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45話 突入

 ゔもおおおおッ!


 大剣を持ったミノタウルスが、二体同時に突進してくる。


「そいつだけは絶対に許さん! やれ、ミノタウルスたちよ!!」


 俺を指名かよ。

 そんなに恨まれることをした覚えはないんだがな。


 二体のミノタウルスが、大剣を叩きつけてくる。

 さすがに二体同時の攻撃を受けるのは難しい。


「うおりゃ!」


 その攻撃を飛んで避け、着地した瞬間。


 俺は地を蹴り、背後に背を向けているミノタウルスに向かって思いっきり飛んだ。


 ぶもおっ!?


 斬りつけられたミノタウルスの身体が、ぶわっと霧のように飛び散った。


「なんだ、あの男は!? ああも簡単に倒せるものなのか!?」

「……すごく強い……あんな大きなミノタウルスを……」


 こいつは小型のミノタウルスだ。

 街で倒したミノタウルスに比べたら、大したことはない。


「……おれの実力はこんなものじゃない! ええい、ヤレ! やるんだ、ミノタウルスっ!」


 傭兵のヤツ、自棄になって命令してないか?

 残ったミノタウルスは、後ずさりしているじゃないか。


 知能はそこそこあるようだな。俺を危険だと悟ったんだろう。


「ヤレ! ヤレええ!!」


 ぶ……ぶごおおお!!


 このミノタウルスも自棄気味に突進か。

 召喚獣だから逆らえないのか……仕える奴が、あんなんじゃ同情する。


「だからと言って……手加減はしねえぞ!」


 なにも考えずに、突進してくるだけのヤツが、俺に(かな)うわけがない。


 一刀のもとに斬り捨て、最後のミノタウルスも霧散する。


「ななななんなんだ……お前は、いったいなんなんだ……ぐはっ!?」

「驚いてばっかりじゃなく、たまにはお前も戦ってみろよ。お前も傭兵団の一人だろ?」

「ぐっ……」


 傭兵もその気になったようだ。震える手で短剣を持ち構えた。


「……ち、ちくしょう! 覚えておけよ!」

「あ、野朗! 逃げやがった!?」


 短剣を投げ捨て逃げ出した傭兵。


 しかしエレスは一瞬で間合いを詰め、逃げようとする傭兵の背後を無情に斬り捨てる。


 絶叫を上げ、傭兵はその場で息絶えた。


 逃げたばっかりに、後ろから斬られるなんて……憐れな最後だったな。


「……もう終わりましたか?」


 静かになったのを確認して、ディナが馬車から降りてきた。


「ええ、敵は私たちが排除しました……早く領主の館に行きましょう」

「はい。できる限り急ぎましょう……」


 ダイアの手に掴まって、ディナは馬車の中へと戻った。


 馬車に戻ろうとした俺の前に、エレスが立ち塞がった。


「……カケルっと言ったな……感謝する」


 そう言って、エレスは馬車の前に座った。

 ダイアもペコリと頭を下げると、エレスの横に座り、手綱を手にした。


 お礼を言われたのか?

 あのツンツン騎士に……どうなってんだ、これは。

 雨でも降らなきゃいいがな。


 俺たちを乗せた馬車は、再び街道走り始めた。


「あれが……領主の館か……」


 馬車の窓から見えてきた領主の館。


 小高い丘の上に建っていたのは、背の高い城壁に囲まれた、厳つい雰囲気の城だった。


 領主の館って言っていたから、俺はてっきり普通に屋敷とかを想像していたんだが……あれはちょっとした城だ。


「その昔、あそこは帝国との戦争の際に、王国の重要な拠点となった要塞だったんです」

「え、そうなのか?」


「はい……私たちのご先祖様たちが、王国のために戦った場所なんです」


 戦争の時に作られた城塞。

 だから抜け道なんかがあったのか。


 高い城壁なんかで囲っていたら、中でなにが行われているかなんて、誰にもわからないな。


「ディナの先祖は、あんなすごい城をよく作ったもんだ。さぞ、立派な先祖なんだろうな」


「ふふ、そうですね。立派かどうかは分かりませんが……王族の血を引く者として、責務を果たしただけかも知れませんよ?」


「へえ……王族の血……ええ、ディナも王族なのか!?」


「はい……と言っても、遠縁にあたるので、王位継承はありませんけど」


 はあ……ディナも王族の血筋だってのか。

 それでエレスも、ディナ様呼ばわりしていたのか……なんか納得した。


 そうか。ディナの父親が野望を持ったのは、王族の血を引きながら、王位継承権がない不満からなのか。


「着いたみたいですね……」


 馬車はその動きをゆっくりと止めた。


 馬車を降りたディナと俺、エレスとダイアの四人は、城壁の門の前に立っている。


 城壁の高さに合わせて、作られた城門と木製の扉。


 門番の兵なんて立っていそうだが、それもいない。

 木製の扉も硬く閉ざされている。


 屋敷だとばっかり思っていたから、この展開は予想していなかったな。


「どうするんだ、カケル……君の判断ミスじゃないのか?」


 エレスが睨んでいる。


「想定外だったが……ちょっと俺の後ろに下がってろよ……」


 ま、だいたいこれくらいの距離があればいいか。

 さて……本当に出来るかどうかは、これは賭けだ。


 俺は城門から少し離れた。


 そして剣を抜くと深く呼吸をし、ゆっくりと構える。そして――


「うぉおおお!!」


 剣先に力を込めて突進からの打撃を、城門の扉の中心に撃ち込んだ。


 ドオオオオオオンっ!!


 轟音をたて、城門の扉はいくつかの破片に別れて、派手に吹き飛んだ。


「ふぅ!」


 さすがにこれだけ大きい扉になると、完全に破壊はできなかったみたいだ。


 半分以上は原型をとどめている。

 その破片は、城門の向こう側の入り口付近で、瓦礫の山。


「さあ、これで入れる。さっさと行こうぜ」


 三人は呆然としている。


「き、君は……なんなんだ!? 剣一本で城門を打ち破ることなんて……普通はできないんだぞ?」


「……すごい……城門の扉があんなにバラバラ……」


 自分でも驚いている。

 まさか本当にできるとはなあ……『剣聖』スキル、恐るべしってところだな。


「皆さん……誰かいるようですよ」


 城門から少し離れた場所から、誰かがこちらを見ている。


 まるで俺たちを出迎えてくれるように、中庭に鬼人傭兵団が三人立っている。それ以外は誰の姿は見当たらない。


「さあ、ディナお嬢さん。あんたの父親が待ってるぜ」


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