第3話 異世界ドライブ、初戦闘
「いやっほーー!!」
助手席で良太が叫ぶ。
赤いランクルは、見渡す限りの大草原を一直線に駆け抜けた。
草をかき分け、起伏のある大地をものともせず突き進む。
端的に言って、最高に気持ちがいい。
以前、モンゴルの大草原をランクルが何台も連なって走る動画を観たことがある。
きっと、こんな気持ちだったのだろう。
「めちゃくちゃ乗り心地がよくなりましたね。前はギッタンバッタンだったのに、今はまるで高級ホテルのラウンジにでもいるみたいですよ」
「ああ、神様の修理という名の魔改造、恐るべしだな。あのリーフサスペンション特有のハードな揺れが、このランクルの醍醐味ではあったんだが……。
とはいえ、これから毎日こんな草原を何十キロ、何百キロと走るなら、この乗り心地が正解なんだろう。
長時間揺られ続けたら、人間のほうが先に参っちまうからな」
「たしかにそうですね。この悪路を飛ばしているのに、車内は驚くほど静かで揺れも少ない。本当にありがたいです。……あっ」
セミバケットシートのポジションを調整していた良太が、ふと天井を見上げた。
「先輩の車って、天井に窓なんてありましたっけ? なんか車内が明るいなと思ったんですよね」
「……あ。いや、もともとはなかったんだ。あの神様が修理するときに付けたみたいだな。
古い車両は水漏れの心配が出てくるし、ボディの強度も変わるし、重心が上がるのが嫌だから、サンルーフのない車両をわざわざ選んでいたんだが……」
「ヒヒイロカネのボディに、神竜の鱗で作ったガラスだから、強度は平気そうですね。開けてみてもいいですか?」
「いいぞ。ガラスを全部スライドさせて開けるのと、後方だけ持ち上げるチルトができるはずだ」
良太がスイッチを操作して天窓を開けると、外の空気が一気に流れ込んできた。
同時に、聞き慣れた1HZエンジンの鼓動と、低く響く排気音が車内へ届いてくる。
神様の魔改造のおかげで防音性能は格段に上がり、窓を閉めれば外の音はほとんど聞こえない。
けれど、こんな晴れた日は違う。
天窓を開け、異世界の風と1HZエンジンの鼓動を感じながら走る。
そのほうが、ずっと気持ちがいい。
「……そうだ、【ネットショッピング】も試してみましょう。さっき少し見たら、飲み物はまだ水しかなかったですけど」
「どこに出てくるんだ? いったん、車を止めるか」
俺はランクルをゆっくりと停めた。
「じゃあ、買ってみてくれ」
タブレットが淡く光る。
次の瞬間、タブレットの十数センチほど上の空間が揺らぎ、小さな段ボール箱がポロリと落ちてきた。
「おお、段ボールに入って届くんですね。開けてみましょう」
良太が手際よく箱を開けると、中には注文通りのミネラルウォーターが入っていた。
「バッチリ水ですね。女神様が言っていた通り、レベルが低いうちはまだこれくらいしか買えないみたいです」
「まあ、異世界の荒野で安全な水が手に入るだけでも大金星だけどな」
「ですね。早くレベルを上げて、コーラとか炭酸飲料をキンキンに冷えた状態で買えるようになりたいですよ」
「――もう少し大きなものを買うときには、車外で買わないと危ないな」
「そうですね。……あ、はい。先輩、お水です。……あれ? この車のドリンクホルダー、なんか形が変わりましたね」
「そうだな。以前は後付けの社外品を無理やり付けていたんだが、あの神様が気を利かせて純正風に作り直してくれたんだろうな」
しばらく草原を走っていると、タブレットをいじっていた良太が、何かを見つけて声を上げた。
「あ、先輩。車内に置く葉っぱの形をした芳香剤もありますよ」
「絶対にいらん! ルームミラーやハンドグリップに芳香剤をぶら下げるのは嫌いなんだ」
同じく、ダッシュボードの上に物を置くのも好かん。
フロントガラスに反射して前が見づらくなるからな。
「あはは、そんなに全否定しなくても。――あ、そうだ、先輩。この段ボールってどうします? 買うたびに毎回出てくると思いますけど」
「……後ろに積んでおけ。あとで火起こしにでも使うか」
「たしかに、焚き付けにはちょうどよさそうですね」
「こういうものは捨てるより、何かに使ったほうがいいからな」
「了解です。……しかし、これ、今は楽しいですけど、ずっとこの景色だと飽きちゃいそうですね。カーナビでも付けてみましょうか。僕が触っても動くのかな――」
お、普通に動くんだな。
良太のやつ、マップを拡大したり縮小したりしているが……それにしても、本当に景色が変わらん。
かれこれ四十キロは走っているが、ずっと同じ草原だ。
そんなことを考えていると、画面を操作していた良太が「あ!」と声を上げた。
「マップを拡大していたから気づかなかったんですけど、縮小したら道が出てきました!」
「道?」
「はい。このまま真っすぐ進めば、あと三十キロほど先で一本の街道と交差します」
三十キロ走ってようやく街道か。この世界、本当に広いな。
「じゃあ、そこまで行ってみるか」
再びランクルを発進させ、しばらく走っていると――インパネ中央のカーナビから突然、激しい警告音が鳴り響いた。
ピピピッ、ピピピッ!
「!!」
「先輩! 赤い点がこっちに向かって急接近してきますよ!」
「魔物か!?」
「わかりません! 結構近くのはずだけど――あ、上です! 空から来ます!」
「な――」
ドォンッ!!
黒い影が上空から急降下し、鳥のような魔物がランクルの左側面へすさまじい勢いで激突した。
衝撃で車体がわずかに傾く。
だが、それだけだった。
魔改造された足回りは一瞬で姿勢を立て直し、ランクルは何事もなかったかのように草原を走り続ける。
「……くそっ!」
「先輩、大丈夫ですか!?」
「俺は平気だ!」
バックミラーを見る。
そこには翼を大きく広げ、再び旋回を始める巨大な鳥型の魔物の姿があった。
「……ピカピカの俺の車に蹴りを入れやがったな」
やっとローンを払い終わったところなのに、こんなことで廃車にされてたまるか……!
「良太、シートベルトを確認しろ!」
「……先輩! 三時の方向からさらに二体接近! 今見えているだけで三体です!」
良太の手元にあるタブレットからも、激しい警告音が鳴り響く。
そういえば、俺の【車両召喚】と良太の【ネットショッピング】は連動していて、あいつの端末からもナビを操作できるんだった。
良太は必死に画面を操作しながら、状況を矢継ぎ早に報告してくる。
その間にも、魔物が次々と急降下してくる。
ガンッ! ガンッ!
鋭いかぎ爪による蹴りに、巨体を叩きつけるような体当たり。
ランクルは立て続けに攻撃を受けていた。
「……『鑑定』できました! Bランク指定の怪鳥『ロック・バルチャー』の群れです! ……総数は五体! ナビの赤丸がいくつか重なって表示されていました!」
五体……!
「そうだ! 先輩、クラクションを長押ししてください!」
クラクション? ……そうか!
俺はステアリングの中央を力強く押し込む。
パァァァーーーーーーーーーーーン!!
神の魔改造によって組み込まれていたのは、バハムートの『威音』を再現した音響兵器だ。
車外では、空気そのものが歪むほどの爆音と衝撃波が草原一帯を揺るがす。
しかし、天窓が開いているにもかかわらず、車内に聞こえてくるのは少し大きめのクラクション程度の音だけだった。
搭乗者を守るための安全機能なのだろう。
その凶悪な衝撃波をまともに浴びたロック・バルチャーたちは、空中で一斉に態勢を崩した。
翼を痙攣させ、きりもみ回転しながら落下していく。
ドサッ! ドサッ! ドサッ!
次々に巨体が草原へ叩きつけられた。
「……すごい、すごい!! 全部落ちました! ……先輩! 今です! まだ動いているやつから順番にはねてください!」
「良太、つかまってろ!」
俺はアクセルを床まで踏み込んだ。
赤いランクルがうなりを上げ、ロック・バルチャーへ一直線に突っ込む。
ドンッ!
鈍い衝突音が響く。
車内では衝撃のほとんどを感じなかったが、ロック・バルチャーの巨体は数メートル後方へ弾き飛ばされ、地面を転がった。
「そいつのナビ反応が消えました! バックして次のやつに向かいましょう。地面に倒れているやつは、首チョップでとどめを刺してください!」
バックギヤに入れ、すぐに切り返す。
二体目のロック・バルチャーの首へ、そのままランクルで乗り上げる。
ゴキリ――
車外から鈍い破砕音が聞こえてくる。
「その反応も消えました! あと三体です!」
残りのロック・バルチャーにも、体当たりと首チョップを繰り返し、一体ずつ確実にとどめを刺していった。
【討伐完了】:ロック・バルチャー × 5
【基本獲得経験値】:2,000pt × 5
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吉原 拓海:Lv.1 ──> Lv.15 UP! (Next640/2,400)
田原 良太:Lv.1 ──> Lv.15 UP! (Next640/2,400)
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すべてのナビ反応が消えた瞬間、俺と良太がまばゆい光に包まれた。
「?!」
「まぶしい!」
それと同時に、電子音のような無機質な声が脳内に鳴り響き、レベルが上がったことを告げてくる。
隣を見ると、良太もまぶしそうに目を細めている。
車内を満たす純白の光が、俺の全身を一気に駆け抜けた。
やがて輝きがゆっくりと収束していくと、体の奥底から力がみなぎってくるのがはっきりとわかった。
初戦闘ボーナス ×3(初回戦闘時のみ)
初集団戦ボーナス ×1.5(初回戦闘時のみ)
無傷討伐ボーナス ×1.5
神話級兵器ボーナス ×1.5
【ボーナス経験値合計】:75,000pt
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吉原 拓海:Lv.15 ──> Lv.26 UP! (Next15,670/15,900)
田原 良太:Lv.15 ──> Lv.26 UP! (Next15,670/15,900)
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新たな称号が付与されます。
【特異点】一度の戦闘でレベルが10以上あがった証。
【星の異端】一度の戦闘でレベルが20以上あがった証。
収まりかけた純白の光が、さらに強く輝き、車内を優しく満たしていく。
まるで俺たちの急成長を祝福するかのような、温かく圧倒的な光だった。
――レベルアップ?
「……ふう、なんとか全部倒せましたね」
「……ああ、急なことで大声を出してしまったが……」
「初めての戦闘なのに、先輩、とても落ち着いていたと思います。というか、僕もですけど、おそらくこの座席やエアコンに『精神安定』の効果が付与されているからでしょうね」
「なるほど。それで、あんな状況でも必要以上に取り乱さずに済んだのか」
「たくさんレベルアップしたおかげで、体が軽いですよ! 実は、異世界に転移して最初の戦闘で大幅にレベルアップするっていうのも『お決まり』のひとつなんです」
――お決まり、か。
草原に倒れているロック・バルチャーの死骸に目を向ける。
本当に異世界に来たんだな――改めてそう実感した。
「称号ももらいましたね」
……称号?
「おそらく称号をもらうと、能力にバフが付いたり、何かしらのメリットがあるんですよ。【買取査定】の『鑑定』で効果を見てみましょう――」
……バフ? レベルアップに称号。
さっきから次々とゲームのような要素が出てくる。
まるで昔遊んだRPGの世界に入り込んでしまったようだ。
「先輩の『鑑定』結果が出ました。――先輩は【買取】不可です」
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吉原 拓海 Lv.26 (Next15,670/15,900)
HP: 2025 (100+1250+675)
MP: 2025 (100+1250+675)
STR: 70 (10+25+35)
DEX: 70 (10+25+35)
VIT: 70 (10+25+35)
AGI: 70 (10+25+35)
INT: 70 (10+25+35)
MND: 70 (10+25+35)
LUK: 70 (10+25+35)
※括弧内の数値は左から(基本値 + レベルアップボーナス + 称号によるボーナス)
【称号】
【天上の寵児】
神の視線を一身に集め、最も愛されている地上の子ども。
戦闘終了時に新たな称号を得る場合がある。
【特異点】
一度の戦闘でレベルが10以上あがった証。
合計HP、合計MPの半分を加算する。
【星の異端】
一度の戦闘でレベルが20以上あがった証。
合計ステータスを2倍にした値を加算する。
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「――以上が先輩と僕のステータスです。同じレベルということは、経験値は均等割りでしょうか。……HPは生命力、MPは魔力量、STRは筋力、DEXは器用、VITは耐久、AGIは俊敏、INTは魔力、MNDは精神、LUKは幸運ですね。それにしても【天上の寵児】ですか……。なんだかすごそうな称号を持っていたんですね、僕たち」
多少はゲームをしたことがあるから、良太が説明してくれた用語の意味もなんとなくはわかる。
「……はあ、なんだか僕たち本当に異世界に来ちゃったんですね」
「声を張り上げていたからのどが痛いな。あんなに大声を上げたのはいつ以来か」
「サンルーフを開けたままにしていたから、エンジン音が大きかったですね……。って、先輩……う、上に」
上?
目が合った。
天窓の向こう、青い空を背景に――それはいた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
INTを『知力』としてしまうと、これから成長していったときの描写が大変なので『魔力』としました。
ちなみに、『INTが大幅に上がっているのに主人公の思考が変化していない』というのも、異世界もののお決まりですね。
本作のレベルアップに必要な『Next経験値』は以下のようになっています。
Lv1 Next20
Lv2 45
Lv3 80
Lv4 125
Lv5 180
Lv10 700
Lv20 6,000
Lv30 25,000
Lv40 65,000
Lv50 150,000
Lv60 380,000
Lv70 860,000
Lv80 1,660,000
Lv90 2,960,000
Lv99 4,693,399
Lv1からカンストまでに必要な累計経験値は、81,620,769です。
※上記は各レベルから次のレベルへ上がるために必要な『Next経験値』です。




