46話 傭兵団の団長
「あなたは……?」
「直接お目にかかるのは、これが初めてだったな。俺は鬼人傭兵団の団長を務めさせて貰ってる、毘沙門天だ……以後お見知り置きを」
そう言って、男は腕を広げ深々とお辞儀した。
芝居じみた態度。
それに仰々しい名前だな。
毘沙門天と名乗った男は、俺に視線を向けた。
「動くなよ? 今動けば、皇女やエルフがどうなっても、俺は知らんぞ?」
ぐ……先手を封じられたか。
エミリアやミトが、まだ連中の手の中にあるってことは、シロはまだ着いていないのか。
となると、これは下手に手を出せないな。
団長はディナに視線を変え、
「でだ。逃げ出したお嬢さんが、今更戻って来てなにをしようっていうんだ?」
「たしかに私は一度、逃げ出してしまいました……でももう逃げません! 私たちは、父がやろうとしている事を止めに戻って来たんですから」
迷いの無い表情でディナは、傭兵団の団長にそう言った。
「……なるほどな。まあ、こちらとしても都合がいい。俺たちは、あんたの捕獲も頼まれていたんだ。手間が省けたぜ。
さ、あんたの父親が待ってるぜ……来な」
毘沙門天はその場から、一歩も動こうとしない。
ディナが自ら来るように、仕向けているのか?
だけど、ディナも動こうとしてはいない。
自ら人質になるような真似は、しなたくないんだろ。
「……まずはエミリアさまを解放してください。彼女は今回の件には、関係ないはずです」
「お前が来れば、そのエルフを解放してやらんでもない。分かったら、さっさと来い」
狡猾だな。エミリアの名前を出せば、ディナも考えざる得ない。
現にディナは、少し動揺しているように見える。
「……本当、ですね?」
振り返ったディナは、怯えた様子もなく俺たちに笑ってみせた。
「カケルさま。あとは頼みますね」
ディナが団長の前に立つ。
「さあ、父の元に案内してください」
「くっははは……よく分かってるじゃないか。連れていけ」
エレスやダイアがディナの名を呼んでいる。
しかし、ディナは振り返ることはなく、二人の傭兵に連れられ、館の中へと消えていった。
エミリアのために、自らディナは人質となるのか?
今のままじゃなにもできない。今は我慢するしかないのか……
頼むぞ、シロ……全てはお前にかかってるんだ。
「……さて、お前たちはどうする?」
「どうね……お前をぶっ飛ばすって言うのはどうだ? 毘沙門天さんよ」
「くっははは……相変わらず、自分の置かれている立場が分かってないな、天野ぉ……」
え? 今、俺の苗字を言ったのか?
俺は異世界に来てから、誰にも『天野』とは名乗っていない。
エミリアにすら、『カケル』としか教えてないんだ。
どうして、こんな傭兵が俺の名前を知っているんだ!?
「お前……誰だ? どうして俺の名前を知ってるんだ?」
「ああ……そうだったな。仮面を付けているから、分からないよなぁ」
傭兵団の団長は、鬼の仮面を外すと、その素顔を俺に見せた。
「どうだ? 一年ぶりだろう、俺に会うのは? 懐かしくて声も出ないか、天野ぉ?」
「……え、お前。誰?」
俺の知り合いに、傭兵なんていないぞ。
それに一年ぶりってなんだ? 俺は異世界に来て、まだひと月くらいしか経ってない。
「……馬鹿にしてんのか? お前を散々虐めて遊んでやった俺を忘れるのかよ……なあ、天野ぉ?」
虐めて遊んでやって……あ〜思い出した。
そういえば、マモルの後ろに、金魚の糞みたいに付いて回る取り巻きがいたな。
こいつもその後ろにいた。
「たしか……斎藤だったっけ?」
「鈴木だ……」
名前を間違えられて、イラついているのか。
めちゃくちゃ睨んでいる。
「……なあ、鈴木。一年ぶりって、どう言うことなんだ?」
「はあ? あの夜のことを覚えてないのか? あの日から一年は経ってるだろうが? ボケちまったのか、天野ぉ?」
あの日のことを、俺が忘れるわけがない。
それと、こいつが言ってる一年が過ぎたと言う意味。
もしかして、転移の際に時間のズレがあったって言うのか。
なら、鈴木が言ってる意味が納得できる。
俺以外の連中は、この異世界に一年も前に転移してきたってことか。
「……みんなは無事なのか?」
カンナや中嶋……他の元同級生たちは今どこにいて、ちゃんと生きているのか。
それさえ分かればいいが……こいつが素直に教えてくれんだろうか?
「お前に話す義理はねえなぁ……くっはははは」
やっぱり教えてはくれないか……
たしかに鈴木が、俺に話す義理はないな。
「……そうだなぁ。話す義理はないが……元同級生のよしみだ。面白い話を聞かせてやるぜ、天野ぉ」
鈴木はにぃっと笑い、顔を歪めていく。
あの顔……思い出した。
俺を虐めていた時に見せた表情……今見てもムカつく顔だ。
「お前ら。領主が国に反乱しようと思ってるんだろう?」
「……そうだな。それで俺たちは、領主を止めるために来たんだよ」
「くっははは……そうかい……くっははははは」
なにがそんなに面白いのか。
鈴木はずっと笑っている。
「なにが言いたいんだ、貴様っ! 笑うのを今すぐ辞めろ!」
エレスが怒鳴っていても、鈴木はニヤニヤしている。
「ははは……うるせえなあ……こっちはいい気分だってのによぉ……まあいい。お前たちに教えてやる」
「……で、俺たちにも分かるように、説明してくれるんだよな、鈴木ぃ……」
どうして鈴木が、傭兵団の団長なんてやっているのか。
鈴木も俺と同じように転移者の特権として、凶悪な職業を手に入れ、今の地位を得たのかもしれないな。
そこも教えては、くれないんだろうな。
「お前たちにも、分かるように教えてやるよ……今回の計画を立てたのは……実は俺なんだよ」
な……なんだと?
王国反逆を計画したのは、領主じゃなく鈴木だっていうのか?
「くっはははは! それそれ! その唖然とした顔! それが見たかったんだ!」
「鈴木ぃ〜……お前、何でそんなことを計画したんだ……お前の目的は、いったいなんなんだ!」
「目的ぃ? そんなのはねえよ……ただの遊びに決まってるじゃねえか! 昔、お前とそうやって遊んでやったろ? 忘れたのかよ……天野ぉ」
王国との戦争になりかねないことが……ただの遊びだって言うのか!?
鈴木は異世界に来て……狂ってしまったのか!?




