第26話 冒険者ギルド、査定結果
第3話の文章欄に第4話をコピペしてしまい。第3話と第4話が同じないようになっていました。
現在は修正されていますので、まだお読みになっていない方はそちらからお楽しみください。
しばらくして、応接室の扉が再び開いた。
ギルドマスターが数名の職員を伴い、部屋へ戻ってくる。
「お待たせいたしました」
ギルドマスターは一礼すると、穏やかな笑みを浮かべた。
「査定が完了いたしました」
一呼吸置いて、マオへ視線を向ける。
「すべて合わせまして――十億イエンで、お譲りいただければと思いますが、いかがでしょうか」
バンポーさんが静かに微笑んだ。
「どうやら、ずいぶん色をつけてくださったようですな」
ギルドマスターも微笑み返す。
「はい。結界強化されたSランク素材は、市場へほとんど出回りません。特にタキタロウの大鱗は、王侯貴族や一流工房が競って求める品です。ギルドとしても、ぜひ確保させていただきたく存じます」
マオは俺へ視線を向けた。
「いい?」
俺は小さくうなずく。
「俺は構わない」
「ん」
マオもうなずき返す。
「売る」
「ありがとうございます」
ギルドマスターが一礼すると、部屋の外で待機していた職員たちへ目配せした。
直後――
ガラガラガラ……。
重い車輪の音を響かせながら、数台の台車が部屋へ運び込まれる。
その上には、いくつもの貨幣箱がぎっしりと積み上げられていた。
職員たちが一つ、また一つと蓋を開けていく。
中に収められていた白金貨と金貨が光を反射し、まばゆい輝きが室内へ広がった。
「こちらが、お支払いでございます」
ギルドマスターが内訳を説明する。
「白金貨九百枚。金貨千枚。合計で十億イエン分でございます」
目の前へ積み上げられた貨幣の山に、俺は思わず苦笑した。
「これは……さすがに持ち歩けないな」
マオが尋ねる。
「しまえる?」
俺はすぐに良太を見る。
「良太」
「はい」
「【お財布】にしまってくれ」
「わかりました」
良太は右手を軽く掲げる。
「【お財布】」
次の瞬間、白金貨と金貨が淡い光に包まれた。
九百枚の白金貨。
千枚の金貨。
それらは一枚残らず吸い込まれるように消えていく。
わずか数秒。
先ほどまで貨幣箱を満たしていた白金貨と金貨は、跡形もなく消え去っていた。
「収納完了です」
良太が笑顔で報告する。
「それでは、本日はこの後、いかがなさいますか? もしよろしければ、高難易度かつ高報酬の依頼をいくつかご用意することもできますが」
マオは首を横に振った。
「帰る」
そして、俺たちを見る。
「街、案内する」
「承知いたしました」
ギルドマスターは残念そうな様子も見せず、穏やかに一礼した。
「ぜひ、ブルーム王国の街並みをごゆっくりお楽しみください。そして、お時間がございましたら、またいつでも当ギルドへお立ち寄りくださいませ」
「ありがとうございます」
俺と良太も頭を下げる。
俺たちが応接室を出ると、ギルドマスター自ら数名の職員とともに入口まで見送ってくれた。
ロビーにいた冒険者たちも、再びマオたちへ視線を向ける。
「マオ様だ……」
「今日は依頼じゃなかったのか」
そんなささやき声が聞こえる中、俺たちはギルドの外へ出た。
マオが俺を見上げる。
「車」
「ああ」
俺はうなずき、右手を軽く前へかざした。
「【車両召喚】」
淡い光が集まり、次の瞬間――
ドンッ。
グレーのランクル105が、重量感のある音とともにギルド前へ姿を現した。
マオが言っていた通り、通行人たちは不思議そうにちらりと見るだけで、馬車が一台停まった程度の反応しか示さなかった。
「【認識改変】、本当に便利ですね」
良太が感心しながら後部座席のドアを開ける。
マオは迷わず助手席へ。
バンポーさん、バハ、良太の三人は後部座席へ乗り込んだ。
「【認識改変】もそうですが、高ランク冒険者は【収納】を持っていることも多いので、馬車の出し入れではあまり驚きません」
ランクルに乗り込んだバンポーさんが教えてくれた。
◇ ◇ ◇
――ブルルルル……。
1HZエンジンが静かに息を吹き返し、ランクルはゆっくりと石畳の上を走り始めた。
窓の外では人々が行き交い、露店の呼び込みの声が街中へ響いている。
そんな中、不意にマオが小さく首をかしげた。
「……ん?」
助手席で自分の手を見つめ、何かを確かめるようにじっとしている。
「どうした?」
俺が尋ねると、マオは不思議そうな顔のまま答えた。
「MP」
「回復してる」
「さっき【転移】で使った」
「もう戻った」
俺は「ああ」とうなずいた。
「そのシートに座っていると、HPやMPが自然に回復するんだ。けがをしても治る」
「ん……」
マオは少し驚いたようにシートへ視線を落とした。
「回復魔法?」
「いや、俺たちも詳しい仕組みはわからない」
俺は苦笑する。
「神様が車を創るときに、そういう機能をつけてくれたみたいなんだ」
マオは何度かシートを軽く叩き、その感触を確かめる。
そして一言。
「これも」
「あとで神にもらう」
一瞬、車内が静まり返る。
「あははは!」
良太が吹き出した。
「マオちゃん、本当に神様と友達なんですね」
俺も苦笑する。
「神様も、そんなお願いをされたら困るんじゃないか?」
「ん」
マオは真剣な表情でうなずいた。
「お願いする」
あまりにも真面目な返事に、今度はバンポーさんまで肩を震わせた。
「ははは……これは神様も大変でございますな」
穏やかな笑い声が、静かなランクルの車内へと広がっていった。
ランクルは石畳の大通りをゆっくりと進んでいく。
助手席のマオは、窓の外を指さしながら街を案内し始めた。
「ここ」
広場の中央には、大きな噴水があった。
「中央の噴水」
白い石で造られた噴水からは澄んだ水が何重にも噴き上がり、その周りでは子どもたちが元気よく遊んでいた。
「待ち合わせ、ここ」
「なるほど。街の目印なんだな」
「ん」
次に、街の奥へそびえ立つ壮麗な城を指さす。
「あれ」
「王城」
「王、いる」
青空を背にした白亜の城は、いくつもの塔を備え、街のどこからでも見えるほどの存在感を放っていた。
「すごいな……」
俺が思わず見上げる。
「本当にお城だ」
良太も感心したようにうなずいた。
さらにマオは、一軒の店を指さした。
「パン」
店先には焼きたてらしいパンが並び、香ばしい匂いが通りまで漂ってくる。
「あそこ」
「おいしい」
「きゅ!」
後部座席から、バハが元気よく返事をした。
その声に俺が笑う。
「バハもお気に入りなんだな」
「きゅっ!」
うれしそうに何度もうなずくバハを見て、マオも満足そうに小さくうなずいた。
「ん」
「いつも来る」
そして今度は反対側を指さす。
「あっち」
「市場」
「肉、魚、野菜」
「全部ある」
「今度ゆっくり見て回りたいですね」
良太が目を輝かせると、マオは小さく笑みを浮かべた。
「ん」
「あとで行く」
街並みを眺めながら、良太がふと思い出したように口を開く。
「そういえば……今回、僕たちがBランクから登録できたということは、この世界の冒険者とも、それなりに渡り合える実力があるって考えていいんですか?」
マオは迷うことなくうなずいた。
「ん」
「二人とも強い」
続けて、小さく人差し指を立てる。
「でも」
「油断だめ」
「いろんなの、いる」
「なるほど」
俺も真剣にうなずく。
「Bランクになったからって安心するなってことか」
「ん」
マオは短く答えた。
「強いの」
「変なの」
「いっぱいいる」
「気をつけます」
良太も素直にうなずく。
すると、後部座席のバンポーさんが穏やかに微笑んだ。
「もっとも……マオ様のパーティーメンバーへ、わざわざ手を出そうとする者は、そう多くはないでしょうな」
「それだけマオちゃんが有名ってことですか?」
「ええ」
バンポーさんは静かにうなずく。
「この国でマオ様のお名前を知らぬ者は、ほとんどおりませんから」
一拍置いて、穏やかに続ける。
「それこそ、ブルーム王とも面識がおありです」
「王も」
マオが何気なくつけ加えた。
「友達」
「え?」
俺が思わず聞き返す。
「この国の王様と?」
「ん」
マオは小さくうなずく。
「妃も」
さらりと続ける。
車内が一瞬静まり返る。
俺と良太は顔を見合わせた。
「……もう驚くのも疲れてきたな」
俺は苦笑いした。
「ですね……」
良太も乾いた笑みを浮かべた。
「神様と友達で、魔王で、Sランク冒険者で、今度は国王夫妻ともお友達ですか」
「なんだか、もう『そういうものなんだ』って思えてきました」
「ん」
マオは満足そうにうなずく。
「友達」
その一言に、俺と良太は揃って苦笑するしかなかった。
そんな俺たちを見て、バンポーさんも穏やかに笑みを浮かべる。
ランクルは中央広場を離れ、ゆっくりと街の奥へ進んでいく。
マオは窓の外を見ながら、短く説明を続けた。
「あっちは」
「貴族街」
道幅はさらに広くなり、やがて大きな屋敷が立ち並ぶ区域へ入る。
高い石塀に囲まれた邸宅。
手入れの行き届いた庭園。
門の前には衛兵が立ち、豪華な馬車が静かに行き交っていた。
「雰囲気が一気に変わりますね」
良太が感心する。
「ん」
マオはうなずく。
そして今度は別の道を指さした。
「次」
「貧民街」
「ちょっと見る」
「貧民街もあるのか」
「ある」
「でも」
「平和」
マオの言う通り、建物こそ質素になるものの、通りでは子どもたちが走り回り、人々も普段通りの生活を送っていた。
荒れ果てた治安の悪い場所という印象ではない。
しばらく進むと、マオが前を指さす。
「止めて」
「教会」
街角に建つ白い石造りの教会だった。
尖塔の先には金色の聖印が輝き、色鮮やかなステンドグラスが陽光を受けて美しくきらめいている。
正面には花壇が整えられ、小さな噴水と木々に囲まれた穏やかな雰囲気が漂っていた。
俺は教会前の空いた場所へランクルを寄せ、ゆっくりと停車する。
車を降りると、俺はいつものように右手をかざした。
「【格納】」
グレーのランクルは淡い光に包まれ、静かに姿を消した。
すると教会の扉が開き、一人のシスターがこちらへ歩いてくる。
二十代半ばほどの、穏やかな雰囲気をまとった女性だった。
「マオ様」
シスターは柔らかく微笑み、一礼する。
「ジー様、バー様も、お久しぶりでございます」
「ん」
マオは小さくうなずいた。
「久しぶり」
シスターは続いて俺と良太へも微笑みかける。
「初めまして。私はこの教会に仕えております、シスターのレティシアと申します。本日はようこそお越しくださいました」
「初めまして」
俺と良太も軽く頭を下げる。
挨拶を終えると、マオは教会の横を指さした。
「行く」
「孤児院」
教会の裏手へ回ると、そこには二階建ての大きな建物が建っていた。
豪華ではない。
しかし、壁も屋根も丁寧に手入れされ、窓ガラスは磨き上げられている。
庭には花壇と小さな畑があり、洗濯物が風にゆれていた。
子どもたちが遊べる木製の遊具もあり、どこか温かな空気が流れている。
「立派ですね」
良太が思わずつぶやく。
俺もうなずいた。
「ああ。質素だけど、大事にされているのがよくわかるな」
「ん」
マオは満足そうにうなずき、迷いなく孤児院の扉を開けた。
中へ入ると、木の温もりを感じる広い玄関ホールが姿を現した。
廊下の先からは、子どもたちの元気な笑い声が聞こえてくる。
その声が、ふと止まった。
「あっ!」
一人の少女がマオに気づく。
「マオ様だ!」
その一言を合図にしたように、奥から子どもたちが一斉に駆け出してきた。
「ほんとだ!」
「マオ様だー!」
「おかえりなさい!」
十人ほどの子どもたちが満面の笑みでマオを囲む。
マオは小さく笑みを浮かべると、一人ひとりの頭を優しくなでていく。
「ん」
「ただいま」
その短い一言だけで、子どもたちはさらにうれしそうな笑顔になった。
「今日はバーもいる!」
「ジー様も!」
バハは少し照れくさそうに頭をかきながら、小さく手を振る。
バンポーさんも穏やかな笑みを浮かべ、一人ひとりへ軽く会釈した。
「みんな、元気そうで何よりです」
その光景を見て、俺は小さくつぶやく。
「慕われているんだな」
「ですね」
良太も思わず頬を緩めた。
「魔王様というより、お姉ちゃんって感じですね」
マオは子どもたちに囲まれたまま、少しだけ照れたように目を細める。
そして【収納】へ手を入れると、小さな紙包みをいくつも取り出した。
「はい」
子どもたちへ、一つずつ手渡していく。
「わあ!」
「お菓子だ!」
「マオ様、ありがとうございます!」
紙包みを大事そうに抱え、子どもたちは満面の笑みを浮かべた。
「今日はクッキーだ!」
「飴も入ってる!」
うれしそうにはしゃぐ子どもたちを見て、マオも小さくうなずく。
「ん」
「みんなで食べる」
「はーい!」
元気な返事が孤児院いっぱいに響いた。
シスター・レティシアはその様子を微笑ましく見守ると、マオへ深く頭を下げる。
「マオ様、いつも本当にありがとうございます。子どもたちは、マオ様が来てくださるのをいつも楽しみにしているのですよ」
「ん」
マオは小さくうなずいた。
「約束」
「守る」
その短い言葉に、シスターは優しく微笑む。
「来ていただけるだけでも十分ありがたいのですが、お菓子までいただいてしまって……子どもたちも大喜びです」
その横では、早く食べたい気持ちを抑えながら、大事そうに紙包みを抱える子どもたちの笑顔が並んでいた。
シスターは改めてマオへ向き直り、深く頭を下げた。
「それと、もう一つ……」
「先日、マオ様が口添えしてくださったおかげで、国から孤児院への支援が増えることになりました。食料や衣服だけでなく、建物の修繕費まで援助していただけるそうです。……子どもたちも、安心して暮らしていけます。本当にありがとうございます」
「ん」
マオは小さくうなずくだけだった。
その話を聞いた俺は思わず感心する。
「いいことしているじゃないか」
マオは少しだけ考えるような仕草を見せる。
「ん」
「王に」
「魔剣あげた」
「そのお礼」
一瞬、静寂が流れる。
良太が思わず吹き出した。
「ふふっ。マオちゃんらしいですね。魔剣のお礼を、孤児院への支援にしたんですね」
「ん」
マオは短く答えた。
俺は苦笑した。
「スケールが大きすぎて、もうツッコむ気にもならないな」
バンポーさんも穏やかに笑う。
「王も大変喜ばれておりました。魔剣の価値を考えれば、国を挙げてのお礼としても、決して過分なものではございません」
その言葉に、シスターも何度もうなずいた。
「おかげさまで、この子たちの未来も、少し明るくなりました」
◇ ◇ ◇
子どもたちやシスターに見送られ、俺たちは孤児院を後にした。
教会前まで戻ったところで、俺はグレーの105を【車両召喚】する。
再びランクルへ乗り込み、石畳の道をゆっくりと走り出した。
車窓には、穏やかな街並みが流れていく。
しばらく静かな時間が続いたあと、不意にマオが助手席から振り返った。
「次」
「どこ行く?」
俺はハンドルを握ったまま、少し考える。
「そう言われてもな……」
マオは小さく首をかしげた。
「二人」
「行きたい場所ある?」
俺と良太は顔を見合わせる。
異世界の街には、まだ来たばかりだ。
何があって、どこへ行けばいいのかもわからない。
良太が苦笑しながら肩をすくめた。
「僕たちは、この街のことを何も知らないですからね。マオちゃんのおすすめがあれば、そこに行ってみたいです」
マオは小さくうなずくと、前方を指さした。
「じゃあ」
「案内する」
ランクルは石畳にタイヤの音を軽く響かせながら、大通りをゆっくりと進んでいく。
窓の外には、活気あふれる市場。
焼きたてのパンの香り。
露店から聞こえる威勢のいい呼び込み。
武器屋や防具屋、魔導具店が軒を連ね、異世界ならではの光景が次々と目に飛び込んでくる。
どこを見ても新鮮で、この街だけでも見て回りたい場所はいくらでもありそうだ。
俺はマオの案内に従い、ランクルをゆっくりと大通りの先へ走らせた。




