第37話 写真プリント
連休のあいだは6:00と18:00に投稿します(なろう側だけ)
楽しんで頂けたら嬉しいです!
湖底遺跡の初調査を終えた俺たちは、湖畔の拠点へ戻っていた。
「まだ夕飯まで時間もあるし、少しゆっくりするか。調査の続きはまた後日だな」
「そうですね。水中での作業は、慣れないうちは少しずつ進めたほうが良さそうです」
俺はキャンピングチェアに深く腰掛け、湖へ目を向ける。
「ここは湖も眺められるし、川のせせらぎも聞こえる。振り返れば森もある。こっちの世界へ来てから、一番落ち着く場所かもしれないな」
「鳥のさえずりもありますしね。僕もここ、かなり気に入ってます」
「いっそのこと、ここを本格的な拠点にしてもいいな。【車両入れ替え】があれば、どこへ行ってもすぐ戻ってこられるし」
「それ、いいですね」
良太も嬉しそうにうなずく。
「旅を続けながら、帰ってくる場所があるっていうのもいいですね」
「ああ。ホームにするなら、この周りもしっかり調べておかないとな。特にあの森だ」
俺が視線を向けた先には、湖の西側から北側にかけて深い森が広がっている。
「これからは探索のやり方も変えられそうですね」
「どういうことだ?」
「湖畔にいながら、【自動操縦】で偵察用の車両だけ先に進ませるんです。気になる場所を見つけたら【車両入れ替え】で現地へ移動して、直接【鑑定】する。これなら不用意に危険な場所へ近づかずに済みます」
「なるほど」
俺はうなずく。
「せっかく便利な能力が増えたんだ。安全に使わないとな」
湯気の立つコーヒーカップを手に取り、一口飲む。
湖面を渡る風が、心地よく頬をなでていく。
遠くから聞こえる小鳥のさえずりに、木々の葉擦れと川のせせらぎが重なる。
しばらく俺たちは何も話さず、湖畔の景色を眺めながらコーヒーを味わった。
こんな時間を過ごせるのも、この場所を気に入った理由の一つかもしれない。
やがて良太が、膝の上に置いていたタブレットを手に取った。
◇ ◇ ◇
良太はタブレットを眺めながら、シルフたちが淹れてくれたコーヒーを一口飲んだ。
「先輩、またレベルが上がったことで【ネットショッピング】の取扱商品が増えています。家電やカメラ関連がかなり充実しました」
「カメラか。前にもドローンがあると言っていたな」
「はい。項目は以前からあったのですが、カメラやレンズの種類もかなり増えています。プリンターもありますよ。三号車の家庭用電源につなげれば、写真もプリントできますね」
「写真か。こっちに来てから撮っていなかったな。どうせならランクルやバハと一緒に記念撮影もしておくか」
「はい。僕、写真部だったので、プリントを見るのも好きなんですよね。記録だけならドラレコがあるので問題ないですけど」
「なるほどな」
「ただ、一つ問題があって、インクジェットで印刷した写真って、日に当たっていると少しずつ色褪せていくんですよね。最近のものはかなり良くなっているみたいですけど、それでも昔の銀塩写真にはかないません」
「そうなのか?」
「はい。SNSでも話題になっていましたね。ひいおばあちゃんの白黒写真は何十年経ってもくっきり残っているのに、数年前に亡くなったおばあちゃんのカラー写真は、もう色褪せ始めているって」
そこで俺は、ふと思いついた。
「……待てよ」
「どうしました?」
「ウンディーネの魔力水だ」
「あっ……!」
俺と良太は顔を見合わせた。
「桃もリンゴも、魔力水を通したほうは全然傷まなかったよな」
「たしかに……。あれって、酸化とか劣化そのものを抑えている可能性がありますよね」
「だったら、写真も試してみる価値はありそうだな」
「印刷した写真を魔力水に浸けるだけでいいかもしれません。前に桃やリンゴで試したみたいに」
「ああ。せっかくだし、やってみるか」
「はい!」
良太は【ネットショッピング】を開き、ミラーレス一眼のレンズキットとコンパクトな写真用プリンター、それに写真用紙と予備のインクセットを購入した。
「最近はスマホが主流ですけど、やっぱりこういうカメラで撮ると気分が違うんですよね」
届いた箱を開け、良太が丁寧にカメラを取り出す。
レンズキットに付属していた標準ズームレンズを取り付けると、カチッと小さな音がして固定された。
続いてバッテリーとメモリーカードを差し込み、電源を入れる。
背面の液晶が明るく点灯した。
良太は慣れた手つきで撮影モードを【絞り優先】に切り替える。
「やっぱり景色を撮るなら、このモードですね」
そう言いながら湖へカメラを向ける。
カシャッ。
カシャッ。
すぐに液晶で撮った写真を確認する。
「これなら十分です」
「ああ。旅の記録にはぴったりだな」
良太は二台のランクルと青い湖が収まるように構図を決め、三脚にカメラを固定した。
「先輩、その位置でお願いします。バハちゃんは真ん中ですよ」
「きゅー!」
セルフタイマーをセットすると、良太も急いで俺の隣へ並ぶ。
カシャッ。
撮影を終え、三人で液晶をのぞき込む。
そこには青い湖を背に並ぶ俺たちとバハ、その後ろに赤と白のランクルがきれいに収まっていた。
「いい写真ですね」
「ああ。旅の一枚目にはちょうどいい」
良太はプリンターを三号車の家庭用電源に接続すると、写真用紙をセットし、新品のインクカートリッジを取り付けた。
「これで準備完了です」
カメラをプリンターに接続し、印刷を始める。
ウィーン……。
静かな動作音とともに、一枚の写真がゆっくりと排出されてきた。
「おお……」
ついさっき撮ったばかりの俺たちとバハ、それに二台のランクルが鮮やかに印刷されている。
「やっぱり画面で見るのとは違いますね」
「ああ。手に取れると、ちゃんと思い出を残したって感じがするな」
「それじゃあ、実験です」
良太が写真をウンディーネに差し出す。
ウンディーネは嬉しそうにうなずくと、ステンレスの調理用バットに透き通った魔力水を満たしてくれた。
そこへ良太が写真をそっと浸す。
「このくらいでいいですかね」
数秒待ってから、静かに引き上げた。
「おっ……」
写真は水に浸したはずなのに、紙がふやけた様子はない。
インクがにじんだり、色が崩れたりもしていなかった。
「見た目は変わりませんね」
「ああ。【鑑定】してみよう」
良太が写真に【鑑定】を使う。
「名称は『記念写真』。材質は写真用紙と顔料インク、状態は良好ですね」
「水に浸けても問題なしか」
「みたいです。あっ……」
「どうした?」
「特殊効果が追加されています」
「特殊効果?」
「はい。『ウンディーネの加護(保存)』――魔力水の浸透により、通常の写真より劣化しにくい状態になっています」
「やっぱりか」
思ったとおりの結果に、自然と笑みが浮かぶ。
「桃やリンゴだけじゃなかったんだな」
「はい。本や地図、手紙なんかにも応用できそうです」
「旅の記録を残すには、ちょうどいい能力かもしれないな」
俺たちは新しく増えた一枚の記念写真を眺めながら、顔を見合わせて笑った。
◇ ◇ ◇
その後も、良太は嬉しそうにランクルやバハ、それに湖畔の景色を次々と撮っていく。
「あっ、そうだ」
何かを思いついたのか、良太が顔を上げた。
「バハちゃん、こっちのキッチンカーへ来てください」
「きゅ?」
首をかしげながら、バハがふわりと飛んでくる。
「せっかくだから、精霊さんたちも一緒に撮ってみましょう」
すると、シルフやサラマンダー、ウンディーネ、ノームたちもバハの周りに集まってきた。
「はい、みなさんそのままで」
良太がファインダーをのぞき、構図を整える。
「よし」
カシャッ。
撮影を終え、俺たちは液晶モニターをのぞき込んだ。
「あれ?」
「どうした?」
「……精霊さんたちが写っていません」
画面に写っていたのは、嬉しそうなバハとキッチンカーだけ。
撮影した瞬間までバハの周りにいたはずの精霊たちは、一柱も写っていなかった。
「本当だ……」
俺も首をかしげた。
「でも、ドラレコには映っていましたよね」
「ああ。神様がくれたドラレコには、ちゃんと記録されていたな」
良太がもう一度カメラの液晶を確認する。
「普通のカメラには写らないんですかね」
「かもしれないな」
俺は、バハの周りを楽しそうに舞うシルフたちに目を向ける。
「考えてみれば、俺たちの目には普通に見えてるんだよな」
「そうですね。精霊さんたちが姿を見せてくれているから、僕たちには見えているのかもしれません」
俺たちの会話がわかったのか、シルフたちがくるりと宙を回り、そのまま楽しそうに飛び回っていく。
◇ ◇ ◇
その後も写真を撮ったり、精霊たちと遊んだりしているうちに、気づけば日が傾き始めていた。
俺は腕時計に目を落とす。
「小腹が空いたな。夕飯まではもう少し時間があるし、何か食べるか?」
「いいですね」
良太が【ネットショッピング】を開き、しばらく商品を眺める。
「あっ、ポップコーンなんてどうです? フライパンがあれば簡単に作れますよ」
「いいな。久しぶりに食べるか」
「塩味にしましょう」
「おう」
良太はポップコーン用の乾燥コーンを購入した。
キッチンカーでは、サラマンダーが待ってましたと言わんばかりにフライパンを温め始める。
コーンと少量の油を入れ、蓋を閉める。
しばらくすると――
ポンッ。
ポンッ。
ポンポンポンポンッ!
小気味よい音が響き始めた。
「きゅっ?」
初めて聞く音に、バハが興味津々で近寄ってくる。
透明な蓋の向こうでは、白い花が咲くようにコーンが次々とはじけていた。
「すごいですね」
良太も思わず笑う。
蓋を開けた瞬間だった。
ぽーんっ。
するとシルフが風でふわりと受け止め、そのまま大皿へ運んでいく。
さらに、ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
飛び出したポップコーンを次々と風で受け止め、器用に大皿へ集めていく。
「おお……」
思わず感心する。
「ナイスキャッチだな」
シルフは得意そうにくるりと一回転した。
「きゅーーっ!」
その様子を見ていたバハは大興奮だ。
翼をぱたぱたさせながら、飛び交うポップコーンを目で追いかけている。
やがて、こんもりと盛られたポップコーンに軽く塩を振る。
「いただきます」
一粒口へ放り込む。
サクッ。
軽快な音とともに、香ばしい風味が口いっぱいに広がった。
「うまいな」
「あっという間にできますし、こういう景色の中で食べると、また格別ですね」
俺もうなずく。
「ああ。つい手が止まらなくなる」
「きゅっ♪」
バハも嬉しそうにポップコーンを頬張り、満足そうにしっぽをゆらしている。
湖畔を穏やかな風が吹き抜ける中、川のせせらぎに重なるように、精霊たちが楽しそうに飛び回る。
俺もポップコーンをもう一粒つまみ、青い湖へ目を向けた。
こうして俺たちは、夕飯までの時間を湖畔でのんびりと過ごした。
あとがき
第25話 『ブルーム王国へ到着、冒険者登録』に、マオのパーティ名『金黒の月』について加筆しています。




