23話 戦闘開始
「なんでお前がいるんだよ!? まさかお前たちも盗賊の仲間なのか!?」
でなきゃ、こんな場所にいる訳がない。
コイツが盗賊の仲間だとなると、少々厄介だな。
チャラ男と盗賊団、スケルトンも相手にしなきゃならなくなる。三人だけじゃ断然不利だ。
チャラ男の後ろには、メガネ娘の魔法使いリズィと、斧を背負った大男のグランドもいる。
グランドの表情は変わってないが、リズィは驚いた表情で俺たちを見ている。
「はぁ? なんだそりゃ? オレ達が盗賊の仲間なわけねえだろう!? テメエ等こそ、連中の仲間なんじゃねえのか!?」
チャラ男はしかめっ面で俺を睨んでいる。
「あ!? んな訳あるか! こっちは、捕まった犬人族を助けに来たんだよ! 邪魔すんな!」
「……犬人族ぅ……こっちはなぁ、ずっと追って来た賞金首の盗賊団の頭の情報を手に入れて、やっとここまで来たんだ。
犬人族はついでに助けといてやる。テメエこそ邪魔だ。とっとと帰りな!」
「んなの知らねえよ! 犬人族を助けたオマケに、そのリーダーを捕まえてやるから、引っ込んでろ!」
俺とチャラ男の睨み合いが続く。
チャラ男も一歩も引く気はないみたいだ。もちろん俺も引く気は全くない。
「カケルくん!!」
「なんだよ、エミリア。今こっちは――」
振り向くとエミリアが呆れた顔で立って、俺の背後を指差している。
いつの間にか盗賊団とスケルトンの群れが、俺とチャラ男の周りを取り囲んでいた。
前列には盗賊団、後列にはスケルトンがワラワラと群がっている。
「なんだ、こいつ等は?」
「ん?……冒険者か?……こんな場所に何か用があったのかは知らねえが……」
「見られたからにゃ……消えてもらうぞ」
えーと……盗賊たちがめちゃくちゃ睨んでるじゃないか。
手に武器まで持って。
完全に俺たちを殺る気満々か……だが、後悔するのは盗賊たちの方だ。
「……消えてもらう? 誰に言ってるんだ、この三下共が!」
棍を手にしたチャラ男が俺の前に立った。
まーだ邪魔をするのか、このチャラ男は。
いい加減にしないと、そろそろ俺も我慢の限界だぞ?
「チャラ男! お前は引っ込んでろ! こいつ等に用があるのは俺の方だ!」
俺はチャラ男の一歩前に出る。
「いいや。先に用があるのはオレの方だ!」
ぐ……またチャラ男が俺の前に立ちやがった。
腹立つな。俺の前に立つんじゃない。邪魔だ邪魔!
「俺だって言ってるだろ?」
「オレだって!」
お互い譲る気は無いみたいだな……こうなれば実力行使だ。
俺は剣の柄に手をやる。チャラ男も棍を構える。
「お……お前ら!! おれ達を無視してんじゃねえ!!」
「「うるせえ! 黙ってろ!!」」
痺れ切らしたのか。
一斉に盗賊たちが、俺とチャラ男に飛び襲ってきた。
ドゴッ!!
襲いかかってきた盗賊の顔を踏み台にし、俺は飛び上がった。
「あ! テメエ、どこに行きやがる!?」
「そっちは任せた! スケルトンは片付けといてやる!」
盗賊たちの後方にいた、スケルトン達の背後に降りた。
ぱっと見、スケルトンの方が盗賊たちより多い。
まずは数が多いこっちを倒さなきゃな。
正直、対人戦はちょっと抵抗がある。スケルトンならまだ大丈夫な気がする。
「うおお!!」
ズバシュウッ!!
剣を一振りさせて放たれた斬撃の衝撃波が、無数のスケルトンを一撃で破壊した。
「なんだ、あいつは!? スケルトンがそんな……馬鹿な!?」
「ヤツに迂闊に近づくな! こっちもやられるぞ!」
お、盗賊共が俺の攻撃に怯んで、浮き足立っている。
チャラ男も驚いた顔でこっちを見ていたが、直ぐに敵に意識を集中し攻撃を続けている。
残ったスケルトン達は、次々と剣と木製の盾を構えて反撃してきた。
カタカタ骨を鳴らしているスケルトンたち。
「おい、おまえ! 助けに来た」
スケルトンの群れを飛び越えてきたシロが、俺の横に並ぶ。
「シロ!? お前どうして!?」
作戦は失敗したとはいえ、シロは村人を逃す役目があったはずだ。
「大丈夫。賢者が村のみんなのことは任せろって言った。ウチには剣聖を手伝えって」
エミリア……余計な気を回しやがって。
「……じゃあ、いくぞ。シロ!」
「任せて……」
俺とシロは同時にスケルトンの群れの中に突っ込んだ。
シロはスケルトンの剣をかいくぐると、正確に相手に頭を破壊していく。
頭破壊されたスケルトンは動き止め、ガシャンと音を立てて崩れ落ちる。
見ただけでも、シロは強かった。
俊敏な動きでスケルトンを翻弄している。
俺も負けていられないな。
スケルトンの攻撃を避けると、斬撃の衝撃波を放ち、武器ごとスケルトンを斬っていく。
正確には数えてはいないが、多分五十体くらいは居たんじゃないだろうか。
「これで……最後!」
斬りつけたスケルトンが、粉々になって地面に崩れ落ちた。
しかし……これだけの群れをどこから集めたんだ?
統制が取れた動き……個々に意思があるようには見えない。
……ゲームとかじゃ、こういう魔物はだいたい死霊使いが操ってました、って言う展開なんだが……
お、シロも最後の一匹を倒したようだ。
まあ、スケルトンを操っていたのは盗賊団の誰かだろう。
チャラ男も盗賊たちを倒し終えていた。
チャラ男の仲間の大男……たしかグランドだっけか。
やつも加勢したんだろう。グランドの足元には、数人の盗賊が倒れていた。
「カケルくん! すごいすごい! 前に塔で見たときより、すごくなってないかい!?」
「そうか? そんな事はないんだが……」
俺の戦いぶりに驚嘆するエミリア。
その後ろには、檻から解放された村人たちがいた。
「みんな! 無事!?」
シロと村人たちから、無事を喜ぶ声が上がっている。
「……もう少しで漆黒の疾風作戦がダメになるところだったよ。ねえ、カケルくん?」
嫌味を言うエミリアの顔は、どことなく嬉しそうだ。
「悪い悪い。ま、結果オーライだ」
帝国に犬人族を売りつけようとした盗賊団も片付いた。
チャラ男は盗賊団の頭を捕まえたみたいだし……
とりあえずは一件落着ってところか。
――ウォオオオオオン!!
「カケルくん!」
どこからか犬のような遠吠えが聴こえた。次の瞬間。
闇の中から一陣の風と共に白い影が現れた。
「シロっ!!」




