同じ夢
また同じ夢だ。
鏡のような水面に立っている。辺りは暗く何も見えない。自分の周囲だけが月明かりに照らされているように薄らと見えている。
足先が水面に触れた。小さな波紋が広がっていく。
波紋はやがて数を増して小波に変わった。次第に水面を叩いたように水が跳ね、騒がしくなってくる。
次の瞬間、景の周りを水柱が取り囲むようにして伸びた。逃げ場はない。螺旋状に溯る水流に顔が浮かんだ。
――苦しい
男がそう言って消えた。そしてすぐ別の姿が浮かぶ。次々と人間の姿が浮かんでは消えていく。
皆一様に景を見ていた。
――たすけて
――こわいよ
――かえりたい
――いたい
――くるしいよ
男の声が、女の声が、子供の声が、老人が、全ての人が苦しみや嘆きを響かせる。悲鳴が周囲に満ちてくる。景に向ってその手を伸ばす。
「やめて、助けて」
景は耳を塞ぎ、目を閉じる。だが彼らの声は直接頭に伝わってくる。
水柱が大きくなりその幅を狭めていく。景の居場所はもう殆どない。
悲鳴が、叫びが近づいてくる。
「こないで、いや―――――っ」
次の瞬間、景は一つとなった巨大な柱に飲まれていった。
静寂が訪れた。ただ、ゴポリと水が鳴る。
恐る恐る景は眼を開いた。
顔が…あった。
周囲には沢山の人間が漂っている。彼らは皆、生まれたままの姿で漂い、景を見ている。何十、何百という視線が景に向けられていた。
すぐ近くに小さく蹲る姿が見えた。
「泣いて…いるの?」
子供が泣いている。小さな女の子だ。
景は近づき蹲っているその子供に触れた。ドクリと何かが身体に流れ込んできた気がした。
――お父さん、お母さん、こわいよ。
小さなか細い声でそう言ったのが聞こえた。
こんな子供が両親と離ればなれになっている。どれだけこの子は恐れ、苦しんでいるのだろう。
そっと景は頭を撫でる。
「大丈夫よ、私が傍にいてあげる」
子供が顔を上げて少しだけ安心したような表情で笑った。
景には分かった。この子だけではない。苦しみ嘆き続けている彼らもまた安心したいのだ。救われたいのだ。彼らの嘆きは重々しく響いている。
彼らには罪などない。
助けを求めていたのに自分はそれを恐れ、拒絶していた。なんと愚かなことなのだろう。
景は両手を広げて叫んだ。
「大丈夫、あなた達を必ず助けてあげる。私が助けてあげるから、だから泣かないで、私が絶対守るから!」
子供がぽうっと光りだした。
一人、また一人。金色の光を放っていく。
暗闇に包まれていた世界が一斉に輝きだした。
彼らの力が流れ込んでくるような気がした。
景は目を閉じ、黄金の流れの中に身をゆだねた。




