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第35話 【鑑定】の実験

本日から、連休のあいだは6:00と18:00の一日二話ずつ更新します(なろう側だけ)


「さて、そろそろ昼飯にしますか」


 ドラレコの映像を見終えた良太が、タブレットを閉じる。


 気づけば、太陽はすっかり頭上近くまで昇っていた。


「そうだな。腹が減っては探索もできん」


 俺たちは三号車――キッチンカーへ移動した。


「今日は簡単なもので済ませましょう」


「昨日は焼きそばだったしな」


「そうなんですよ。また焼きそばっていうのも、さすがに芸がありませんし……」


 良太は腕を組んで少し考え込む。


 ふと何かを思いついたのか、顔を上げた。


「先輩、ご飯だけ炊いて、卵かけご飯にしませんか?」


「おっ、それいいな」


「こういうシンプルなのって、たまに無性に食べたくなるんですよね」


「わかる。卵かけご飯なんて久しぶりだし、ちょうどいいな」


 良太は【ネットショッピング】で米と卵、それに醤油を取り寄せた。


 ボウルに移した米を、ウンディーネが注いでくれた澄み切った魔力水で丁寧に研いでいく。


 白く濁った水を何度か替えるうちに、研ぎ汁も少しずつ澄んでいく。


 研ぎ終えたところで鍋に移すと、ウンディーネが絶妙な水加減で魔力水を注いだ。


 その隣では、サラマンダーがコンロの前にちょこんと立ち、小さな炎をゆらしている。


「今日もお願いします」


 良太がそう声を掛けると、炎が嬉しそうに小さく弾んだ。


「もう完全に料理長だな」


「人間の仕事がどんどん減っていきますね」


 俺たちは笑いながら、炊き上がるのを待った。


 やがて鍋の蓋が小さく震え始め、湯気とともに甘い米の香りが車内いっぱいに広がっていく。


「この匂いだけで、お腹が空きますね」


「ああ。炊きたてのご飯の匂いって、なんでこんなに食欲をそそるんだろうな」


 少し蒸らしたあと、蓋を開ける。


 ふわりと真っ白な湯気が立ち上り、つやつやと輝く炊きたてのご飯が姿を現した。


「これは反則ですね」


「見るだけでうまそうだ」


 茶碗にふっくらとご飯をよそい、卵を一つずつ割り入れる。


 黄金色の黄身が湯気の中でぷるんとゆれた。


 そこへ醤油を少しだけ回しかける。


 箸で軽く混ぜると、卵がご飯の一粒一粒に優しく絡み、白かった米が艶やかな黄金色に変わっていく。


「いただきます」


「いただきます」


「きゅー!」


 俺たちはそろって食べ始めた。


「……うまい」


 思わず頬がゆるむ。


 炊きたてのご飯はふっくらとしていて、濃厚な卵との相性も抜群だ。


 醤油の香ばしさがふわりと鼻へ抜け、噛むほどに米本来の甘みが口いっぱいに広がった。


「やっぱり、日本人はこれですね」


「ああ。変に凝った料理じゃなくても、これだけで十分うまい」


「炊きたてだと、なおさらですね」


「きゅ~♪」


 バハも夢中になって卵かけご飯を食べ、小さな尻尾をぶんぶんと振っている。


「バハも気に入ったみたいだな」


「何でも食べられるって、本当に便利ですよね」


 穏やかな昼の風がキッチンカーを吹き抜ける。


 異世界の湖畔で食べる卵かけご飯は、不思議なくらい懐かしい味がした。





 ◇ ◇ ◇





 食べ終えた茶碗を片付けると、良太は食後の缶コーヒーを一本取り出した。


 プシュッ、と小気味よい音が響く。


 俺たちはキッチンカーの外へ出ると、湖から吹いてくる心地よい風を感じながら、キャンピングチェアに腰を下ろした。


 目の前には、朝と変わらず穏やかなラズライト湖が広がっている。


 その湖底には、古代遺跡が静かに眠っていた。


 良太は缶コーヒーを一口飲むと、湖を眺めながら腕を組んだ。


「先輩、一つ気になることがあるんです」


「何だ?」


「さっき【遠隔買取査定】を使ったじゃないですか」


「ああ」


「思っていたより、情報が少なかったんですよ」


 俺もうなずく。


 たしかに良太が読み上げたのは、遺跡の名前と年代、それに『買取対象外』という情報だけだった。


「【買取査定】だと、もっと詳しくわかるよな」


「そうなんです。今までは普通の【買取査定】ばかり使っていたので気づきませんでしたけど……もしかすると」


 良太は人差し指を立てる。


「【鑑定】と【買取査定】だけじゃなく、【遠隔買取査定】も性能が違うのかもしれません」


「なるほど」


「ちょっと実験してみませんか?」


「実験?」


「はい。【鑑定】はさっき試したとき、【買取査定】と同じ情報が出て、そこからさらに詳しく調べられたんですよ」


「ああ」


「でも【遠隔買取査定】は、そこまで情報が出ませんでした」


「それを確かめるわけか」


「はい。同じ物を三つのスキルで見比べれば、違いがはっきりすると思います」


 良太は【ネットショッピング】を開き、リンゴを一つ取り寄せてテーブルに置いた。


「じゃあ、始めますね」


 良太はリンゴに手をかざす。


「【買取査定】」


 良太が査定結果を順番に読み上げていく。


「ふじりんご。品質は特上、糖度17、鮮度は最高。買取価格は120ポイント。おすすめの食べ方は、生食、ジュース、アップルパイ。保存方法は冷暗所、ですね」


「ふむ……」


「いつもの内容だな」


「はい。売買や実際に使うには十分すぎる情報ですね」


 良太はうなずくと、続いて【鑑定】を発動した。


「【鑑定】――やっぱり最初に表示された内容は、【買取査定】とまったく同じですね」


 良太が表示を確認しながら言う。


「そうか」


「じゃあ、ここからです。もっと詳しく見てみますね」


 良太は新たに表示された情報を順番に読み上げていく。


「生産地は青森県〇〇市。収穫日は〇月〇日。推定樹齢は二十五年。生産者は〇〇果樹園。特徴は、昼夜の寒暖差によって蜜が多く入り、甘味と酸味のバランスに優れる……と」


「なるほど」


 良太は納得したようにうなずく。


「【鑑定】は、【買取査定】の情報をさらに詳しく調べられる能力みたいですね」


「前に聞いた通りだな」


「はい。じゃあ最後に――」


 良太がもう一度、リンゴに視線を向ける。


「【遠隔買取査定】」


 今度は、良太が読み上げた項目が明らかに少なかった。


「ふじりんご。品質は特上、買取価格は120ポイント……これだけですね」


「情報が減ったな」


「はい。【遠隔買取査定】は、査定に必要な最低限の情報しか表示されないみたいです」


「なるほどな」


「これで能力の違いがはっきりしました。【鑑定】は【買取査定】と同じ情報が表示され、そこからさらに詳しく調べられる。【遠隔買取査定】は、最低限の情報だけですね」


「ああ。それなら遺跡の情報が少なかったのも納得だな」


「遺跡も【遠隔買取査定】では大まかな情報しかわかりません。詳しく調べるなら、現地で【鑑定】するしかありませんね」


「結局、潜る必要はあるってことか」


「ですね。でも、スキルの使い分けはわかりました」


「よし。そろそろ、湖底探索を始めるか」


「はい!」


 良太が大きくうなずいた。





 あとがき


 卵かけご飯、おいしいですよね。私も大好きです!


 こちらの世界でも、いつか新鮮な卵を手に入れたいところです。ウンディーネさんの魔力水ならサルモネラ菌も何とかしてくれそうな気もしますが……そのあたりは、まだ未検証ということで。


 今回は【鑑定】、【買取査定】、【遠隔買取査定】の違いを整理するための実験回でした。


 次回から、いよいよ湖底遺跡の探索が始まります。ぜひ続けてお楽しみください。


 ※最近、なろうで大勢の方に読んでいただけるようになってきたので、過去回の改稿も続けています。読みにくい部分がありましたら、教えてください。




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