24話 犬神
「どうしてこのタイミングで!」
盗賊たちと一緒に行動していたはずの犬神が、なぜ今現れたたんだ!?
戦いが終わったタイミングを見計らってなのか?
操られていたんじゃないのか!
闇の中から突然現れた白い影。
犬神は俺とエミリアの間を駆け抜けて、一直線に馬車の方へ走っていた。
犬神がシロを狙っている!?
まずい。今からじゃ間に合わない……なら!
加速!
例の軽妙な音と音声ガイダンスの声が、頭の中に流れる。
時間の流れを遅くしたのはいいが……この剣のままじゃシロの親父さんを倒しかねん。
……どうするどうするどうする……ん、チャラ男の棍……よし、これで!
「チャラ男、すまん! お前の武器借りるぞ!」
チャラ男から棍を奪いとった俺は、馬車のそばにいたシロを抱え、犬神から距離をとった。
シロを抱き上げた時、犬神の視線が常に俺に向けられていた。
考えたくはないが、この1/75秒の時の世界の中で、見えていた……ってことは無いと思いたい。
(ポーン! 時間です。スキル『加速』が解除されます。お疲れさまでした)
時が動き出したと同時に着地した犬神は、瞬時に向きを変える。
そのまま俺とシロのいる方へ走ってくる。
やっぱり見えていたのか!
「……え!?」
「シロ! 俺の後ろから動くなよ!」
「……犬神!?」
咆哮をあげ、犬神が襲いかかってきた。しかし―
ギャン!!
棍の一撃が犬神の横腹に当たる。
着地した犬神は警戒しているのか、すぐに襲いかかってくる気配はない。
あ……当たったけど。正直、長い棍は使いにくい。
チャラ男が簡単そうに使ってたから大丈夫だと思ったが、我ながら読みが甘かった。反省だ。
「あ! なんだあ、テメエ!? オレの武器をいつの間に!?」
武器を奪われたチャラ男が怒鳴っている。
「テメエにはその如意棍は使えん! さっさとオレに返しやがれ! 剣使いのテメエには、その長さは扱ねえ!」
「うるせえ。剣と違って使いにくいんだよ! この如意棍……如意……あ!」
如意棍は長さを自在に変えられるって言ってたな。
よし、俺に魔力があるかどうかは知らないが……頼む、如意棍!
「お……おお……!」
魔力のおかげか、意識が通じたのかはわからない。
如意棍は木刀くらいの長さに変わった。
これで扱いやすくなった。
これなら思いっきり戦える!
「シロ! お前の親父さん……絶対助けてやるからな!」
「え……あ!?」
何か言いかけたシロを残し、俺は犬神に向かって走り出した。
犬神と俺の戦いが始まった。
犬神は何度も牙と鋭い爪を俺に突き立てようと襲ってくる。
俺はその度に棍でその攻撃を受け止め流す。
犬神は殺気を放ち確実に仕留めようとしている。
こっちは犬神を倒さないように、どうしても抑えるような動きになってしまう。
それと剣聖アビリティ『予想』が発動してるにもかかわらず、犬神の動きに反応するのがやっとだ。
犬神の武器は、自分の牙と爪だけじゃなかった。
地面に散乱していたスケルトンの剣を咥えたまま、攻撃をしてくる。
この戦いの終わりが見えない。
一進一退といったことろか……どうすれば良いか考えろ、俺。
いつの間にか、月明かりが森全体を照らしている。
エミリアが出した雲が消えたんだろう。
ん……ちょっと待て。
今までよく見えなかったが、犬神のヤツ体中に傷を負っていないか?
白い体毛も黒く染まっている。あれは血か?
シロの村の戦士たちと戦って負ったのか?
それにしてもあんな状態で、俺とやり合っていたのか……どんだけ化け物なんだ、犬神は。
犬神の口からも血が垂れている。どことなく息も荒いように感じる。
そうか……犬神も限界に近いのかもしれないな。
「よお、犬神……そろそろ決着をつけようじゃないか」
俺の言葉を理解できたかどうかは怪しいが……
犬神は咥えていた剣を吐き捨て、頭を低くした態勢をとった。
俺は突進から棍を突き出せるような構えをする。
この一撃に全てを懸ける。
これがダメだったらとか考えたくない。絶対にシロの親父さんを救ってやる。
とりあえずぶん殴って、犬神の動きを止める。
こっちには賢者エミリアがいるんだ。狂った犬神を治す方法は絶対にある。
腰を落とし軸脚に力をかける。
――ウォオオオオオン!!
先に仕掛けてきたのは犬神だった。
少し遅れたタイミングで、俺も地面を蹴り飛び出す。
「いい加減にぃ目を覚ましやがれ、タコ親父ぃ!」
犬神の正面に棍を突き出す。
だが犬神は頭を少しずらし、顔面に放った突きをかわす。
その突きは外れ、犬神の首に巻いていた首飾りのような物に絡みついた。
外れた上に首飾りに棍が絡むとか最悪だ、と普通なら焦るところだが……
今の俺は剣聖スキルを使ってるんだ。こんな紐ごとき、引きちぎることなんて造作もない!
「ぬおおお!!」
ブチッ……
気合いを入れ、棍を振り抜き首飾りを引きちぎった。
なんだ……犬神の雰囲気が変わったように感じる。
犬神から放たれていた殺気が消えた?
引きちぎれた音と共に、首飾りが散らばっていく。
振り抜いた勢いで体を一回転させ、犬神の側頭部に棍を叩きこんだ。
ギャン!!
今度は攻撃が当たった。
横に弾き飛ばされた犬神は地面を転がっていき、ピクリとも動かなくなっていた。
「おい……その犬、殺ったのか?」
「殺すかよ……バカ野郎……」
チャラ男の問いに、俺は首を横に降る。
「――父さん!」
倒れた犬神に、シロが駆け寄っていた。
その傷だらけの体を、毛づくろいするように優しく撫でている。
シロのやつ、犬神を討つとか言ってたのにな。
「おつかれさまだったね、カケルくん……」
「まあ……な……」
エミリアがそう言って、俺の側に立ってくれたいた。
顔を見なくても、むちゃくちゃ心配そうな顔をしてるのがわかる。
これで終わったんだな。
あとは、犬神を元に戻して――
「……おやおや。時間になっても指定した場所に現れないから来てみれば……まさかこんな事になるなんて、思ってもみませんでしたよ」
全身黒の衣装をまとい黒い鬼の面を被った男が、シロと犬神のすぐ横に立っている。
どこから現れた?
さっきまで誰の気配もなかったはずだ。
エミリアも緊張を伺わせている。
犬神と違った殺気をまとった、その男の雰囲気に。




