↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/81

第44話 異世界カレー

 連休中(本日まで)は一日二回投稿をしています。

 この前にも一話投稿していますので、まだお読みでない方は、ぜひそちらからお楽しみください!



「それじゃあ、戻るか」


 俺は白いランクルへ手を触れ、拠点に残してあるグレーの四号車を思い浮かべる。


「【車両入れ替え】」


 次の瞬間、視界が淡い光に包まれる。


 そして光が消えると――


 俺たちは、見慣れたラズライト湖のほとりへ戻っていた。


「戻ってきましたね」


「ああ」


 俺は周囲を見回してうなずく。


 先ほどまで湖底の大庭園にあった白いランクルが、今はいつもの拠点に停まっている。


 代わりに、ここに置いてあったグレーの四号車が大庭園へ移動したはずだ。


 これで大庭園には、グレーの四号車とベージュの五号車。


 そして結界の外、湖底にはリアカーが残っている。


「これなら予定どおりだな」


「はい。向こうの様子はグレーのランクルのドラレコでいつでも確認できますしね」


「ああ」


 四号車を大庭園へ置いてきた理由の一つが、それだった。


 リアカーと違い、ランクルならドラレコが使える。


 たとえ俺たちが大庭園にいなくても、四号車を通して向こうの様子を確認できる。


 それに、五号車もそのまま残してきた。


 マオが大庭園へ来たときには、好きに乗っていいと伝えてある。


 五号車のシートに座っていれば、疲労や魔力の消耗が回復するだけでなく、怪我まで癒やされる。


 マオが一人で大庭園へ遊びに行ったとしても、休憩場所として使えるだろう。


 マフラーも【癒やしモード(ヒーリング・シンフォニー)】にしてある。


 走れば周囲へ神聖な音波と波動が広がり、生き物や植物にもいい影響を与えてくれる。


 大庭園に置いておくには、ちょうどいい車だ。


「これで、いつでも確認できますね」


「ああ。それにマオが向こうへ行ったときにも使えるしな」


「ん」


 名前を呼ばれたマオが小さくうなずく。


「乗る」


「気に入ったみたいだな」


「ん」


 俺は白いランクルから降りると、大きく体を伸ばした。


 空を見上げれば、太陽はすでに高い。


「さて、ちょうど昼だな」


「けっこう長いこといましたからね」


 良太も腕を伸ばしながら答える。


「お腹空きました」


「きゅ!」


 真っ先に反応したのはバハだった。


「お前は世界樹の実を食べてただろ」


「きゅ?」


「あれはノーカウントか」


「きゅっ!」


 元気よく返事をするバハに、俺は苦笑する。


 マオも隣で小さくうなずいた。


「お腹空いた」


「マオもか」


「ん」


「じゃあ昼飯にするか」


 俺は少し考え、手持ちの食材を思い浮かべる。


「今日はカレーにしよう」


「おっ、いいですね! とうとう異世界カレーを作るときが来ました」


 良太が嬉しそうに声を上げる。


「肉はもちろん――」


 俺は笑う。


「ベヒーモスだ」


「ベヒーモスカレーですか!」


「せっかく肉がたくさんあるんだから、使わないとな」


「きゅ!」


 バハも元気よく鳴く。


「ただし、お前のは甘口だな」


「きゅ?」


「辛いのはまだやめとこう。まあ、バハムートなら辛口を食べても平気だとは思うけどな」


「きゅっ!」


 よくわかっているのかいないのか、バハは大きく返事をした。


 俺はキッチンカーへ向かうと、調理の準備を始める。


 今回は鍋を二つ用意する。


 一つはバハ用の甘口。


 もう一つは大人用の辛口だ。


「ルーはどうします?」


「何種類か混ぜよう。せっかくだし、ちょっと豪華にいくか」


「いいですね」


 良太が【ネットショッピング】で何種類かの市販のカレールーを購入する。


 俺はその間に、ニンジン、タマネギ、ジャガイモを取り出した。


 もちろん主役となる肉は、熟成させたベヒーモスの肉だ。


 大きな塊肉を取り出すと、良太が思わず笑う。


「日本の市販ルーに、異世界のSランク魔物ですか」


「ずいぶんと贅沢なカレーになったな」


「これぞ異世界カレーですね」


 そんな話をしながら準備を進めていると、隣で様子を見ていたマオが調理台へ近づいてきた。


「料理」


「ん?」


「やってみる」


「お、やってみるか?」


「ん」


 俺はニンジン、タマネギ、ジャガイモをマオの前に並べた。


「じゃあ、まず野菜を切ってもらおう。危ないから――」


「いらない」


「え?」


 差し出された包丁を見て、マオが首を横に振る。


 その手の中に一本のナイフが現れた。


 刀身は、淡い青緑を帯びた銀色。


 その刀身は光の角度によって白銀にも水色にも見え、薄く透き通っているような不思議な輝きを放っていた。


 装飾らしい装飾はほとんどなく、細身で軽やかな形をしている。


「……それで切るのか?」


「ん」


 マオが小さくうなずく。


 良太もそのナイフを興味深そうに見つめた。


「それ、この前、世界樹の実を切っていたナイフですよね。それも魔剣なんですか?」


「ん」


 すると、バンポーさんが穏やかに口を開く。


「マオ様がお作りになった魔剣【ゲイルフェザー】でございます」


「ゲイルフェザー……」


「風属性のSランク魔核とオリハルコンを融合させて作られたものでございます」


「Sランクの魔核……」


 俺は思わずそのナイフを見る。


 そんな代物を、これから野菜を切るために使うらしい。


「まあ……切れるならいいか」


「ん」


 マオは満足そうにうなずくと、ニンジン、タマネギ、ジャガイモへ手を向けた。


 ふわり――


「お?」


 野菜が一斉に宙へ浮かび上がる。


 そしてマオがゲイルフェザーを軽く振った。


 シュパパパパッ――!


 目にも留まらぬ速さで斬撃が走る。


 空中に浮かんでいた野菜が次々と斬られ、ほとんど同じ大きさへ切り揃えられていく。


 最後に、切り終えた野菜がぱらぱらとボウルの中へ落ちた。


「……やってることが、バハやシルフと同じなんだが……」


「ですよね……でも、マオちゃん皮もむかずに切りました」


 良太も苦笑する。


「……あ」


 俺も気づいた。


 ニンジンもジャガイモも、見事なまでに皮つきのまま切り揃えられている。


 タマネギも薄皮ごとだ。


「マオ。料理するときは、ジャガイモとかは先に皮をむくんだぞ」


「……」


 マオがボウルの中をじっと見つめる。


「わかった」


「知らなかったのかよ」


「…………」


 マオはボウルの野菜を見たまま動かない。


 そのときだった。


 横で一部始終を見ていたシルフが、すっとボウルへ近づいた。


 小さな両手を前へ向ける。


 ふわり――


 切り分けられた野菜が一斉に宙へ浮かび上がった。


「ん?」


 マオが首をかしげる。


 次の瞬間。


 シュルシュルシュルッ――


 無数の細い風が野菜の表面をなでるように駆け抜け、皮の部分だけが器用に削ぎ取られていく。


「おお……」


 俺が感心している間に、取り除かれた皮だけが別の皿へ。


 きれいになった野菜は、再びボウルの中へ戻っていく。


 シルフは小さな胸を張った。


「さすがシルフ。助かった」


 俺が褒めると、シルフは嬉しそうにくるりと宙返りする。


 そして今度はマオの周囲をくるくると飛び始めた。


 ゲイルフェザーを見て、切り揃えられた野菜を見て、興奮したように小さな両手をぶんぶんと振っている。


「おっ」


 俺はその様子を見て笑った。


「さっきの、すごいって言っているみたいだな」


 シルフは何度も大きくうなずく。


 マオはそんなシルフを見つめると、ほんの少しだけ得意そうに【ゲイルフェザー】を持ち上げた。


「すごい?」


 シルフが勢いよくうなずく。


「ん」


 マオの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。





 ◇ ◇ ◇





 切り終えた野菜とベヒーモスの肉を鍋に入れ、じっくりと煮込んでいく。


 二つの鍋から、少しずつ食欲を刺激する香りが立ち上り始めた。


 火加減はサラマンダーに任せてある。


 鍋の中をのぞき込みながら、ほんのわずかな火力の調整までしてくれていた。


「きゅ~……」


 さっそくバハが甘口の鍋の前へやってくる。


「まだだぞ」


「きゅ……」


「そんな顔してもまだだ」


 しょんぼりするバハに苦笑しながら、俺は鍋をかき混ぜる。


 完成までは、もう少し時間がかかりそうだ。


「そうだ。今のうちに写真もやっておくか」


「写真?」


 マオが振り返る。


「ああ。今日、大庭園でいっぱい撮っただろ?」


「ん」


 マオはすぐにカメラを取り出した。


 俺はカメラを受け取り、撮影された写真を確認していく。


 色とりどりの花々。


 透明な花びらを持つ植物。


 七色の葉を広げる低木。


 小川や石橋。


 巨大な世界樹。


 黄金色に輝く世界樹の実。


 珍しい植物だけでなく、庭園の何気ない景色までたくさん撮影されている。


「ずいぶん撮ったな」


「いっぱい」


「よし。じゃあ全部プリントするか」


「全部?」


「ああ」


 俺はうなずく。


「どの写真が大事なのかは、撮ったマオにしかわからないからな」


「ん」


 マオは嬉しそうにうなずいた。


 さっそく撮影された写真を一枚残らずプリントしていく。


 次々と出てくる写真を、マオは俺のすぐ隣でじっと眺めていた。


 花の写真が出てくれば手に取り。


 世界樹の写真なら、しばらく眺め。


 また次の写真が出てくると、そちらへ視線を移す。


 すべての写真をプリントし終えると、今度はウンディーネの出番だった。


「ウンディーネ、これを頼めるか?」


 呼びかけると、ウンディーネがふわりと近づいてくる。


 俺は写真を指さし、それから水を通す仕草をしてみせた。


 すると、ウンディーネは小さくうなずいた。


 魔力水が薄い膜となって広がり、写真を一枚ずつ包み込んでいく。


 紙を傷めることなく写真全体を包み込み、魔力水の力がゆっくりと染み渡っていく。


 これなら、時間が経っても色褪せたり傷んだりしにくいはずだ。


 魔力水を通し終えた写真は、シルフへ。


 シルフが優しい風を送り、一枚ずつ丁寧に乾かしていく。


「これなら、ずっときれいなまま残せそうだな」


「いいですね。せっかくの写真ですし」


 乾いた写真を、俺と良太で一枚ずつアルバムへ収めていく。


 マオはその作業をすぐ横からじっと見守っていた。


 やがて最後の一枚を収め、俺はアルバムを閉じる。


「よし、できた」


 そう言って、マオへ差し出す。


「ほら」


「……」


 マオは両手で受け取ると、その場でアルバムを開く。


 一枚目。


 二枚目。


 三枚目。


 一ページずつ、ゆっくりとめくっていく。


 さっき自分の目で見てきたばかりの景色なのに、一枚一枚を確かめるように眺めていた。


「気に入ったか?」


「ん」


 アルバムを閉じる。


 そして大切そうに胸元へ抱えた。


「宝物」


「そうか」


 俺は自然と笑みを浮かべる。


 写真なら、これから何度でも増やしていける。


 あの大庭園には、まだ見ていない場所も、知らない植物もたくさん残っている。


 マオがまた大庭園へ行ったら、そのたびに新しい写真を増やしてやればいい。





 ◇ ◇ ◇





「先輩、そろそろいいんじゃないですか?」


「ん?」


 良太に言われて鍋へ目を向ける。


 いつの間にか、あたりにはすっかりカレーの香りが漂っていた。


「おっと、そうだった」


 俺が鍋へ近づくと、サラマンダーも火を弱める。


 蓋を開けた途端、湯気とともに濃厚な香りが一気に広がった。


「おお……いい感じだな」


「これは間違いないですね」


「きゅ~!」


 待ってましたとばかりに、バハが飛んでくる。


「わかった、わかった。今よそうから」


「きゅっ!」


 二つの鍋を軽くかき混ぜる。


 大人用の辛口と、バハ用の甘口。


 どちらにも大きめに切ったベヒーモスの肉がごろごろと入っている。


「マオが切った野菜も、ちゃんと煮えてるな」


「ん」


 マオが鍋をのぞき込み、小さくうなずく。


「マオ、作った」


 となりでさっき皮をむいたシルフが何度もうなずいている。


 精霊に気を使わせるなよ。


 炊きたての白米を皿へ盛り、その横へたっぷりとカレーをかけていく。


 大きなベヒーモスの肉。


 ニンジン。


 ジャガイモ。


 タマネギは長く煮込まれ、ほとんどルーへ溶け込んでいる。


 最後にバハの分だけ間違えないよう、甘口の鍋からたっぷりとかけた。


「よし、できたぞ」


 テーブルへ次々と皿を運ぶ。


 全員が席に着くと、カレーの香りに待ちきれないのか、バハが自分の皿をじっと見つめていた。


「まだだぞ」


「きゅ……」


「じゃあ――いただきます」


「いただきます」


「いただきます」


「ん」


「きゅっ!」


 俺はスプーンでカレーと白米を一緒にすくい、そのまま口へ運んだ。


「……うまっ」


 最初に広がるのは、市販のカレールーらしい慣れ親しんだ味。


 その直後、しっかりとした辛さと香辛料の香りが追いかけてくる。


 だが、何より存在感があるのは――


「やっぱりベヒーモスの肉、うまいな」


 柔らかい。


 スプーンでも簡単にほぐれるほど煮込まれているのに、肉そのものの旨味はまったく負けていない。


 噛めば濃厚な肉汁と旨味が広がり、それがカレーの辛さとよく合っていた。


「これは贅沢ですねぇ……」


 良太も大きな肉を頬張り、満足そうにうなずく。


「普通のカレーなのに、肉だけで一気に別物になってますよ」


「Sランクの魔物を市販のルーで煮込んでるんだからな」


「これぞ異世界カレーですよ」


 良太は真剣な顔でうなずいた。


 向かいでは、マオも黙々とスプーンを動かしている。


「どうだ?」


「おいしい」


「辛さは大丈夫か? 辛かったら、バハの甘口と混ぜるといいぞ」


「大丈夫」


 マオは平然と答え、もう一口カレーを頬張る。


「これ、食べたことある」


「え?」


「バロメトス」


「バロメトス?」


 聞き覚えのない名前に、俺は首をかしげる。


「獣人大陸にあるバロメトスという国でございます」


 バンポーさんがそう補足してくれた。


「へえ……獣人大陸にカレーがあるのか」


「ん。食べた」


「マジか……」


 すると、良太が食べる手を止める。


「先輩……もしかして、日本人がいたんじゃないですか?」


「俺も今、ちょっと思った」


 この世界にはなかったリバーシを広めて、それに反応する日本人がいないか探そうと言い出したのも良太だ。


 地球で馴染みのある料理が異世界にもあると聞けば、気になるのは当然だろう。


「マオ、そのカレーって、これと同じなのか?」


「違う」


「違うのか?」


「ん。でも、似てる」


 バンポーさんもカレーと白米を一緒にすくい、静かに口へ運ぶ。


「……これはおいしいですな」


 もう一口味わってから、バンポーさんがゆっくりとうなずく。


「バロメトス王都でいただくものとは、香りも味わいも異なりますが、こちらはこちらで実においしゅうございます」


「バンポーさんも食べたことがあるんですか?」


「ええ。私も何度かいただいたことがございます」


「なるほど……」


 良太が少し考え込む。


「でも、カレーだけじゃなんとも言えませんね。香辛料をいろいろ混ぜて作る料理なら、この世界で独自に生まれていてもおかしくないですし」


「そうだな。日本のカレーとインドのカレーだって、かなり違うからな」


「はい。でも、一応覚えておきましょう。獣人大陸のバロメトス王都でしたよね?」


「ん」


「いつか行くことがあったら、調べてみたいですね」


「ああ」


 マオは自分で切ったニンジンをスプーンですくった。


「これ」


「マオが切ったやつか」


「ん」


 ぱくり。


 少しだけ口元が緩む。


「おいしい」


「自分で作ると、ちょっと違うだろ?」


 マオは少し考える。


「……ん」


 その一方で――


「きゅっ!」


 バハは甘口カレーを夢中で食べていた。


 カレー。


 ご飯。


 ベヒーモスの肉。


 またカレー。


 見る見るうちに皿の中身が減っていく。


「バハも、バロメトスでカレーを食べたことがあるのか?」


「きゅっ!」


「やっぱりあるのか。こっちのカレーはどうだ?」


「きゅーっ!」


 空になった皿を両手で持ち上げる。


「おかわりか?」


「きゅっ!」


「はいはい」


 俺は笑いながら立ち上がった。





 ◇ ◇ ◇





「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでございます」


「ん」


「きゅ~」


 結局、バハは甘口カレーを何度もおかわりした。


 膨らんだお腹を満足そうになでながら、椅子の上でくつろいでいる。


「ずいぶん食ったな」


「きゅ」


「晩飯もあるんだからな」


「きゅっ!」


 本当にわかっているのだろうか。


 俺は苦笑しながら食後のコーヒーを口へ運ぶ。


 マオは先ほど作ったアルバムを再び開いている。


 ページをめくっては、今日撮影した花や植物の写真をじっと眺めていた。


 その様子を見て、良太が笑う。


「マオちゃん、本当に気に入ったんですね」


「ん」


 ぱたん。


 アルバムを閉じる。


 そして大切そうに【収納】へしまった。


 しばらく食後の時間をのんびり過ごしたところで、マオが椅子から降りる。


「帰る」


「もう帰るのか?」


「ん」


 俺は少し意外に思いながら時計を見る。まだそれほど遅い時間ではない。


「今日はずいぶん早いな」


 すると、マオは首を横に振った。


「魔王国、帰らない」


「ん?」


 俺は首をかしげる。


 マオは湖の方角を指さした。


「湖の庭園」


 一瞬の沈黙。


「ああ……」


 俺は納得した。


「そっちに帰るのかよ」


「ん」


「早速ですか」


 良太が笑う。


「さっきまでいたばかりじゃないですか」


「まだ見る」


「なるほどな」


 俺も思わず笑ってしまう。


「まあ、五号車も置いてあるし、好きに使っていいって言ったからな」


「乗る」


 大庭園を見たいのか、五号車を運転したいのか。


 おそらく両方なのだろう。


 バンポーさんも困ったような、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。


「どうやら、しばらくは大庭園へ通うことになりそうでございますな」


「爺も」


「もちろん、お供いたします」


 マオは満足そうにうなずいた。


 そして俺たちへ向き直る。


「また来る」


「ああ。いつでも来いよ」


「今度はカレー以外の料理もやってみましょうね」


「料理」


 マオが少し考える。


「またやる」


 そのやり取りに、バンポーさんが小さく笑う。


「それでは拓海様、良太様。本日も大変お世話になりました」


「いえいえ。こっちも楽しかったですよ」


「じゃあ、またな」


「ん」


 マオが小さく手を上げる。


「ありがとうございます。それでは、またお会いいたしましょう」


「【転移】」


 金色の光が二人を包み込む。


 次の瞬間、マオとバンポーさんの姿はその場から消えていた。


「きゅっ!」


 残ったバハが、二人の消えた場所へ向かって元気よく鳴く。


「……絶対、毎日行きますよね」


「だろうな」


 俺は笑いながら湖へ目を向けた。


 ついさっきまで一緒に大庭園を歩いていたというのに、もう戻っていった。


 今ごろは五号車に乗り込み、まだ見ぬ植物を探して庭園の奥へ走っているかもしれない。


「四号車のドラレコ、あとで見てみるか」


「ですね」


 これからしばらく、四号車のドラレコを確認する楽しみも増えそうだ。


 俺たちがまだ見ていない大庭園の景色も、マオが五号車で走り回る姿も、きっとたくさん映るだろう。






 あとがき


 明日からは通常にもどり、一日一話を投稿していきます。


 ★の評価や、フォローをしてもらえたら励みになります。


 平行して過去回の推敲もしていますが、読みにくいところがあったら教えてください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。