48話 ミトとの絆
「なあ、あんたらさ。どうしてミトの護衛騎士なんてやってるんだ?」
地下の通路を俺たちは、まだ歩いていた。
まだまだ先が見えてくる気がしない。
黙ってまま歩くってのもなんだから、二人に聞いてみたんだ。
「……どうして気になるんだ?」
「いや……まあ、気にはなるだろ。どんな経緯でそうなったのかなぁ〜ってさ」
二十代前半くらいの女性二人が、護衛騎士の道なんてものを選んだのか。
気になるに決まってる。断じて暇潰しなんかじゃあない、うん。
「……そうか。気になるのか……いいだろう。話してやろう……」
おお、意外だ。
君に話す必要はないだろう、とか言われるかと思ったのに。
エレスとダイアは、代々騎士を輩出してきた名門貴族。
で、エレスには上に三人の兄がいるそうだ。
その中でも優秀だったエレスは、兄たちに妬まれていた。
事あるごとに、兄たちに特訓と称して虐められていた。
兄たちに逆らうことも出来ず、数年が経過した。
その後のことだ。
エレスは騎士として王宮に入ることとなる。
気が強くて優秀とくれば、他の連中に目をつけられることになる。
実家にいたとき以上の嫌がらせを受けるんだが、彼女はそれを物ともせずに日々精進していく。
それをミトに見染められ、エレスはミト専属の護衛騎士となった。
「そのときに、男は嫉妬深い生き物という事を、私は知った。だから苦手なんだ男は……」
だから男の俺に、妙に冷たかったのか。
優秀ゆえの嫉妬か。俺の場合は妬みじゃなかったが……この子もハードな人生を歩んできたのか。
「ダイアはどうなんだ? やっぱりエレスみたいな感じだったのか?」
俺の問いに、ダイアは無言で首を降る。
エレスの話によると、ダイアの家は女性の権威が強く、養子の父親には発言権はなかった。
それが理由かどうかは分からないが、彼女の父親は別の屋敷に住んでいたそうだ。
使用人に至るまで、全員女性の中で育った彼女は、王宮に入るまで男性と話す機会がほとんどなかった。
当時そんな環境で育った彼女だからだろう。ダイアは、男性の前に立つと緊張し、上手く喋れないそうだ。
どおりで俺が側にいるときは、あまり話さないわけだ。
そんな少ない女性の友達がエレスだそうだ。
ダイアも優秀で、王宮内の騎士たちの中でも目立ったそうだ。
ただ控えめな性格が幸いして、エレスと同じような嫌がらせとかは無かったらしい。
エレスと同じで、ダイアもミトに見染められ、護衛騎士になる。
二人の実力を見抜き、自分の護衛騎士に抜擢したミト。
……ちょっと待てよ。これ数年前の話なんだよな。
ミトって十四、五歳にしか見えないんだけど。
「……その話は、いつの頃の話なんだ?」
「そうだな……今から六年ほど前のことだったな。今でもよく覚えているぞ」
幼いミトはエレス達の才覚を見抜き、採用したってのか? 末恐ろしい幼女だ。
抜擢されたから、ミトに忠誠を誓っているのか。
でも忠誠以上の何かが、この二人にはあるような気がするんだが……
「それで二人はミトに恩を感じて、忠誠を誓っているのか……」
ダイアとエレスは、二人揃って首を横に降った。
「……それは……違う……」
「そうだな、違うな。王族に対して忠誠を誓うのは、当然のことだ……でも、私たちはミト様にそれ以上の恩義があるのだ」
護衛騎士に抜擢される前のことだそうだ。
王宮に上がったとは言え、彼女たちは十代半ばの少女たちだ。
その日、宝物庫の見回りの仕事を頼まれた二人は、つい宝物庫の中に入って、いろいろ見て回ったり、触ったりしていた。
当然、事件は起こるべくして起こった。
国宝級の宝物に触れたとき、それを壊してしまったのだ。
それは直ぐに当時の上官の知ることとなる。
もちろん、国王にもその報は伝えられた。
国宝級の宝物を破壊したとなると、彼女たちの責任は重く、下手をしたら極刑の可能性もあったそうだ。
その時ミトが現れて、父親の国王にこう言った。
――国宝を壊した? お父様……彼女たちこそ、将来王国にとっての宝。それを壊そうとするお父様こそ、重罪人ですよ。
九歳かそこらの少女がそんなことを言ったばかりか、国王を重罪人呼ばわり。
父親もさぞ驚いただろうな。
ミトに諭され、国王は二人を許したそうだ。
その代わり数ヶ月は王宮の掃除という罰を、きっちり与えられたらしい。
「私たちは、ミト様に命を救われた。その恩義を返すためなら……この命、惜しくはない」
「そう……だから……私たちの命を捨ててでも……ミト様を救い出す……」
そんな事があったから、ミトに忠誠以上のものがあるのか。
分からないわけでもないが……ただ、彼女たちは間違えてる。
「あんた達が命を捨ててまで、ミトは助けてほしいのかね」
「な……なにを言う! そんな事は!」
「考えてみろ。あんた達を宝と言ったミトが、自分のために命を落としたとしてみろ……ミトはどう思う?」
もしそうなったら、必ず自分を責めるに決まってる。
二人の命は、もう二人だけの物じゃないんだ。
「命をかけるのは、俺だけでいい……だから、あんた達はちゃんと生きてミトを救い出してやれ」
俺は自分が出来ることをやるだけだ。
誰も傷つきも死なせもしない。
「……カケル……君は私が知っている他の男たちとは、少し違うようだな……」
ずっと険しい表情をしていたエレスの顔が、少し柔らかいだ表情になっている。
「なんだよ……いい笑顔できるんじゃないか」
男の世界で生きてきた彼女は、ずっと気を張って、男に舐められないようにしてきたんだろう。
本来なら、こんな可愛い顔で笑える子なんだろうな。
「……調子に乗るんじゃない! ちょっと褒めたからって、いい顔をして……」
また、いつも通りのエレスに戻ってしまった。
ダイアも笑いを堪えているようだ。
「お……通路が終わったみたいだな……」
通路の突き当たりに、どこかに通じている入り口が見えてきた。
入り口を抜けた俺たちの前には、広い空間の部屋がある。
そして……部屋の中央にはあのディアボーンが二体、鋭い歯をむき出し、真っ赤に充血した目で俺たちを睨んでいた。




