塔へ
遠くでサイレンが鳴っている。音は次第に近づいてきて、大きく、鮮明に広がっていく。ズキリと痛みが頬に走り、護はその目を開けた。
黄色い空間に赤い光が射し込み縦横無尽に駆けている。空間を木霊するサイレンの音は折り重なって重く圧し掛かってくるようだった。
どこだ?
不意に自分が何をしていたのか思い出す。サブ・コントロールルームにいたのは覚えている。そこで全の父と共に居たはずだ。そうだ、画面を見た。そこには洸ちゃんの写真があって、頭が真っ白になって、洸ちゃんも景も助けないと、そう思った。その後がよく分からない。
起きようとしたが、身体が錆びてしまったようにギシギシとして動かない。身体全体に痛みはあるが、顔面に感じる痛みはそのどれよりも妙に鮮烈で鮮明だった。一体自分はどうしたというのか、護は大きく深呼吸しようとして咽せた。
「よぉ、気がついたか」
声のした方へ視線を走らせると、全ニィが塔を背に立っていた。塔よりもずっと大きく見える全ニィが手を差し伸べ、その手を掴もうとすると、不思議と身体は動き出した。
「どうやら正気に戻ったみたいだな」
護は何のことか分からずに全の手を掴んだ。
強い力で引き上げられて立ち上がったが、足がふらついて膝が折れた。沈む身体を抱きとめてくれた全が笑った。
「ごめん、全ニィ…」
「なに謝ってんだよ。周りを見てみろよ、お前は自分の役割を果たしたんだぜ」
周囲に向ける全の視線を追うようにして、身体を支えられたまま、護もサイレンの響く空間を見渡した。
湖のように、また黄金の原のように大地を埋め尽くしていたカプセル。それが、一本また一本と地面に飲み込まれていく。カプセルのあった場所には丸い穴が残され。巨大な蜂の巣か何かのようなフィールドをじわじわと拡げていった。
「これでエネルギーの供給は出来なくなる。中の彼らも安全な場所まで行くはずだ。もうシステムは使い物にならないな。梶尾の野望を止めたんだ」
そうだ、これで景をあの場所から救い出すことが出来るはずだ。塔の頂上付近に目をやり、拳を握り締めた。
「ところで護。その……親父は…どうした?」
全の父。あの部屋の記憶が最後である護には、その問いに対する答えが出せなかった。
「ごめん。分からないんだ。サブ・コントロールルームで作業をした所までは覚えてるんだけど、そこで洸ちゃんの写真を見て…そうだ! 洸ちゃんも装置に入れられていたんだよ。それで僕、訳が分からなくなって、気がついたらここに」
「洸? 長瀬のおっさんとこのか? 梶尾の奴、ふざけたことを。わかった。気にするな、現にこうして上手くいったんだ。きっと大丈夫さ、親父もな」
そう言うことで無理矢理自分を納得させているのだと護はその横顔を見上げながら思った。心配でない筈なんてない。十年以上ぶりに生きていると分かったばかりなのだし、この状況では誰もが死と隣り合っている。一歩間違えれば二度と会うことだって出来なくなるかもしれないのだ。でも、全はそれも分かった上でやるべきことをやろうとしている。それは護にもよく分かっていた。
「お姫様はあの上なんだな?」
「うん」
「行くか」
無言で頷き、支えられたまま。護は一歩を踏み出した。




