第9-2話 経験値を稼いだり
『では行きます! 【挑発モード(エキゾースト・ハウリング)】!』
良太の白いランクルが、野太い排気音を草原へ響かせる。
──作戦開始だ。
風にゆれる草原とレーダーへ交互に目をやる。レーダーに最初の光点が現れる瞬間を、今か今かと待ち構えた。
『……【挑発モード】の効果範囲が三キロメートルしかないので、しばらく来なかったら、このまま移動します』
その直後だった。
静まり返っていたレーダーに、赤い点が一つ灯る。
さらに一つ。
また一つ。
画面には三つの赤い点が並んだ。
──だが、動かない。
こちらへ向かってくる気配がなかった。
「良太、南に反応があるが、やってこないな……」
『……大型なら、ここからでも見えるはずです。小型か、空にいるのか……。とりあえず、反応のあるほうへ向かってみましょう』
ランクルを前へ進めるたび、新たな赤い点がぽつり、ぽつりと画面に灯る。
まるで草原そのものが目を覚まし、眠っていた魔物たちが次々と存在を現しているようだった。
『……この距離で姿が見えないとなると、おそらく植物系です。窓は絶対に開けないでください。花粉や針を飛ばして攻撃してくる種類がいるかもしれません。……そろそろバルブを閉じて、【挑発モード】を止めます』
良太のランクルと、一番近い赤い点との距離はあと数十メートル。
しかし、その先に見えるのは、風にゆれる草原だけだった。
『止まってください。「鑑定」します――』
一拍置いて、良太が口を開く。
『……いましたね。グラスリーパー。Cランク。風にゆれる長草に擬態する植物系の魔物です。獲物が近づくと葉を鎌のように振るって攻撃してきます。根を張っていて移動はせず、群れで現れるため、車両で踏みつぶすのが有効……』
葉っぱか……。
『これだけならイージーモードかもしれませんが、他の植物タイプが混ざっている可能性もあるので油断せずにいきましょう。散開して、踏みつぶします。赤丸が減ったらマフラーのバルブを開いて【挑発モード】で呼び起こしてみてください!』
「わかった! 行くぞ……っ!」
二台のランクルが一斉に加速する。
俺たちは左右へ大きく散開し、群生地を両側から挟み込むように走り出した。
エンジンの咆哮が静寂を引き裂く。それに応えるように、草原のあちこちで草が波打った。
普通の草ではない。
グラスリーパーが一斉に目を覚ましたのだ。
見渡す限り無数の葉が立ち上がり、草原そのものが巨大な生き物のようにうねり始める。
アクセルを踏み抜き、ランクルはグラスリーパーの群生地へ突っ込んだ。
進路上の草が一斉に葉を起こす。
さっきまで風にゆれていたはずの草原は、一瞬で無数の刃へと姿を変えた。
葉先は太陽を受けて鈍く光り、車体へ向けられるが、アダマンタイトのバンパーとヒヒイロカネのボディには傷一つ入らない。
その上、グラスリーパーは根を張ったまま動けない。
だから、狩りやすい。
俺はアクセルを緩めることなく群生地へ飛び込み、車重で次々と踏み倒していく。
35インチのタイヤ――ベヒーモス・マッドが草をなぎ払い、車体が通り過ぎた場所だけが一本の道になって残った。
バックミラーの向こうでは、良太も反対側から群れを削り取っている。
俺たちのランクルが群生地を駆け回り、次々と轍を刻んでいく。
ランクルは何度も往復し、そのたびに無数のグラスリーパーを踏み砕いていった。
葉が車体を叩く乾いた音も、運転席には届かない。
無線では良太が淡々と進路を指示し、俺はそれに合わせてハンドルを切る。
二台のランクルは草原を縦横無尽に走り回り、残った群生地を一つずつ潰していった。
そんな戦いが一時間以上続いたころ、ふとレーダーへ目を落とす。
最後の一株を踏みつぶした瞬間、レーダーから赤い点がふっと消えた。
さっきまで画面を埋め尽くしていた反応は、すべてなくなっている。
「……終わったか」
周囲の草原には幾筋もの轍が刻まれ、踏み倒された草が風にゆれている。
その中に、動くものはもう何もない。
やがて、電子音声が淡々と勝利を告げた。
【討伐完了】:グラスリーパー×709
【基本獲得経験値】:500pt ×2(称号によるボーナス)×709=709,000
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吉原 拓海:Lv.35 ──> Lv.45 UP! (Next51,406/102,500)
田原 良太:Lv.35 ──> Lv.45 UP! (Next51,406/102,500)
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無傷討伐ボーナス × 1.5
神話級兵器ボーナス × 1.5
【ボーナス経験値合計】:2,127,000pt
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吉原 拓海:Lv.45 ──> Lv.57 UP! (Next93,906/312,000)
田原 良太:Lv.45 ──> Lv.57 UP! (Next93,906/312,000)
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新たに称号が付与されます。
【百鬼討伐】一度の戦闘で百体以上を討伐した証。
【阿修羅変相】一度の戦闘で三百体以上を討伐した証。
【天災降魔】一度の戦闘で五百体以上を討伐した証。
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《通知:吉原 拓海がLv.40を超えたため、【車両召喚】に新たな能力【完全結界(小)】が追加されました》
《通知:田原 良太がLv.40を超えたため、【ネットショッピング】に新たな能力【梱包選択】が追加されました》
《通知:吉原 拓海がLv.50を超えたため、【車両召喚】の【無線機】および【ガラス類】がVer.1.1へとバージョンアップしました》
《通知:田原 良太がLv.50を超えたため、【ネットショッピング】に新たな能力【お財布】が追加されました》
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吉原 拓海 Lv.57 (Next93,906/312,000)
HP:4350 (100+2800+1450)
MP:4350 (100+2800+1450)
STR:594 (10+56+132+396)
DEX:594 (10+56+132+396)
VIT:594 (10+56+132+396)
AGI:594 (10+56+132+396)
INT:594 (10+56+132+396)
MND:594 (10+56+132+396)
LUK:594 (10+56+132+396)
※括弧内の数値は左から(基本値+レベルアップボーナス+称号によるボーナス①+称号によるボーナス②)を表す。
称号
【天上の寵児】
神の視線を一身に集め、最も愛されている地上の子ども。
戦闘終了時に新たな称号を得る場合がある。
【特異点】
一度の戦闘でレベルが10以上あがった証。
合計HP、合計MPの最大値の半分を加算する。
【星の異端】
一度の戦闘でレベルが20以上あがった証。
合計ステータスを2倍にした値を加算する。
【神速の先駆者】
この世界に来て最速でレベル30になった者の証。
基本取得経験値が2倍。
【天災の体現者】
Aランク以上の魔物をオーバーキルで倒した証。
合計ステータスを2倍にした値を加算する。
【百鬼討伐】
一度の戦闘で100体以上を討伐した証。
戦闘時、敵の数が自身を10体以上上回る場合、HP・MPが2倍になる。
【阿修羅変相】
一度の戦闘で300体以上を討伐した証。
戦闘時、敵の数が自身を10体以上上回る場合、全ステータスが2倍になる。
【天災降魔】
一度の戦闘で500体以上を討伐した証。
戦闘時、敵の数が自身を10体以上上回る場合、基本取得経験値が2倍になる。
『やっと終わりましたね……。今回は相手との相性が良すぎました。植物系で、しかも根を張って動けない相手だったからこそです』
緊張の糸が切れた途端、どっと疲労が押し寄せた。
だが、シートとエアコンの効果なのか、その疲れは瞬く間に消えていく。
思っていた以上に肩へ力が入っていたらしい。
「……ランクルとの相性はよかったな。Cランクで数の多い敵を相手にするのは向いていそうだ」
『そうですね。ただ、植物系でありがちなのが、コンパニオンプランツです』
「コンパニオンプランツ?」
『はい。他の植物系と弱点を補い合って群生していることがあります。
それとは別に、植物以外の魔物に寄生したり、共生している種類も珍しくありません。これは地球の植物でも同じです』
「なるほどな」
『今回はただのボーナスステージでした。でも、あれを餌にもっと格上の魔物が集まってくる可能性もあります』
「……気は抜けないな」
『僕も、まだランクルの操作に慣れていませんでしたから、あのくらいの相手でちょうどよかったです』
少し間を置いて、良太が続ける。
『たとえば、あの群れにデバフ系の花粉をまく植物が混じっていたら、冒険者はかなり苦戦すると思います。ランクルには関係ありませんけど……』
「用意していたリアカーは使わずじまいだったな」
『まあ、いざというときの逃走手段なので、あって損はないと思いますが、今回一つ失敗したことがあって』
その一言で、車内の空気が少しだけ引き締まる。
俺は無線へ意識を向けた。
『あれが、もしもっと強くて動ける魔物の大群で、二台とも横転させられていた場合、【ネットショッピング】を使える僕は生存できますが、先輩は食料を補給できなくなりますよね。最悪、この草原から脱出できずに餓死する可能性もあったのかなと……うっかりしていました』
言われてみれば、その通りだった。
もし二台とも動けなくなっていたら、この何もない草原のど真ん中で俺に打つ手はない。
今さらながら、冷たい汗が背中を伝った。
良太は戦闘の結果ではなく、その先まで見ていた。
だからこそ『失敗』と口にしたのだろう。
こういうところは、やっぱり良太のほうがよく考えてるな……。
「まあ、そのときは……【バハムートホーン】と【H○T LIMIT】に頼るさ。それでダメだったら仕方ないな」
『それで今後の対策なんですが、万が一に備えて先輩の車にも、ある程度の食料を積んでおきましょう。これが一つ目です』
……それはあったほうが心強いな。ゼリー飲料とかでもいい。
『もう一つ思ったのは、ランクルに積める小型の車両があれば、大量の食料を先輩の【車両召喚】にも収納しておけるんじゃないですか?』
「……なるほど、それをするには、今のショートボディのナナマルでは狭いかもな」
『あとで、キャリーカートや台車を試してみましょう。ルーフキャリアの実験では固定しないと収納できなかったので、台車には何かしらで縛り付けておかないとダメですね』
肩越しに荷室へ目を向ける。
後部座席を畳んでいないため、申し訳程度に残されたタイトな荷室を見つめ、これでは折りたたんだ台車を一台滑り込ませるのが限界ではないかと眉をひそめた。
まともに台車を載せるなら、やはり後部座席を畳んでスペースを作るしかなさそうだ。
「そうだな……それは、あとで試してみよう……よし、あとはこの戦場で拾えるものを回収してしまうか。運転は俺がやるから、良太は【買取査定】を頼む」
二台を停めて無線を切ると、良太が一号車へやってきた。
「……今、一つだけ【買取査定】してみたんですが、売れるものがCランクの魔核しかなくて、買取価格は10,000ポイントですね。Bランクの十分の一です」
「そうか……値段は安いが、頑張って拾ってしまおう。一万円札がそこらに落ちていると考えたら無視もできない。大変だけどよろしく頼むな」
「はい、頑張りましょう! 600個拾ったら600万ポイントですからね!」
その後、俺たちは轍をたどるように戦場を巡り、一つひとつ魔核を回収していった。
「【ネットショッピング】の所持ポイントが600万近く増えました。思ったより回収できましたね」
「一日の稼ぎとしては上出来だな。今月のノルマ300万はもう達成したし、明日は休みにしてもいいくらいだ」
「……そうですね。あっ! そうだ、ここで一度、【バハムートホーン】を鳴らしておきましょうよ」
「ああ。バハが近くにいたら、気づいてくるかもしれないな」
パァァァーーーーーーーーーーーーーーーン!!
静まり返っていた草原を、甲高いクラクションが切り裂く。
その音は果ての見えない草原へ吸い込まれていき、長い余韻だけが風に乗って漂い続けた。




