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49話 魔獣再び

「ま、魔獣!? どうしてこんなのが、ここにいるんだ!?」


「……魔獣……」


 エレスとダイアは、初めて見る魔獣に驚愕している。


 魔獣ディアボーンか。しかも二体いる。

 テメングラトの塔、第九階層にしかいないはずの魔獣が、どうしてこんなところにいるんだ?


 ……たしか鈴木が、『魔獣の餌になるんだな』とか言っていたな。

 だとすると鈴木(あいつ)か領主が、王国へ侵攻するために捕まえてきた……ってところか。


 ここにいつまでも、いるつもりはない。さっさとディアボーンを倒して、地上に戻らないとな。


「悪いな、エレス……ちょっと降りててくれ」


「まさか……君一人で魔獣と戦うつもりなのか!? 君一人じゃ危険だ。せめてダイアと一緒に……」


 肩に乗せた指に力がこもっている。心配そうな表情までしてだ。


「そう心配するなって。ダイア、エレスを頼んだぞ」


 背中のエレスをゆっくりと降ろし、ダイアに託す。


「……あなただけじゃ無理……エレスの言うとおり……私も戦います……」


 その気持ちだけで、俺は充分だ。


「ま、気にすんなよ。二人はゆっくりしときな」


 二人を入り口付近に残し、一歩ずつ進んで行く。


 相変わらず厳つい狼顔に、筋肉ムキムキの四肢と身体だ。


 低い鳴き声で、俺を威嚇している。


(わり)ぃな。お前らに構ってる時間はないんだ」


 グオオオオオっ!


 戦闘開始を告げる雄叫び。


 咆哮を終えるよりも早く、二体は同時に襲ってきた。


 一体目の攻撃を避ける。それをもう一匹がカバーするように連携攻撃を取ってくる。


 嘘だろ!?

 いくら知性があったとしても、魔獣(ディアボーン)が連携攻撃なんてしてくるのか?


 普段から群で狩りをするような生き物なら分かるが、こいつって一匹で狩りをするんじゃないの!?


 交互に攻撃を仕掛けてくるディアボーン。


 こっちも、そろそろ反撃といくか。


 グオっ!!


 横から薙ぎ払う爪の攻撃を、剣で受け止める。


 もう一体は素早く俺の背後に回り込むと、鋭い牙を剥き出し喰らいついてきた。


 この瞬間(チャンス)を待っていたんだ。


「どぉりゃああ!」


 ギャオオオオオ!?


 ディアボーンの絶叫が空間に響いた。


 一体目の腕を斬り落とすと、体を回転させ背後からのディアボーンの首を跳ね飛ばした。


 腕を斬り落とされた魔獣は、逃げる気配はない。


 こんな怪我を負ったら、普通は逃げると思うんだが……どうにもこも魔獣の行動は不自然だ。


 再び咆哮を叫び、俺を仕留めんとばかりに魔獣は飛び上がった。


 今度は絶叫も咆哮もする間もなく、ディアボーンは絶命した。


 一刀の元、ディアボーンの首を斬り落としたからだ。


 (あるじ)を無くした魔獣の胴体は、俺の横を通り越して床に落ちた。


 二人は唖然とした表情で、俺と二体の魔獣の骸を見ていた。


「……巨大な魔獣をいとも簡単に倒すなんて……君は本当に何者なんだ?」

「……おとぎ話に出てくる……英雄みたい……」


 魔獣を眺めながら、二人が歩いてきた。

 ダイアの肩に掴まるエレスはまだ痛むのか、歩きにくそうにしている。


「足、まだ痛むのか?」


「ああ。でも、君が背負ってくれたおかげで、幾分かマシになったよ……あの……その……ありがとう……」


 おおお!?

 ありがとうって言われたぞ!?

 頬も赤いし、エレスなんか照れてないか?


 痛みも引いてるみたいだし、よかった。


 今回のことで分かったが、回復魔法を覚える必要があるな。

 いつもエミリアがいたから、回復魔法を覚える必要がなかったが……また今回みたいなことが、無いとは言えない。


 俺は何気に視線をディアボーンに向けた。


 うん? あれは……なんか見たことがあるぞ……?


 ディアボーンの首に、首飾りが巻きついていることに気づいた。


 それは犬神を操ろうと鬼人傭兵団副団長が、俺たちに見せた首飾りだった。


 ディアボーンが直ぐに襲ってこなかったのも、二匹が連携攻撃を取ったことも、これで魔獣を操っていたからなのか。


 操っていた奴がいないか、部屋の中を見渡してみる。

 それらしい姿は、どこにもない。


 ディアボーンが敗れた今、操っていた奴はもう逃げたのかもしれないな。


 首飾りか……これを見ていると、犬神のことが思い出される。

 これは鈴木に問い質すしかないな。


 俺はそれをポケットにしまい込んだ。


 逃げ出した奴は俺たちが無事だと言うことを、鈴木に伝えるだろう。

 だとしたら、ここを出た場所で待ち伏せされている可能性も高いな。


「どうしたんだ、カケル? なにか難しい顔をしているが?」

「……なにか問題……あったの?」


「いや……うん。そうだな、二人に相談があるんだ」


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