↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
27/81

第23話 魔王のマオ、魔剣を創造する。


 食事が一段落すると、俺はマグカップをテーブルに置き、立ち上がった。


「それじゃあ、車を見せる約束だったな」


 マオも小さくうなずき、椅子からぴょんと飛び降りる。


「きゅっ!」


 バハはうれしそうに翼をぱたぱたさせると、マオの後を追った。


 俺たち三人と一匹は、食卓のすぐ隣に停めてある紺色のキッチンカーへ歩いていく。


 ガルウィングは、調理を終えた今も大きく跳ね上がったままだった。


 スライドテーブルには、洗い終えた調理器具やフライヤーが整然と並び、磨き上げられたステンレスが夕暮れの光を柔らかく反射していた。


 マオは車体の前で立ち止まると、紺色のボディにそっと手を触れ、ゆっくりとなでる。


「……神気」


「わかるのか?」


 俺がたずねると、マオは小さくうなずく。


「いっぱい」


 その赤い瞳が、ボディからルーフ、ガルウィング、車内へとゆっくり移っていく。


 まるで車全体を【鑑定】しているようだった。


「これ……【車両召喚】?」


「そうだ」


 俺はうなずく。


「車を出したりしまったりできる、俺のスキルだ」


「……三台」


「ああ。今は三台ある。紺色のキッチンカーと、白いトゥルーピー、それから赤いショートボディのランクルだ」


 マオは小さく「ふーん」とつぶやくと、そのままキッチンカーをぐるりと一周する。


 ガルウィングの下で足を止めると、車内をのぞき込み、小さく首をかしげた。


「……家?」


 思わず良太が吹き出した。


「ははっ、たしかにそんな感じですね」


「家というより、移動するキッチンだな」


 俺はそう答えると、ステップに足をかける。


「中も見てみるか?」


 マオは迷うことなくうなずいた。


「ん」


 俺は冷蔵庫や収納棚を一つずつ開けてみせた。


 マオはその一つひとつを興味深そうに眺め、時折そっと指先でふれては、小さくうなずいている。


「……便利」


「だろ?」


 俺は思わず笑みを浮かべる。


「まだ使い始めたばかりだけど、かなり反則級の代物だと思う」


 良太も笑いながらうなずく。


「おかげで、毎日できたての料理が食べられてます」


 そのとき、不意に何かを思い出したように良太が声を上げた。


「そういえば先輩」


「ん?」


「タキタロウの鱗や骨って、【ネットショッピング】で買い取ってもらってもいいんですよね?」


「試しに査定してみるか」


 良太はタブレットを操作する。


「えっと……査定だと、結界付きの鱗は一枚十万ポイントですね」


「おっ、結構するな」


 すると、それまで静かに聞いていたマオが口を開いた。


「……街」


「街?」


 マオは小さくうなずく。


「もっと価値ある」


「そうなのか?」


「丈夫。鎧、盾、魔導具」


 短く言い切る。


「職人、欲しがる」


「なるほど……」


 良太が感心したようにうなずく。


「【ネットショッピング】で売るより、街へ持っていったほうがよさそうですね」


「そうかもしれないな」


 俺もうなずいたが、一つ問題がある。


「ただ、俺たちはまだ街へ行ったことがないんだ。この車やバハが目立ちすぎる。できれば人目にはつかせたくないんだ」


 マオは首をかしげる。


「……なんで?」


「神様からもらった能力だからな。目をつけられたり、狙われたりするのは避けたいんだ」


「……平気」


 あっさりと言うと、マオはキッチンカーへ目を向けた。


「車、しまう」


 そしてバハを指した。


「バハムート、人になる」


「……人?」


 俺は思わず聞き返す。


「【認識改変】」


 そう言うと、自分の胸を軽く叩いた。


「マオも、いつも」


 良太が目を丸くした。


「えっ、それって……魔王だと気づかれない魔法ですか?」


「ん」


 マオは当然のようにうなずく。


「誰も、気にしない」


「そんな便利な魔法があるのか……」


 俺は思わず感心する。


 もし本当にそれが使えるのなら、街へ入る最大の問題が一つ解決することになる。


 マオはそんな俺たちの反応を見て、不思議そうに小首をかしげた。


「……街、行きたい?」


 隣にいたバハの頭を優しくなでる。


「バハムートも、人になって、いつも一緒」


 マオは俺と良太の顔を交互に見た。


「……明日、連れていく」


「えっ?」


「街」


 あまりにも自然に言われ、俺と良太は顔を見合わせた。


「案内してくれるのか?」


「ん」


 こくりとうなずく。


「安全」


「それは助かるけど……」


 良太が苦笑しながら頭をかく。


「初めての街なので、右も左もわからないんですよ」


 マオは少し考えるように視線を落とした。


「大丈夫」


 一拍置いて、良太を見上げる。


「良太……たばこ。お酒。出せる?」


「ん?」


「マオちゃん、お酒飲むんですか?」


 俺と良太が目を丸くすると、マオは首を横に振る。


「ちがう」


 短く答え、小さく付け加えた。


「爺のおみやげ」


「ああ、お土産なんですね」


 良太は納得すると、すぐに【ネットショッピング】を開いた。


「えーっと、お酒は……異世界のおじいちゃんだと好みがわからないから……人気の贈答品を検索してみます」


 検索結果を眺めながら、日本酒や焼酎、ウイスキー、それに葉巻と紙巻きたばこを数種類選んでいく。


 ライターや灰皿も添え、テーブルに並べた。


「これくらいあれば、お好きなものがあると思います」


 マオは一つひとつ確かめるように見つめ、小さくうなずいた。


「……ん」


 次々と自身の【収納】にしまっていく。


 最後の品を収納すると、マオは俺たちへ向き直った。


「お礼」


「いやいや」


 良太は慌てて両手を振った。


「お礼なんていいですよ。バハちゃんのお友達ですから」


 俺も笑ってうなずく。


「街まで案内してもらえるだけで十分だ」


 しかし、マオは首を横に振った。


「だめ」


 短く言い切る。


「借り、返す」


 俺と良太はまた顔を見合わせる。


 どうやら、断っても聞いてはくれなさそうだった。


「……武器」


 マオがたずねる。


「何、使ってる?」


「武器か?」


 突然の質問に、俺は少し考える。


 今使っている武器らしい武器といえば、あれくらいだ。


「ちょっと待ってろ」


 俺はすぐそばの赤いランクルへ向かい、荷室からケースを取り出した。


「今はこれだな」


 ケースの中には、二本の強化シャフトが収められていた。


「【ネットショッピング】で買った、アダマンタイト製の強化シャフトです」


 マオは一本受け取ると、軽く振った。


 風を切る音が響く。


「……素材、いい」


 ぽつりとつぶやく。


「これで作る」


 俺は首をかしげる。


 マオは静かにうなずいた。


「【魔剣創造】」


 その名前を聞いただけで、背筋がわずかに伸びた。


 何の根拠もない。


 それでも俺の直感が、ただごとではないと告げていた。


 マオが二本のアダマンタイト製強化シャフトへ軽くふれる。


 次の瞬間、二本の強化シャフトは音もなく宙へ浮かび、並ぶように静止した。


「浮いてる……」


「……魔核、ある?」


「魔核? ……ああ」


 俺は思い当たり、【車両召喚】から二つの魔核を取り出した。


 一つは深い青色に輝く、タキタロウのSランク魔核。


 もう一つは黄金がかった茶色を帯びた、ベヒーモスのSランク魔核。


 どちらも野球ボールほどの大きさがあり、強大な魔力を放っている。


「これなんだが……」


 俺は隣のバハを見る。


「バハ、使っていいのか?」


「きゅっ!」


 バハは『もちろん』と言わんばかりにうなずいた。


「そうか」


 俺は笑みを浮かべる。


「じゃあ、お願いする」


 マオは静かに二つの魔核を受け取った。


 ベヒーモスの魔核は一方の強化シャフトへ。


 タキタロウの魔核はもう一方へ。


 二つの魔核が、それぞれ宙に浮かぶ強化シャフトにゆっくりと近づいていく。


「――【魔剣創造】」


 小さな声が響いた瞬間。


 四つの素材がまばゆい光に包まれた。


 光は次第に強さを増し、それぞれの輪郭がゆっくりと溶け合っていく。


 まばゆい輝きがあたりを白く染め上げ――


 やがて、その輝きが静かに収まる。


 そこには、二振りの武器が静かに浮かんでいた。


 一振りは、深い蒼色を帯びた長杖。


 杖身には波紋のような紋様が幾重にも刻まれ、見つめているだけで水面をのぞき込んでいるような錯覚を覚える。


 もう一振りは、黒褐色の金属で組み上げられた重厚な戦杖《せんじょう》。


 無骨な杖身は、大地をそのまま凝縮したような圧倒的な存在感を放っていた。


 マオが右手を軽く振る。


 二振りの武器はふわりと宙を滑り、それぞれ俺と良太の前で静止した。


 マオは蒼い杖に視線を向ける。


「良太」


 蒼い杖が良太の前へと進み出る。


「【タイダルロッド】」


 続いて、黒褐色の戦杖が俺の前へ移る。


「拓海」


「【テラブレイカー】」


「……俺たちが、もらっていいのか?」


 俺は思わずたずねる。


 マオは当然という顔でうなずいた。


「お礼」


 良太は恐る恐る【タイダルロッド】に手を伸ばす。


 指先がふれた、その瞬間だった。


 杖が淡い青い光を放ち、そのまま粒子となって良太の右手に吸い込まれていく。


「えっ!?」


 反射的に手を引いたが、もう杖はどこにもない。


「き、消えた!?」


 俺も確かめるように【テラブレイカー】にふれた。


 こちらも同じように黄金色の光となり、体の中に吸い込まれていった。


「おいおい……」


 俺たちが自分の手を見つめていると、マオが静かに説明する。


「魂」


「魂?」


「紐づけ」


 短い言葉を並べながら続けた。


「魔剣、魂にしまう」


 マオは右手を軽く前へ差し出す。


 何もない空間に淡い魔法陣が浮かび、一振りの黒い大剣が音もなく現れた。


「必要なとき、出す」


 大剣は光の粒となり、再び姿を消した。


「しまう」


「……収納魔法みたいなものか」


 俺が感心すると、マオは小さくうなずいた。


「なくさない」


「便利すぎますね……」


 良太が感心していると、ふと思い出したようにタブレットを取り出した。


「ちょっと『鑑定』してみます」


 杖はもう手元には見えない。


 だが、魂へ宿った魔剣は問題なく鑑定対象になるらしい。


 タブレットへ視線を落とした良太が、小さく息をのんだ。


「すごい……」


「なんて書いてある?」


「読みますね」


 良太は表示された内容を読み上げる。


 ───────────────


【タイダルロッド】


 Sランク魔剣。


 タキタロウのSランク魔核とアダマンタイト製強化シャフトを融合させた、水属性の魔剣。


 所有者の魂と紐づけられており、念じるだけで自由に召喚・収納できる。


 魂に紐づけている間、所有者のMNDの基本値に+50。


 固有魔法【タイダルバースト】


 極限まで圧縮した高圧水流を放ち、強固な対象すら切り裂く。


 威力は所有者のINT(魔力)に比例して上昇する。


 発動にはMP(魔力総量)を消費する。


 完全不壊。


 ───────────────


「……水属性の魔剣ですか」


 良太は続いて、俺の【テラブレイカー】も調べる。


 ───────────────


【テラブレイカー】


 Sランク魔剣。


 ベヒーモスのSランク魔核とアダマンタイト製強化シャフトを融合させた、土属性の魔剣。


 所有者の魂と紐づけられており、念じるだけで自由に召喚・収納できる。


 魂に紐づけている間、所有者のVITの基本値に+50。


 固有魔法【グランドブレイク】


 大地を砕き、岩槍と衝撃波を発生させる土属性魔法。


 威力は所有者のINT(魔力)に比例して上昇する。


 発動にはMP(魔力総量)を消費する。


 完全不壊。


 ───────────────


「先輩!」


 良太が興奮気味に顔を上げた。


「これ、魔法ですよ! 僕たち、とうとう魔法が使えます!」


 思わず目を見開く。


「俺が魔法を……」


「ええ!」


 良太は何度もうなずく。


「今まで上がり続けていたINTとMPが、ここで活きるんですね! 少なくとも今は、魔剣を媒介《ばいかい》にすれば魔法が使えるみたいです!」


 マオはそんな俺たちを見て、小さくうなずいた。


「大事に使う」


 その一言には、魔王から贈られた武器の重みが静かに込められていた。


 マオは最後にバハの首元へそっと抱きつく。


「また明日」


「きゅっ!」


 バハの頭を優しくなでると、マオはゆっくりと身を離した。


「街、行く」


 それだけ告げて、小さな足元へ魔法陣が浮かび上がった。


「――【転移】」


 金色の光が夜風へ溶けるように舞い上がり、マオの姿は跡形もなく消えた。


 残されたバハは、しばらくマオが立っていた場所を見つめていた。


「……」


「……」


 俺と良太はしばらく、その場から動けなかった。


 今日一日で起きた出来事が、あまりにも濃すぎる。


 バハがSランクのタキタロウを捕まえてきたこと。


 精霊たちがSランクを討伐したこと。


 レベルが六十を超え、新たな能力を得たこと。


 そして、突然現れた魔王。


 明日は街へ案内すると言い、Sランクの魔核から魔剣を二本も作って帰っていった。


「……夢じゃないよな」


 俺はぽつりとつぶやく。


「夢だったら、情報量が多すぎますよ」


 良太も苦笑するしかなかった。


 その横では、バハだけが尻尾をぱたぱた振りながら上機嫌で飛び回っている。


「きゅっ♪」


 まるで旧友と再会できた子どものような喜びが、小さな体いっぱいから伝わってきた。


「よかったな、バハ」


「きゅう!」


 俺が頭をなでると、バハは気持ちよさそうに目を細める。


 その様子を眺めていた良太が、ふと真面目な表情になった。


「……先輩」


「ん?」


「今になって思ったんですけど」


 少し言いづらそうに言葉を選ぶ。


「僕、初対面の相手に【ネットショッピング】のことを、普通に話しちゃいましたよね」


「あ……」


 俺も思わず固まる。


 本来なら、初対面の相手へ簡単に教えるような内容ではない。


「それだけじゃありません」


 良太は続ける。


「魔王だとわかっても、僕たち全然警戒しませんでした。普通なら、もっと身構えていてもおかしくない相手なのに」


「たしかにそうだな……」


 俺も今日の出来事を思い返す。


 初対面の相手に、【ネットショッピング】や【車両召喚】の能力まで話してしまった。


 しかも相手は魔王だとわかってからも、不思議なくらい自然に同じ食卓を囲み、Sランクの魔核まで渡していた。


 普段の自分なら、もう少し慎重だったはずだ。


「でも、不思議と嫌な感じはしませんでした」


 良太は苦笑しながら肩をすくめる。


「むしろ、昔から知っている人と話しているみたいで」


「……俺もだ」


 警戒心が薄れていたのは確かだ。


 だが、それを不快だとは一度も感じなかった。


 むしろ、バハがあれほど嬉しそうにしている姿を見ていると、自然とこちらまで安心してしまう。


「きゅっ♪」


 当のバハは満足そうに翼をぱたぱたと動かしていた。


「まあ、バハの友達だもんな」


「ですね」


 俺と良太は顔を見合わせ、思わず笑みをこぼした。


 こうして、魔王との新たな縁を結んだ不思議な一日は、静かに幕を閉じていくのだった。







 あとがき


 マオちゃん初登場回でした!


 本当は一話に収める予定だったのですが、長くなってしまったため、前話とわけてお届けしました。


 実は、初対面なのに自然と受け入れられてしまったのも、マオちゃんが持つパッシブ能力のひとつです。


 ただ、それだけで信用したわけではありません。


 二人はバハちゃんのことを心から信頼しているので、「バハちゃんがここまで懐いている相手なら大丈夫だろう」という気持ちも大きく働いています。


 魔王はいったい、いくつのスキルを持っているのでしょうね。


 本日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


 ★★★★★やコメントで応援していただけると、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。