第33話 続・まとめ狩り
「今の戦闘でレベルが70を超えて、またスキルが増えました。僕は【遠隔買取査定】、先輩は【ハウジング】です」
「おお……どんな機能なんだ?」
「まず僕の【遠隔買取査定】ですが、これは離れた場所にあるランクルからでも、【買取査定】ができるようになるスキルですね」
「つまり、【自動操縦】の遠隔操作で倒した魔物も、その場へ行かずに売れるようになったのか」
「そういうことです。タイミング的にも、今のまとめ狩りを見て神様が追加してくれた機能なんだと思います」
「なるほどな。ってことは、この戦法は神様公認ってわけだ」
「たぶん、そうですね」
良太はうなずくと、続けて俺の新スキルについて説明を始めた。
「続いて、先輩の【ハウジング】ですが、先輩はカメラハウジングって知っていますか?」
「いや、知らんな」
「僕、昔写真部だったんですけど、当時のカメラって防水性能が低かったんですよ。だから、水中で撮るときはカメラごと防水ケースに入れて使っていました。それをカメラハウジングっていうんです」
「なるほど」
「今回の【ハウジング】は、その車版ですね」
「車全体をケースで包むのか?」
「ケースというより、神様の結界ですね。『水中限定』ですが、車全体を結界で覆うみたいです」
良太は説明書を読み進める。
「エンジンは以前手に入れた【完全結界(小)】で燃焼に必要な酸素を作り出して、キャビンにはエアコンに宿った『聖精霊シロッコ』が酸素を供給してくれるそうです」
「じゃあ……」
「はい。理屈の上では、時間を気にせず水中を走り続けられるそうです」
俺は目を見開く。
「それはいいな! 前に話していた湖の探索ができるじゃないか!」
「おそらく、それも神様が見て追加してくれたんでしょうね。ちなみに、車内の二酸化炭素やエンジンの排気ガスは、そのまま水中へ排出されるそうです」
「よく考えられているな」
「さらに、この【ハウジング】と先輩の【自動操縦】を組み合わせれば……」
良太がにやりと笑う。
「誰も乗せずに、水中探索までできちゃいます」
「おお!」
俺は思わず身を乗り出した。
「それができたらすごいぞ。このラズライト湖の底だって調べられるじゃないか」
「ですね。沈没船とか、水中遺跡なんかがあったら面白そうです」
「夢が広がるな」
俺は笑いながら巨大スクリーンに視線を戻す。
そんな話をしている間に、グレーのランクル105も、大草原の別の狩り場へ近づいていた。
「ちょうどいいですね。今度は105でやってみましょう」
「ああ。今度は少し多めに集めてみるか」
「レーダーを見る限り、このあたりのほうが反応は多そうですね」
良太がドラレコ映像を二画面表示に切り替える。
左側では、役目を終えた赤いランクルが待機地点へ戻っている。
右側では、グレーのランクル105がゆっくりと進路を変え、魔物の群れが多い方向へ向かっていく。
「じゃあ、105も【挑発モード】に切り替えるぞ」
――カチッ。
直管マフラーに切り替わる。
バォォォォォンッ!!
夜の大草原へ、重低音が響き渡る。
草陰から魔物が顔を出す。
一匹。
二匹。
五匹。
十匹。
さらに遠くの赤い点までもが、一斉に105をめがけて動き始める。
「やっぱり105も効果は同じですね」
「ああ。あとはどこまで集められるかだ」
グレーのランクル105は速度を一定に保ったまま、大きな弧を描いて草原を走り続ける。
その後方では、魔物の群れが雪だるま式に膨れ上がっていく。
二十。
三十。
四十。
五十。
レーダーの赤い点は、先ほどを上回る勢いで増え続けている。
「先輩……今回は、赤いランクルより多いですよ」
「そうみたいだな」
俺はコーヒーを飲み干し、静かにうなずく。
「よし。七十匹くらいまで集まったら、一気にいこう」
六十。
それでも、まだ増えていく。
やがて七十匹を超えたところで、良太が声を上げる。
「このくらいでいいですね」
「じゃあ、いくぞ」
俺は遠隔操作でグレーのランクル105のオーディオを起動する。
――【H〇T LIMIT】
軽快なイントロが夜の大草原へ響き渡る。
《バッテリー、大精霊トールが覚醒しました》
《前方ウィンチ、大精霊グラビトンが覚醒しました》
《車内エア・コンディショナー、聖精霊シロッコが覚醒しました》
《【H〇T LIMIT】残り時間 3分15秒》
《周囲の敵性反応を確認》
《対象数 72》
《前回の戦闘データを反映》
《最適化シークエンスを開始します》
「おっ?」
俺は巨大スクリーンに目を向け、思わず身を乗り出した。
「学習したのか?」
「みたいですね。しかも、別の車で取ったデータまで共有しています」
良太も興味深そうに画面を見つめる。
《大精霊グラビトン。対象群中央にグラビティ・ケージを展開します》
《最適拘束範囲を算出しました》
《局所重力──20Gに到達》
漆黒の重力結界が、前回よりもわずかに前方へ展開される。
群れの先頭だけでなく、最後尾まで余すことなく包み込む。
《対象群の完全拘束を確認》
「配置まで最適化してるのか」
「完全にAIですね」
《大精霊トール。インドラ・カタストロフを詠唱します》
《エネルギー配分を最適化》
《雷撃範囲 最適化完了》
《発射します》
ドガガガガガガガガガァン!!!
白銀の雷光が車体から放射状に炸裂する。
先ほどよりも雷撃に無駄がない。
一撃一撃が拘束された魔物に正確に降り注ぎ、同じ相手に重なることなく次々と標的を捉えていく。
まばゆい閃光が夜の草原を昼間のように照らし出す。
数秒後。
静寂だけが残る。
《全対象の生命反応、完全消滅》
《討伐数 72》
《前回戦闘比 魔力消費 12%削減》
《前回戦闘比 討伐時間 18%短縮》
《精霊稼働率 正常》
《バッテリー残量 97%》
「すげぇ……」
俺は脳内に流れる戦闘結果に耳を傾ける。
「もう、自分たちで最適化し始めたぞ」
「神様の車ですからね」
良太も苦笑しながらうなずいた。
「まだまだ性能を引き出せそうです」
良太がタブレットで戦闘結果を確認する。
「今回は652万8000ポイントの経験値を稼いで、レベル77まで上がりました」
「また六つ上がったな」
「二回のまとめ狩りだけで、レベル63から77ですからね」
「普通なら何か月、いや何年もかかりそうな経験値だぞ……」
「ですね。これなら森へ入る前に、かなり戦力を底上げできます」
良太がタブレットから顔を上げる。
「そういえば、せっかく【遠隔買取査定】を覚えたんですし、一度試してみましょうか」
「そうだな。105のほうでやってみるか」
良太はタブレットを操作し、遠く離れた105の周囲に倒れている魔物に【遠隔買取査定】を使う。
「えーっと……」
画面を眺めていた良太が、苦笑いを浮かべる。
「思ったより査定額は伸びませんね」
「そんなにダメか?」
「はい。ほとんど値段がついてません」
ドラレコ映像を見れば、理由はすぐにわかる。
雷撃が強力すぎたせいで、肉も皮も真っ黒に焼け焦げている。
「これじゃ素材として使える部分も少なそうだな」
「ですね。経験値稼ぎには最高ですけど、素材集めには向かなそうです」
良太が買取を実行する。
次の瞬間、ドラレコ映像に映る魔物の死骸が淡い光に包まれ、一体、また一体と消えていく。
「おお……」
やがて焼け焦げた地面だけが残り、魔物の死骸は跡形もなくなった。
「これなら回収に行く必要もありませんし、放置して腐らせる心配もありませんね」
「ああ。狩り場もきれいになるし、腐って病気の原因になったり、他の魔物を呼び寄せたりする心配も減る」
「素材が欲しいときは別の倒し方、経験値を稼ぎたいときはこの方法ですね」
「使い分けってことだな」
◇ ◇ ◇
「さて、リンゴと桃はどうなったかな」
俺はテーブルの上に並べられた二つの皿に目を向けた。
片方は、皮をむいてそのまま置いておいたリンゴと桃。
もう片方は、一度ウンディーネの魔力水に浸してから取り出し、同じように皿に並べておいたものだ。
「おっ……」
良太が思わず声を漏らす。
何もしていないほうは、リンゴの切り口が茶色く変色し始め、桃も少しずつ色つやを失っていた。
「こっちは予想どおりですね」
「ああ。普通なら、こんなもんだ」
続いて、魔力水に浸したほうに目を向ける。
「おっ、こっちは変わってないな」
リンゴも桃も、一時間前に切ったとは思えないほどみずみずしい。
切り口は白いまま変色せず、乾燥した様子もまったくない。
「ちゃんと魔力水から取り出して、皿に並べてあったよな?」
「はい。漬けっぱなしじゃありません」
良太はタブレットに表示された『鑑定』の結果を読み、顔を上げる。
「理由が書いてありました」
「何て書いてある?」
「『一度ウンディーネの魔力水で洗浄・浄化された食材には、鮮度を維持する保護膜が形成される』と書いてあります」
「保護膜?」
「はい。だから魔力水から取り出したあとも、酸化や劣化を防いでくれるみたいですね」
「それは便利だな」
俺は感心しながらリンゴを一切れつまみ、口へ運ぶ。
シャクッ。
歯切れのいい音とともに、切りたてそのままの甘い果汁が口いっぱいに広がる。
「味も変わってないな」
良太も桃を一切れ食べ、嬉しそうにうなずく。
「これなら、お弁当に切った果物を入れても大丈夫そうですね。サラダなんかも作り置きできます」
「肉や魚にも試してみたいな」
「ですね。旅をしながら新鮮な食材を持ち運べるなら、料理の幅が一気に広がります」
「ウンディーネって、本当にいろいろできるんだな」
「きゅ~♪」
俺たちの横では、実験に使ったリンゴをもらったバハが、おいしそうに頬張っていた。
◇ ◇ ◇
その間もドラレコ映像の向こうでは、グレーのランクル105が大草原を走り続けている。
――カチッ。
【自動操縦】の遠隔操作でマフラーのバルブが切り替わる。
【癒やしモード(ヒーリング・シンフォニー)】
重低音の代わりに、穏やかな旋律が夜の草原へ静かに響き渡る。
焦げた大地に淡い緑色の光が広がり、雷撃を免れた周囲の草花が少しずつ元気を取り戻していく。
「周りの草は元気を取り戻してますね」
巨大スクリーンを見ていた良太が、ほっとしたように笑う。
「ああ。あとはヘッドライトも使ってみるか」
神様の太陽光ヘッドライトが、焦げた大地を昼間のように照らしていく。
その光を浴びた草花はさらに勢いを取り戻し、焦げた大地に少しずつ緑を広げていった。
「これなら自然を壊しっぱなしにはならないな」
「アンデッドがいたら、この光だけでも逃げ出しそうですね」
「本当に太陽そのものだからな」
グレーのランクル105は、静かな音楽を奏でながら、大草原をゆっくりと巡っていく。
まるで、大地を癒やすために走る巡礼車のようだ。
焦げ跡はまだ残っているが、この様子なら、いずれ元の草原に戻っていくだろう。
「神様らしい終わり方だな」
俺はブラックコーヒーを一口飲みながら、小さく笑う。
「ですね」
良太もうなずき、湯気の立つマグカップを口元へ運んだ。
「今日はもうこの辺にしておくか」
「はい。続きは明日ですね」
「きゅ~♪」
バハも満足そうに鳴き、テーブルの上で丸くなる。
静かな湖畔には、虫の音だけが響いていた。




