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第53話 ランクル6号車と7号車を購入


 バンデランテによるランクルの確認も一段落し、俺たちは赤いショートから降りた。


 改めて湖畔を見回す。


 今、この拠点にあるのは赤いショートと、紺色のキッチンカーだけだ。


 白いトゥループキャリアとベージュの70オープンカーは、マオたちが調査を続けている湖底の大庭園にある。


 グレーの105は、森の探索用としてあちらに置いてきたままだ。


「……そういや、今晩どこで寝る?」


「はい?」


 良太が首をかしげる。


「寝床だよ。今、ここに二台しかないだろ」


「あ……そうでしたね」


 良太も周囲を見回す。


 赤いショートなら一人で寝ることはできる。


 寝るときだけ赤とグレーを入れかえるとしても、横になれるのは同時に一人。


 今日は俺と良太だけじゃなく、バンデランテもいる。


「最低二人分の寝床は必要か」


「キッチンカーは調理用ですしね」


「ああ。寝るために使う車じゃないからな」


「きゅー」


 そばにいたバハが、何の話だと言わんばかりに俺たちを見上げる。


「バハはどこでも寝られるだろ?」


「きゅ!」


 元気よく返事をする。


 こちらのリアカーと湖底の庭園にある白いトゥループキャリアを入れかえて戻す手もあるが、せっかくマオたちが調査に使っているのに、寝るためだけに持ってくるのも面倒だ。


「どうせなら、車中泊用に二台くらい追加するか」


「いいですね。どれにします?」


「ちょ、ちょっと待て」


 横で聞いていたバンデランテが口を挟んできた。


「寝床を用意するために、また車を増やすのか?」


「そうだ。ただのテントじゃ、魔物に襲われたときが不安だからな」


 ここは日本のキャンプ場じゃない。


 湖畔の周囲には魔物もいるし、バハがいるとはいえ、絶対に襲われないとは言い切れない。


「その点、神様仕様のランクルなら、不意打ちされても車内にいれば安全だ。寝ているあいだに魔物に襲われても心配ない」


 俺は手の甲で、赤いランクルを二度ほどかるくたたく。


「なるほどのう……」


 バンデランテも赤いショートへ目を向ける。


 さっき実際に素材まで調べたばかりだ。


 ランクルの中がどれほど安全なのかは、もう十分に理解しているだろう。


「たしかに、あれだけの素材で創られた箱の中なら、下手な城より安全かもしれんな」


「そういうことだ」


 良太が【ネットショッピング】を開く。


「お金のほうも大丈夫ですよ」


「どのくらい残っている?」


「この前、一億イエンを【ネットショッピング】のポイントに替えましたよね」


「替えたな」


「そこから三千万ポイントのベージュのオープンカーを買っただけですから、三千万ポイントの車を二台買っても足ります」


「なら問題ないな」


「一億イエン……三千万ポイント……」


 バンデランテが聞き慣れない単位に首をかしげている。


 まあ、そのあたりまで説明すると長くなりそうだ。


「それで、何にします?」


 人が横になって寝るのならワゴンタイプだろう。


「まずはロクマルだな」


「ロクマル?」


「ランクル60。グレーの105と同じワゴン系のご先祖様みたいな車だ」


「ああ、あの大きいランクルの」


「それだ。60、80、100、200、300って続いていくワゴン系だな。105は100系の派生モデルだから、そのずっと前の世代になる」


「なるほど」


 良太が【ネットショッピング】の画面を操作する。


「俺が欲しいのは後期の角目。ロールーフで、エンジンは12H-T型のディーゼルターボ。ミッションはMT」


「はい」


「リアのドアは観音扉で頼む。ロクマルには上下開きのバックドアもあるけど、今回は観音扉がいい」


「わかりました」


 良太が俺の言った条件を順番に入力していく。


「色は……」


 今持っているランクルを思い浮かべる。


 赤、白、紺、グレー、ベージュ。


「今あるのと被らない色なら、海外仕様のブルーメタリックにするか」


「青ですね」


「ロクマルには似合うと思う」


 条件を入力して検索すると、ほどなく画面に一台のランクル60が表示された。


「おお……これだな」


 思わず身を乗り出す。


 後期型の四角いヘッドライト。


 低く抑えられたロールーフ。


 ほとんど垂直に立った側面と、角張ったボディライン。


 いかにも昔の四駆らしい形だ。


「へえ。ナナマルとは結構違いますね」


「ああ。これがまたかっこいいんだよ」


 それに12H-T型のディーゼルターボ。


 もちろんMTだ。


「ATの、あの杖みたいに長いシフトレバーもかっこいいんだけどな。あれはあれでロクマルの雰囲気によく似合う。でも、やっぱり俺の好みはMTだな」


「先輩、楽しそうですね」


「そりゃ楽しいだろ」


 画面を眺めているだけでも楽しい。


 しかし、ただ欲しい車を買うわけじゃない。


「それと、今回はポップアップルーフをつけよう」


「ポップアップルーフ?」


「停車したときに、屋根全体がそのまま平行に持ち上がるんだ。持ち上がった部分の横はテント生地になっていて、車内で大人が普通に立てるくらい天井が高くなる」


「へえ。そんなのがあるんですね」


「普段はロールーフのままだから、見た目もほとんど変わらない。車中泊には便利だぞ」


「着替えるときも楽そうですね」


「そういうことだ」


 それ以外は、いつもの神様仕様でいい。


 良太が最後に、俺にタブレットを見せながら条件を確認する。


「じゃあ、買いますよ」


「おう」


 購入ボタンが押された。


 次の瞬間――


 湖畔の少し離れた場所が淡く輝き始める。


「な、なんじゃ……?」


 バンデランテが驚いて振り返った。


 光が大きく膨らみ、その中から車の輪郭が浮かび上がる。


 やがて光が消えると――


 地面から三十センチほど浮いていた車体が、そのままドンッと湖畔へ落ちる。


「おお……」


 ブルーメタリックのランクル60だ。


 わかっていても、新しい車が届く瞬間はいい。


 俺はすぐに近づいていく。


「やっぱり実物はいいな」


 角目のフロントフェイス。


 一直線に伸びたボディライン。


 そして、画面で見るよりずっと存在感のある、横長で角張ったシルエット。


 さらに――


「このあたりもいいな」


 フロントグリル。


 ドアミラー。


 ホイール。


 どれもメッキで統一され、ブルーメタリックのボディによく映えている。


「かっこいいですね」


「だろ?」


 ブルーメタリックとメッキの組み合わせ。


 角張った大柄なボディも相まって、どこか昔のアメ車のような雰囲気も感じる。


「……やっぱりロクマルはかっこいいな」


 後ろへ回れば、左右に分かれた観音扉。


 これも角張った車体によく似合っている。


 そんな俺たちの横で、バンデランテは言葉を失ったまま60を眺めていた。


「……本当に、何もないところから現れおった」


 さっきまでそこには何もなかった。


 それが光に包まれたと思ったら、巨大な車が一台増えている。


 初めて見れば驚くのも当然だろう。


「これも、あの赤い車と同じなのか?」


「ああ、同じように、神様仕様になっているぞ」


「これもか……」


 バンデランテが恐る恐る60へ近づいていく。


 まあ、ランクルの素材についてもかなり知られてしまった。


 今さら召喚を隠しても仕方ないだろう。


「バンデランテ」


「なんじゃ?」


「ランクルのことは、あんまり他でしゃべらないでくれよ」


「わかっておる。恩人の秘密を言いふらすほど、わしの口は軽くないわい」


「助かる」


 これなら大丈夫だろう。


「さて、もう一台だな」


「次は何にします?」


「待て! おぬしら、まだ買うのか?!」


「ああ、もう一台あると便利なんだ」


 バンデランテは俺に何か言おうとしたが言葉を飲み込んだ。


「良太、次はハチマルだな」


「また知らないのが出てきましたね」


「ランクル80。さっき話したワゴン系で、ロクマルの次の世代だ」


 良太が再び【ネットショッピング】を操作する。


「こっちもリアのドアは観音扉。色は……純正色ではないが、茶色にするか」


「茶色ですね」


「ああ。落ち着いた感じの濃い茶色がいいな」


 そしてエンジンは決まっている。


「1HZで。もちろんMT」


「そこはやっぱり1HZなんですね」


「当然だろ」


 日本にいた頃から、良太には何度も1HZの話をしている。


 4.2リッター直列6気筒の自然吸気ディーゼル。


 派手な速さがあるエンジンではない。


 だが、大排気量の自然吸気ディーゼルらしいフィーリングが俺は好きだ。


「こっちもポップアップルーフをつけよう」


「了解です」


 条件を揃え、二台目も購入する。


 再び湖畔に淡い光が広がった。


 バンデランテが今度は黙ったまま、じっと見つめている。


 光の中から姿を現した茶色のランクル80が、そのままドンッと湖畔へ落ちる。


「おお……」


 俺はさっそく60と見比べた。


 印象がまるで違う。


 角張った60に対して、80は全体的に丸みを帯びている。


 それでも大きな車体と張り出したフェンダーのおかげで、迫力はまったく失われていない。


「ハチマルもかっこいいな」


「さっきのロクマルとは結構形が違いますね」


「同じワゴン系でも世代が変わると、かなり雰囲気が変わるんだ」


 ブルーメタリックの60。


 茶色の80。


 こうして並べると、その違いがよくわかる。


 角張っていて、クラシックな雰囲気の60。


 丸みがありながら、大柄な車体で堂々とした迫力を持つ80。


「……どっちもいいな」


「先輩、ずっと見ていられそうですね」


「見ていられるぞ」


「そうですか……」


 さて。


 いつまでも眺めていたいところだが、そもそもの目的は今晩の寝床だ。


「良太、ベッドキットも頼む」


「はい。二台分買いますね」


 良太が【ネットショッピング】を操作し、それぞれの車種に合うベッドキットを購入する。


 後部座席から荷室までを使い、広いフラットな寝床を作れるタイプだ。


「これで寝る場所は確保できましたね」


「ああ。せっかくだから、ポップアップルーフも試してみるか」


「いいですね」


 まずは60。


 車内から操作すると――


 ウィィィ……。


 低いロールーフ全体が、車体と平行のままゆっくりと真上へ持ち上がっていく。


「おお……!」


 屋根と車体の間には、折り畳まれていたテント生地が広がっていく。


 前だけが高くなるタイプではない。


 ルーフ全体がそのまま持ち上がるので、車内のどこにいても頭上に余裕ができる。


「屋根まで動くのか……」


 バンデランテが外から見上げている。


 完全に展開したところで、俺は車内に立ってみた。


「おお、いいな」


 頭上には十分な空間がある。


 これなら大人でも普通に立てる。


「先輩、結構広く感じますね」


「だろ? ロールーフのままだと車内で立つのは無理だからな。これだけ上がれば着替えるのも楽だ」


 普段は低いロールーフの見た目を保ち、停車中だけ居住空間を広げられる。


 車中泊にはかなり便利そうだ。


 続いて80も展開する。


 こちらもルーフ全体が車体と平行のまま、ゆっくりと上昇。


 側面のテント生地が広がり、ただでさえ広い80の車内が、さらに開放的になった。


「……家ではないのか?」


 外から眺めていたバンデランテがつぶやく。


「車だぞ」


「屋根が伸びて、中で立てて、寝床まであるんじゃろ?」


「そうだな」


「もう家でよかろう……」


 まあ、気持ちはわからなくもない。


「この横の生地って、どうなってるんですかね? 【鑑定】してみますね」


「たしかに気になるな」


 良太がタブレットを操作する。


「出ました。えっと……」


 ───────────────


【神話級ポップアップ生地――始祖蜘蛛の因果網《アラクネ・レティクル》】


 すべての織機神《しきしん》『ヴァル・アラクネ』が紡いだ神代の糸で織られた、細く美しくも絶対不壊のサイドアコーディオン生地。


【超軽量・極薄】

 絹のように薄く、半透明で向こう側が透けて見えるほどだが、その強度は神の盾にも匹敵する。

 暴風雨はおろか、竜のブレスの直撃さえ網目の弾性によって拡散・吸収し、傷ひとつ付かない。

 完全不壊。


【形状記憶】

 蜘蛛の糸が持つ驚異的な伸縮性と、神の形状記憶が融合している。

 ポップアップルーフの開閉に合わせて柔軟に伸縮し、展開時には常に最適な張りを保つ。

 収納時には元の形へと自然に折り畳まれ、生地の噛み込みやはみ出しが起きない。


【全天候型・環境適応結界】

 糸が空間の振動を感知し、雨音や風によるバタつき、周囲の騒音を相殺する。

 さらに結露を防ぎ、害虫を寄せ付けない結界が施されている。


 ───────────────


「……だそうです」


「金属やタイヤ以外の外装パーツを【鑑定】したのは、初めてじゃないか? 布でもこれだけの強度があれば安心だな」


「以前、オープンカーから外した幌《ほろ》の素材も気になりますね。あっちはもっと硬かったですけど」


「こんな生地、見たことないわい。おぬしら、よく平気な顔をしておれるのう」


 同じく【鑑定】でテント生地を調べていたバンデランテが、あきれたように声を漏らす。


「神様仕様のランクルは、いつもこんな感じなんだ」


「この生地で服が縫えたら、とんでもないものができるじゃろうな……。おそらく、特殊なスキルでもなければ加工できんのじゃろうが」


「完全不壊って出てますからね」


 服か。


 たしかに、これでシャツやズボンが作れたら重宝しそうだが――そもそも切ることすらできないんじゃ、どうにもならない。


「さて、これでキッチンカー以外に三台あるな」


 赤い70ショート。


 ブルーメタリックの60。


 茶色の80。


 寝るだけなら十分だ。


「今晩はこの三台を使おう。俺と良太とバンデランテで交代しながらな」


「交代?」


「ああ、一人は赤いランクルで見張りだ」


 バハがいるので、そこまで神経質になる必要はない。


 それでもここは魔物のいる異世界だ。


 全員で眠ってしまうより、一人くらい起きていたほうが安心できる。


「ロクマルとハチマルで二人が寝る。一人は赤いので見張り。途中で交代すればいいだろ」


「僕はどっちからでもいいですよ。毛布も買っておきますね」


「わしまで使ってよいのか?」


「ああ、そのために二台買ったんだからな。好きなほうで寝てくれ」


「…………」


 バンデランテが、新しく現れた二台を交互に見る。


「寝床が足りんからと、こんなものを二台も増やすとは……」


「これで解決しただろ?」


「解決の仕方がおかしいと言っとるんじゃ」


 そう言われても、欲しかったランクルも手に入ったんだから、俺としては文句なしの解決だ。


 さっきまで寝床が足りないと話していたはずなのに、気づけばランクルが二台も増えていた。


 俺は並んだ60と80をもう一度眺める。


 今夜は寝るだけじゃなく、二台をじっくり見比べて楽しむことになりそうだな。





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