第31話 五台目のランクル
昼食を取りながら、良太が俺たちの格好を見て苦笑した。
「そういえば、僕たちの格好もだんだん適当になってきましたね」
そう言われて、自分の格好に目を落とす。
「二号車で足を伸ばして寝るようになってから、ずっとジャージにサンダルですよ。当初はパジャマ代わりに買ったはずなんですけど」
俺は苦笑する。
「かかと付きのサンダルは歩きやすいしな。車の乗り降りも楽だ。ついラフな格好になっちまう」
「ちょっと気を引き締めないといけませんね」
「まあ、気持ちはな」
言いながら缶コーヒーを一口飲む。
旅を始めた頃は、とてもこんな格好で車の外へ出る余裕なんてなかった。
良太も同じことを思ったのか、小さくうなずいた。
「僕たちが強くなったのもあるんでしょうね。最初の頃は、こうして二人そろって車の外でのんびり昼ご飯なんて、とてもできませんでしたし」
「ああ」
ロック・バルチャーに襲われたあの日は、一人が外へ出れば、もう一人は必ず車内に残って警戒する。
二人同時に車外へ出るなんて考えもしなかった。
それが今では、景色を眺めながら昼食を楽しめる。
レベルが上がり、バハという心強い仲間も増えた。
気づけば、俺たちの旅は少しずつ変わってきていた。
良太は少し考え込むように腕を組んだ。
「ただ、そろそろ身を守る防具は欲しいところではあります」
「……防具か」
「はい。武器も強くなりましたし、身体能力もかなり上がりました。でも、ジャージにサンダルっていうのも、さすがに心許ないですよね」
そう言って、良太は自分の服装を見下ろす。
「僕たちの防御力は、このランクルがあってこそです。今朝試した魔剣みたいな攻撃を、車の外でまともに受けたら、ひとたまりもないんじゃないですか?」
「それはたしかにあるな」
俺も素直にうなずいた。
レベルが上がったとはいえ、生身であの威力を受けて無事で済むとは思えない。
「とはいえ、着込むような防具は勘弁だな。動きづらいし、ドライブにも向かない」
「わかります」
良太は苦笑する。
「その辺も含めて、ぼちぼち考えてみます。元の世界で買えるものの中にも、使えそうな装備があるかもしれませんし」
「ランクルに頼らない防御力を手に入れられたら、オープンカーにも乗れるな」
「ランクルにもオープンカーがあるんですか?」
良太が少し意外そうな顔をする。
「ああ。正確には、このナナマルのショートボディの屋根が鉄じゃなくて、幌になっているモデルだ。ヨンマルにも幌車はあるな」
「そういえば、以前少し聞きましたね」
「その幌を外して、フロントガラスまで前へ倒せば、完全なオープンになる」
「へぇ……」
良太は興味深そうにうなずく。
「まあ実際、幌を外せば普通の車ほど快適じゃないだろうが、それもオープンカーの醍醐味だろ」
「ちょっと見てみましょうか」
良太はタブレットを取り出し、【ネットショッピング】で検索を始める。
「あ、ありますね。幌タイプのショートボディです」
画面をスクロールしながらうなずく。
「お金があるうちに、一台買っておきますか?」
「そうだな……」
俺は少し考えてから笑う。
「どうせなら、マオたちが遊びに来たとき用に、オートマ仕様にしておくか」
「ATなら運転もしやすいですし、僕も気楽に乗れますね」
「あの二人なら、魔物に襲われてもなんてことないだろう。心配なのは運転のほうだ」
「それならATにしておくのが無難ですね」
「じゃあ、タイプは現行(第四世代)のナナマル。色は……そうだな」
赤、白、紺、グレー。
ここまで揃っているなら、次も被らない色がいい。
「黒か、ベージュあたりか?」
「ベージュ可愛いですね」
良太は画面を見ながら笑った。
「なんだか、アフリカのサバンナを走っている車って感じがします」
「たしかに、そんなイメージはあるな」
俺も思わずうなずく。
「つばの広いベージュのサファリハットを被って、サングラスなんかかけてな」
「似合いそうですね」
「景色も相まって、気分は探検隊だ」
「買っちゃいましょうよ。なんだか楽しそうです」
「きゅ~!」
俺たちの話を聞いていたバハが、嬉しそうに鳴いた。
「そうだな」
俺もタブレットをのぞき込む。
「仕様は……ベージュの幌タイプ。それと見た目は、前後アイアンバンパー、鉄チンホイール、二インチアップくらいか」
頭の中で完成した姿を思い浮かべながら続ける。
「今回はスペアタイヤも後ろに背負わせよう。実用というより遊び用だし、そのほうが雰囲気も出る」
「この横の柄も入れてもらいましょうよ」
良太が画面を指さす。
「お、いいな」
俺はうなずいた。
「デカールを貼ると、一気に海外仕様っぽくなる」
「こんなところですかね」
良太が最後のチェックを終え、画面を見つめる。
「これでいくらになる?」
「えっと……神様の魔改造仕様で……3000万ポイントですね」
「前に買ったグレーのランクル105と同じ値段です」
「よし! じゃあ、買ってくれ」
「はい、いきますよ――ポチッ!」
――ドンッ!
目の前の草地に、ベージュのランクルが姿を現した。
「来たぞ! おお、現行型の顔もこの感じに合っていてかっこいいな」
「五台目ともなると、この光景にも見慣れてきましたけど、新しい車が来る瞬間は、いつだっていいものですね」
「ああ」
俺はベージュのランクルを眺めながらうなずく。
「今回のエンジンは4.0LのV6ガソリン、1GR-FEだ。国内の第三世代にも載っていたエンジンで、俺たちのランクルじゃ初めてのガソリン車になる」
「今までは全部ディーゼルでしたもんね」
「そうだな。セルフ給油だとガソリンと軽油の入れ間違いが怖いが、【自動補充】で燃料まで勝手に補充される今は、その心配もない」
「便利になりましたね」
ベージュのボディに、同色の幌。
前後に無骨なアダマンタイトのバンパーを備え、鉄チンホイールとリアのスペアタイヤが、いかにも海外仕様らしい雰囲気を醸し出している。
「やっぱり、この組み合わせはかっこいいな」
「いかにも海外仕様って感じですね」
「よし。さっそく幌は外しちまおう。今日は天気もいいしな」
「本当に外すんですね」
「ああ。雨が降ってきたら、ほかのランクルへ乗り換えればいいだけだ」
二人で固定金具を外し、幌を持ち上げる。
頭上を覆っていた屋根がなくなると、一気に青空が広がった。
「おお……」
「これだけでも、かなり開放感がありますね」
「まあ、上から入ってくる虫や砂埃までは防げないけどな。それでもフロントと横は結界ガラスで守られている分、普通のオープンカーよりずっと快適だろう」
「座り心地もいいし、贅沢なオープンカーですね」
「そういうことだ」
「このシートの後ろにあるバーって、外れないんですか?」
「ああ、ロールバーのことか」
俺は軽く叩いて見せる。
「これは重要なパーツだ。横転したときに、これがなかったら首がもげるぞ。冗談抜きで命を守る部品だからな」
「そんなに大事なんですか?」
「大事だぞ。車がひっくり返っても、フロント側とこのロールバーで、乗員の頭上に空間を残してくれる。だから乗っている人が押し潰されにくいんだ」
「なるほど。それならついていたほうが安心ですね」
「じゃあ、さっそく乗ってみようぜ。バハもいるし、そうそう魔物に襲われることもないだろう」
「ですね」
「きゅー!」
俺は赤いランクルを【格納】し、ベージュのランクルへ乗り込んだ。
幌を外した車内は驚くほど開放的だ。
頭上にはどこまでも青い空が広がり、心地よい風が吹き抜けていく。
キーをひねる。
――キュルッ。
ブォン……。
4.0リッターV型6気筒ガソリンエンジンが、静かに目を覚ます。
俺は思わずアクセルを軽く煽った。
ブォォンッ――
回転計の針が軽やかに跳ね上がり、それに合わせて乾いた排気音が大草原へ響いていく。
「おお……」
思わず笑みがこぼれた。
「ガソリンエンジンらしい、気持ちのいい吹け上がりだな」
「ディーゼルとは全然違いますね」
「ああ」
俺はうなずく。
「もちろん、俺は1HZのあのドコドコした鼓動感が一番好きだ。でも、この軽快に回る感じはガソリンならではだな」
もう一度だけアクセルを軽く踏み込む。
ブォンッ。
アクセルに素直に反応して回転が上がり、耳に心地よい排気音を残して落ち着いていく。
「これはこれで、運転していて楽しい」
「僕でも違いがわかります。なんだか軽やかですね」
「だろ? エンジンが違うだけで、同じランクルでもずいぶん性格が変わるもんだ」
シフトをDに入れ、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
V6ガソリンエンジンが軽快なサウンドを響かせながら、ベージュのランクルはゆっくりと走り始めた。
右手には、陽光を受けて青く輝くラズライト湖。
左手には、どこまでも続く大草原。
さっきまでと同じ景色のはずなのに、頭上まで開けた車内から眺めると、まるで違って見える。
幌のない車内へ流れ込む風を全身で感じながら、俺たちはそのまま湖畔を時計回りに、西岸へ向かって走り出した。
しばらく湖畔を走っていると、正面の景色が少しずつ変わり始めた。
どこまでも続いていた大草原が終わりを迎え、その先には深い緑の森が広がっている。
「西側へ来たな」
ラズライト湖は、この西側から北側にかけて大きな森と接している。
木々は空高く枝葉を伸ばし、湖畔まで濃い木陰を落としていた。
「景色が一気に変わりましたね」
「本当だな。東側や南側とは、まるで別の場所みたいだ」
大草原では遠くまで見渡せた景色も、ここでは森が視界をさえぎる。
木々の隙間から差し込む木漏れ日が、湖面を静かに照らしていた。
「湖を一周したら、次は森へ入ってみるか」
俺は前方を見据えながらつぶやく。
「それか、北側へ流れ込んでいる川を上流までさかのぼるのも面白そうだな」
「いいですね」
良太もうなずく。
「森なら、また違う魔物や食材もありそうですし」
「川の上流なら、滝なんかもあるかもしれんな」
そんな話をしていると、
「きゅ~♪」
後ろからご機嫌な鳴き声が聞こえてきた。
振り返ると、バハはロールバーに前足をかけたまま、翼を広げて後ろ足をふわりと浮かせ、吹き抜ける風を全身で受けていた。
気持ちいいのだろう。
目を細め、耳をぴくぴくと動かしながら、尻尾を機嫌よく左右へ振っている。
「気に入ったみたいですね」
「ああ」
俺も思わず笑う。
「幌を外して正解だったな」
「きゅー!」
バハは嬉しそうに返事をすると、翼をさらに大きく広げ、強く吹き込んできた風を受けて胸を張った。
その姿を見て、俺たちも自然と笑みがこぼれる。
ベージュのランクルは軽快なV6サウンドを響かせながら、木々に囲まれた湖畔をゆっくりと北へ進んでいく。
昼食を取りながら、良太が俺たちの格好を見て苦笑した。
「そういえば、僕たちの格好もだんだん適当になってきましたね」
そう言われて、自分の格好に目を落とす。
「二号車で足を伸ばして寝るようになってから、ずっとジャージにサンダルですよ。当初はパジャマ代わりに買ったはずなんですけど」
俺は苦笑する。
「かかと付きのサンダルは歩きやすいしな。車の乗り降りも楽だ。ついラフな格好になっちまう」
「ちょっと気を引き締めないといけませんね」
「まあ、気持ちはな」
言いながら缶コーヒーを一口飲む。
旅を始めた頃は、とてもこんな格好で車の外へ出る余裕なんてなかった。
良太も同じことを思ったのか、小さくうなずいた。
「僕たちが強くなったのもあるんでしょうね。最初の頃は、こうして二人そろって車の外でのんびり昼ご飯なんて、とてもできませんでしたし」
「ああ」
ロック・バルチャーに襲われたあの日は、一人が外へ出れば、もう一人は車内で警戒。
二人同時に車外へ出るなんて考えもしなかった。
それが今では、景色を眺めながら昼食を楽しめる。
レベルが上がり、バハという心強い仲間も増えた。
気づけば、俺たちの旅は少しずつ変わってきていた。
良太は少し考え込むように腕を組んだ。
「ただ、そろそろ身を守る防具は欲しいところではあります」
「……防具か」
「はい。武器も強くなりましたし、身体能力もかなり上がりました。でも、ジャージにサンダルっていうのも、さすがに心許ないですよね」
そう言って、良太は自分の服装を見下ろす。
「僕たちの防御力は、このランクルがあってこそです。今朝試した魔剣みたいな攻撃を、車の外でまともに受けたら、ひとたまりもないんじゃないですか?」
「それはたしかにあるな」
俺も素直にうなずいた。
レベルが上がったとはいえ、生身であの威力を受けて無事で済むとは思えない。
「とはいえ、着込むような防具は勘弁だな。動きづらいし、ドライブにも向かない」
「わかります」
良太は苦笑する。
「その辺も含めて、ぼちぼち考えてみます。元の世界で買えるものの中にも、使えそうな装備があるかもしれませんし」
「ランクルに頼らない防御力を手に入れられたら、オープンカーにも乗れるな」
「ランクルにもオープンカーがあるんですか?」
良太が少し意外そうな顔をする。
「ああ。正確には、このナナマルのショートボディの屋根が鉄じゃなくて、幌になっているモデルだ。ヨンマルにも幌車はあるな」
「そういえば、以前少し聞きましたね」
「その幌を外して、フロントガラスまで前へ倒せば、完全なオープンになる」
「へぇ……」
良太は興味深そうにうなずく。
「まあ実際、幌を外せば普通の車ほど快適じゃないだろうが、それもオープンカーの醍醐味だろ」
「ちょっと見てみましょうか」
良太はタブレットを取り出し、【ネットショッピング】で検索を始める。
「あ、ありますね。幌タイプのショートボディです」
画面をスクロールしながらうなずく。
「お金があるうちに、一台買っておきますか?」
「そうだな……」
俺は少し考えてから笑う。
「どうせなら、マオたちが遊びに来たとき用に、オートマ仕様にしておくか」
「ATなら運転もしやすいですし、僕も気楽に乗れますね」
「あの二人なら、魔物に襲われてもなんてことないだろう。心配なのは運転の方だ」
「それならATにしておくのが無難ですね」
「じゃあ、タイプは現行(第四世代)のナナマル。色は……そうだな」
赤、白、紺、グレー。
ここまで揃っているなら、次も被らない色がいい。
「黒か、ベージュあたりか?」
「ベージュ可愛いですね」
良太は画面を見ながら笑った。
「なんだか、アフリカのサバンナを走っている車って感じがします」
「たしかに、そんなイメージはあるな」
俺も思わずうなずく。
「つばの広いベージュのサファリハットを被って、サングラスなんかかけてな」
「似合いそうですね」
「景色も相まって、気分は探検隊だ」
「買っちゃいましょうよ。なんだか楽しそうです」
「きゅ~!」
『楽しい』という言葉に反応したのか、バハが嬉しそうに鳴いた。
「そうだな」
俺もタブレットをのぞき込む。
「仕様は……ベージュの幌タイプ。それと見た目は、前後アイアンバンパー、鉄チンホイール、二インチアップくらいか」
頭の中で完成した姿を思い浮かべながら続ける。
「今回はスペアタイヤも後ろに背負わせよう。実用というより遊び用だし、そのほうが雰囲気も出る」
「この横の柄も入れてもらいましょうよ」
良太が画面を指さす。
「お、いいな」
俺はうなずいた。
「デカールを貼ると、一気に海外仕様っぽくなる」
「こんなところですかね」
良太が最後のチェックを終え、画面を見つめる。
「これでいくらになる?」
「えっと……神様の魔改造仕様で……3000万ポイントですね」
「前に買ったグレーのランクル105と同じ値段です」
「よし! じゃあ、買ってくれ」
「はい、いきますよ――ポチッ!」
――ドンッ!
目の前の草地に、ベージュのランクルが姿を現した。
「来たぞ! おお、現行型の顔もこの感じに合っていてかっこいいな」
「五台目ともなると、この光景にも見慣れてきましたけど、新しい車が来る瞬間は、いつだっていいものですね」
「ああ」
俺はベージュのランクルを眺めながらうなずく。
「今回のエンジンは4.0LのV6ガソリン、1GR-FEだ。国内の第三世代にも載っていたエンジンで、俺たちのランクルじゃ初めてのガソリン車になる」
「今までは全部ディーゼルでしたもんね」
「そうだな。セルフ給油だとガソリンと軽油の入れ間違いが怖いが、【自動補充】で燃料まで勝手に補充される今は、その心配もない」
「便利になりましたね」
ベージュのボディに、同色の幌。
前後に無骨なアダマンタイトのバンパーを備え、鉄チンホイールとリアのスペアタイヤが、いかにも海外仕様らしい雰囲気を醸し出している。
「やっぱり、この組み合わせはかっこいいな」
「いかにも海外仕様って感じですね」
「よし。さっそく幌は外しちまおう。今日は天気もいいしな」
「本当に外すんですね」
「ああ。雨が降ってきたら、ほかのランクルへ乗り換えればいいだけだ」
二人で固定金具を外し、幌を持ち上げる。
頭上を覆っていた屋根がなくなると、一気に青空が広がった。
「おお……」
「これだけでも、かなり開放感がありますね」
「まあ、上から入ってくる虫や砂埃までは防げないけどな。それでもフロントと横は結界ガラスで守られてる分、普通のオープンカーよりはずっと快適だろう」
「座り心地もいいし、贅沢なオープンカーですね」
「そういうことだ」
「このシートの後ろにあるバーって、外れないんですか?」
「ああ、ロールバーのことか」
俺は軽く叩いて見せる。
「これは重要なパーツだ。横転したときに、これがなかったら首がもげるぞ。冗談抜きで命を守る部品だからな」
「そんなに大事なんですか?」
「大事だぞ。車がひっくり返っても、フロント側とこのロールバーで、乗員の頭上に空間を残してくれる。だから乗っている人が押し潰されにくいんだ」
「なるほど。それならついていたほうが安心ですね」
「じゃあ、さっそく乗ってみようぜ。バハもいるし、そうそう魔物に襲われることもないだろう」
「ですね」
「きゅー!」
俺は赤いランクルを【格納】し、ベージュのランクルへ乗り込んだ。
幌を外した車内は驚くほど開放的だ。
頭上にはどこまでも青い空が広がり、心地よい風が吹き抜けていく。
キーをひねる。
――キュルッ。
ブォン……。
4.0リッターV型6気筒ガソリンエンジンが、静かに目を覚ます。
俺は思わずアクセルを軽く煽った。
ブォォンッ――
回転計の針が軽やかに跳ね上がり、それに合わせて乾いた排気音が大草原へ響いていく。
「おお……」
思わず笑みがこぼれた。
「ガソリンエンジンらしい、気持ちのいい吹け上がりだな」
「ディーゼルとは全然違いますね」
「ああ」
俺はうなずく。
「もちろん、俺は1HZのあのドコドコした鼓動感が一番好きだ。でも、この軽快に回る感じはガソリンならではだな」
もう一度だけアクセルを軽く踏み込む。
ブォンッ。
アクセルに素直に反応して回転が上がり、耳に心地よい排気音を残して落ち着いていく。
「これはこれで、運転していて楽しい」
「僕でも違いがわかります。なんだか軽やかですね」
「だろ? エンジンが違うだけで、同じランクルでもずいぶん性格が変わるもんだ」
シフトをDに入れ、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
V6ガソリンエンジンが軽快なサウンドを響かせながら、ベージュのランクルはゆっくりと走り始めた。
右手には、陽光を受けて青く輝くラズライト湖。
左手には、どこまでも続く大草原。
さっきまでと同じ景色のはずなのに、頭上まで開けた車内から眺めると、まるで違って見える。
幌のない車内へ流れ込む風を全身で感じながら、俺たちはそのまま湖畔を時計回りに、西岸へ向かって走り出した。
しばらく湖畔を走っていると、正面の景色が少しずつ変わり始めた。
どこまでも続いていた大草原が終わりを迎え、その先には深い緑の森が広がっている。
「西側へ来たな」
ラズライト湖は、この西側から北側にかけて大きな森と接している。
木々は空高く枝葉を伸ばし、湖畔まで濃い木陰を落としていた。
「景色が一気に変わりましたね」
「本当だな。東側や南側とは、まるで別の場所みたいだ」
大草原では遠くまで見渡せた景色も、ここでは森が視界をさえぎる。
木々の隙間から差し込む木漏れ日が、湖面を静かに照らしていた。
「湖を一周したら、次は森へ入ってみるか」
俺は前方を見据えながらつぶやく。
「それか、北側へ流れ込んでいる川を上流までさかのぼるのも面白そうだな」
「いいですね」
良太もうなずく。
「森なら、また違う魔物や食材もありそうですし」
「川の上流なら、滝なんかもあるかもしれんな」
そんな話をしていると、
「きゅ~♪」
後ろからご機嫌な鳴き声が聞こえてきた。
振り返ると、バハはロールバーに前足をかけたまま、翼を広げて後ろ足をふわりと浮かせ、吹き抜ける風を全身で受けていた。
気持ちいいのだろう。
目を細め、耳をぴくぴくと動かしながら、尻尾を機嫌よく左右へ振っている。
「気に入ったみたいですね」
「ああ」
俺も思わず笑う。
「幌を外して正解だったな」
「きゅー!」
バハは嬉しそうに返事をすると、翼をさらに大きく広げ、強く吹き込んできた風を受けて胸を張った。
まるで自分もランクルと一緒に風を切って走っているような気分なのかもしれない。
その姿を見て、俺たちも自然と笑みを浮かべた。
ベージュのランクルは軽快なV6サウンドを響かせながら、木々に囲まれた湖畔をゆっくりと北へ進んでいく。
あとがき
とうとう、拓海たちは異世界でオープンカーを手に入れました!
これで初期型、再販型、現行型と、ナナマル三世代のフロントフェイスが揃いました。
先日、ナナマルショートの幌車を公式チャンネルで紹介している動画を観ましたが、本当にかっこいいですね。
日本でも発売されるのでしょうか。
カクヨムの近況ノートにイメージイラストを追加しました。
ベージュのオープンカーに乗っているマオ(拓海の想像)
https://kakuyomu.jp/users/misato_ooshima/news/2912051606327441152
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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