22話 奇襲
深夜の樹海。
俺たちは暗い森の茂みに、身を潜めていた。
エミリアが予測した場所で、盗賊たちが来るのを待っている。
「いいかい。念のために、もう一度作戦を確認するよ」
「……分かった」
「お、おう……」
エミリアとシロは周囲を気にしてか、小声で話している。
しかし……緊張する。
人の命がかかった作戦……それも失敗が許されない作戦。
異世界に来て、魔物は何度か倒した。
だけど、こんな本格的な対人戦は初めてだ。緊張が最高潮に達している。
ウォムの街でチャラ男と戦ったのも、喧嘩みたいなもんだし……
うぉお胃がキリキリしてきた……吐きそうだ。
「……カケルくん。大丈夫かい? この作戦は、キミの力が重要なんだからね?」
「……わ、分かってるよ。大丈夫……大丈夫だから、作戦をもう一回説明してくれ……」
「大丈夫なんだね……じゃあ、作戦の再確認だよ」
エミリアの小さな声に耳を傾けた。
四十人もの人間を移動させるには、必ず馬車が必要になってくる。
あえて、それを実行させる。
馬車に載せてしまえば盗賊たちは、ひと段落ついたと、一瞬だが安心するだろうと、エミリアは言う。
そこを狙った奇襲が、今回の作戦だ。
まずはエミリアが、その場に照明魔法を打ち上げる。
いきなり周囲が明るくなれば、盗賊たちだって浮き足立つ。
その隙を狙って、俺は明かりを持った連中を倒す。
明かりが消えればどうなるか……大混乱は必須だろう。
シロは、それに乗じて村人たちを全員を逃す。
全員を逃し終えたら、シロが合図を送る。
本来なら今夜は満月だった。
エミリアが雷鳴の魔法を応用して、雲で月を隠していた。
おかげで、辺りは数メートル先も見えないくらいの暗闇になっている。
魔法に関しては、本当にすごいんだがな……それ以外がポンコツすぎる。
「なんだい、カケルくん。ボクの顔に何か着いてるかい?」
「いや。なんでも無い。作戦の話だったな」
「……まあいいや。それでボクは照明魔法を打ち上げるよ。二発目は照明時間を長くした魔法をね」
「で……俺は加速スキルを使って、敵を倒すと」
エミリアは不満そうな目をして、何か言いたそうに俺を睨んでいる。
無理もないな。
加速スキルを使おうって提案したのは、他ならない俺だからな。
この話を聞いたとき、加速スキルを使わないと作戦は成功しないだろうと思った。
それを言ったら、エミリアはめちゃくちゃ反対していたな。
一回目は誰のせいだと思ってるんだ。
まあ……二回目の使用には不安は残るが……後のことは考えないようにしよう。
ただシロの父親さんのことが、気になっている。
犬神がその場にいなかったらと思うと……スキルを使っていいのか。正直、躊躇ってしまう。
俺が動けなくなった後に、シロの親父さんが出てきた場合は……最悪な結果しか想像できない。
「……とにかくだ。今回の作戦名、『漆黒の疾風』だけど……」
ゴス!
エミリアの中二病がまた出そうな気がした。
先に止めるため、俺はエミリアの頭を軽く殴っておいた。
「ぴぃッ!? ど、どうして殴るのさ!? だいたい――もがっ!?」
「シっ! 来た……」
言葉を遮るように、シロはエミリアの口に手を押し付ける。
シロの耳はピンと立ち、何かに反応するようにピクピクと震えている。
その何か……検討はついている。
黒闇の森の中から、一つまた一つと明かりが見えてきた。
松明を手にした盗賊っぽい姿の二人が、周囲を見回しながら、用心深く先頭を歩いくる。
隠れている俺たちに気づくことなく、通りすぎていった。
少し遅れるように捕まった村人たちと、それを取り囲んむように数十体のスケルトンの集団が、それに続いて通り過ぎていった。
列の後方には、後ろを警戒しながら歩いている盗賊が三人いた。
先頭の盗賊二人が森を抜け、しつこいくらいに周囲を警戒している。
ピィー!
合図だろうか。
盗賊の吹いた口笛の後に、遠くの方から返事をするように口笛が聴こえてきた。
ガラガラと音を立て、檻付きの馬車が二台、幌馬車が一台と現れた。
停車した幌馬車からは、盗賊の仲間たちが次々と降りてくる。
合流した連中は、小さな声で話し合うと、檻のついた馬車に、犬人族を押し込んでいく。
そこには犬神の姿は見えない。
犬神がいない状態で、加速スキルを使うリスクだけが増えたわけだ。
いや、今は目の前のことだけに集中しよう。
「準備はいいかい、二人とも?」
エミリアの言葉に、俺とシロは無言で頷いた。
準備はオッケーだ。エミリアも呪文の詠唱が始まる。
心臓の音が聴こえないかと心配するくらい、早く鼓動を打っている。
最後の一人が檻の中に入ると、盗賊が檻の鍵をかけた。
「いくよ!」
パアッと周囲が眩しいくらいに明るくなった。
「な、なんだ、この明かりは!?」
「て、敵襲か!?」
エミリアの予想どおり、盗賊たちが浮き足立っている……今がチャンス!
俺とシロは茂みから飛び出した。
だが、それと同時に森の中からもう一つの人影が、同じタイミングで現れた。
「な!? お前は!?」
「この照明魔法……まさかテメエか!?」
ウォムの街で、俺と串肉をかけて戦った……棍を背にしたバンダナ頭のチャラ男、ガイがそこにいた。
どうして、コイツがここにいるんだよ!?




