすぎだな」
「大型パッチあて!」
「間違っちゃいない」
「集収データから分析した各種バランスやシステム調整」
「うん、溜めずに随時やってこうな?」
「僕も呼ばれてるならあれかあ。広報の方針転換」
「いぐざくとりぃ」
「めっちゃ日本語発音」
「うるせ」
広報責任者から正解が出たところで、壁面に映しているデータを切り替える。
広告費の変化、頻度と量、それからゲームへの人口増加の予想図。どれもが右肩上がりのグラフとなっており、違う図を出しているのは流入経路の設定くらいだ。
「1週間後から切り替える。開発はパッチ作業やりつつサーバ動向チェックしとけよ。第一回公式イベントの仕込みもほぼ終わってたな? コミュニティ班は……来てないな??」
「あいつらならビープ音がなった瞬間別室に入ったよー」
「一番忙しくなるだろし、あっちでコラボ関係も最終チェック持ってるでしょ? ま、もともと計画の概要は最初に認識合わせしてるから、あとで軽く話すくらいでよくない?」
「あー、まあ、そうか。公式のパッチ説明ライブやるんだっけか」
「ゲーム内告知が3日後、ゲーム外が10日後、実施がその2日後」
「パッチ当てるのメンテ有り?」
「いんや、切り替え時は本サーバからサブサーバに流して処理。メインからサブに流すときに瞬断はあるけどコンマ数秒っすね。ステージングで粗方チェックも終わってるんで、本番に当てるのはー……んー、一週間あれば可能? いくつかシナリオ飛ぶのと進行度調整しなきゃなのあるんで、あとで話させてください」
「おっけぇい」
「じゃ、それ待って実際にパッチ当てる日をコミュニティ班と調整するか」
各チームとの調整、情報のすり合わせとスケジュールの確認がそれぞれ行われていく。必要なときは主任が壁に映す情報を切り替え、足りない分は口頭やホワイトボードで補足。それぞれが第二フェーズへ必要な行動を整理し終えたところでミーティングは解散となった。その流れで参加していなかったコミュニティ班のミーティングルームへと足を運ぶ。
「よお」
「あっ! すみません! もう終わっちゃいました??」
「あっちはな。こっちは?」
「ようやくコラボ相手への連絡優先順位がつけられたとこですぅ……」
「対応人数増やすか?」
「そうしてもらえると……あと窓口用AIも追加してください」
「解った。他には?」
「いま考えられないんでとりあえず」
「コラボ用のリアルグッズ監修に広報からヘルプ入れとくわ」
「あっそれ! それ助かります!」
フェーズが早まって一番割りを食っているのはコラボ関連だ。もともと大きいところにはリリース前から声をかけていたし、個人や小規模なコラボ先には第一フェーズ中に話を進める算段だった。声掛けや承諾を受けたコラボ先との契約はかろうじて間に合っているものの、リアルの物品やゲーム内物品のチェックが終わっていない。こればっかりは相手のあることなので、社内だけのスケジュールでおさまらないのが困った所。それでも最低限はどうにかなりそうらしいと確認がとれたので、自分のデスクへと戻ることにした。
戻ったとは見落としがないか再チェック。進行管理表とにらめっこしつつ、対外スケジュールに上への報告書など、必要なことをこなしていく。
雑用じみたことだが、雑用で仕事が滞り無く進むのならこれもまた重要な作業。
変更点一覧を開発リーダーから投げられ、矛盾や問題点がないことを確認してコミュニティ班へと連携しながら、常に立ち上がっている監視機構でゲーム内をザッピング。聖堂が建ったことを見つけ、ピン立てしながら伸びをした。
「さあて、いっちょ気合い入れますか」
運営のキャラ設定を詳細にすると手がつけられなくなるのでふんわり
フィーリングで感じてください
なお主任はあだ名で彼の役職名ではありません
全部署のまとめ役のとってもえらいひとだよ




