第8話 ドラゴン娘、地上へ帰還する
「……ふぅ。終わった」
一息吐いて休憩に入れば、目の前のゴブリンジェネラルが溶けて消えていく。レベルは一気に上がり『Lv.8』になった。
「おっ、聖杯――ちょっと……いやかなり小さい?」
溶けたジェネラルから黄金に輝く聖杯が出てきたけれど、思ったよりも小さい。ショットグラスくらいの大きさ。聖杯についての知識が頭に浮かんだ。
『聖杯(☆3)』……星三の聖杯。ちょっとした小さな願いなら叶う。
聖杯……ダンジョンの最奥で手に入る神器。聖杯の星の数が大きければ大きい程に、叶える願いが大きく強く確実になる。《《モンスター娘が人間に戻りたい》》と願う場合に限り、無条件で叶う。ただし、聖杯はダンジョンの外に持ち出すと消滅する。また、人間の願いを聖杯は叶えない。
ふむ……持ち帰り不可で、人間の願いを叶えさせるつもりはない、と。
つまり、今この場で使うのが一番いいということか。
それなら……
聖杯を手に取って言う。
「……聖杯に願う。《《神様と戦ってみたい》》」
おっ、光った。
願いが受理されたのか聖杯が光り輝き粒子となって消えた。
次の瞬間、目の前に猫神チエが実体を持って瞬時に現れた。
「はいはーい。聖杯で私を呼び出したのは君かな?」
「はい。神様がどれほどの力があるのか、気になってちょっと試してみたかった」
「へー……あの時に力の片鱗を見せて脅したんだけど、それでも戦いたいと?」
「はい」
「……ククク……アハハハハ! 君おかしいよ絶対。狂ってる」
「自覚はしてる」
「自覚してるんだ。ますます狂ってるね。気に入った。相手してあげよう。おまけで殺さないであげる」
「どうも」
「じゃあ始めるよ? よーい――バンッ」
――えっ??
ネコ神チエが右手をピストルの形にして発砲音を口にしたと思ったら、いつの間にか胸に大穴が開いていた。
あっ死――
「はい終わりー」
「え……え??」
いつの間にか、左肩に右手をポンと置かれていた。真下を向けば大穴の開いていない自分の大きな胸があり、触っても傷一つない。
「今のって」
「フフフ……今のが現実か幻か、見破れないようじゃあ、私と戦うのなんて夢のまた夢だよ」
「……」
ちょっと待て。それってつまり、今の本当に死んでた可能性があるってこと?
「答えは言わないよ」
「わっ、心読まれた」
「神だからね。出来て当然」
はえー、神様ってすごいな。
あっ、神様の尻尾が嬉しそうに揺れてる。
「……さて、これで君の願いは叶えられた――んだけど、君の狂気が気に入ったから、一つサービスしてあげよう。拒否しないでね」
「っ!?」
拒否するなと言われて動かなかったら、顔を包み込むように掴まれてぶちゅっとキスされた。
三秒くらい経ったところで唇が離れ、猫神チエは舌なめずりした。
「これでよし。君がモンスター娘として成長し、進化する時……本来は条件を満たした派生先にランダムで決まるところを、固定化した」
モンスター娘って進化するんだ。
「つまり?」
「進化の先で、私は待っているということ。じゃあね」
離れて手を振った猫神チエは、スゥーッと薄くなって消えた。
進化の先で待っているねぇ。
……考えても分からないし、ドロップアイテムでも拾って帰ろう。
「聖杯以外にドロップは――あの剣か」
弾き飛ばした牛刀みたいな紅い大剣が残っていた。
『ペインソード』……大剣。第三階位魔剣。この魔剣で斬られた傷が癒えない呪いを付与する。所持者には痛みを和らげる祝福を付与する。
『魔剣』……ダンジョンで稀に生成される、特殊な能力を持つ武器の総称。第一~第九までの階位があり、数字が大きい程強力な魔剣となる。魔剣は破壊不可。
「魔剣だったんだ。というか、効果エグっ」
しかも大剣……明らかにタフな奴とか大型相手を想定してる。今の防具とシナジーは全くないけど、まぁ、壊れないし普段使い用として使えるか。
「ありがたく貰うよ、ゴブリンジェネラル」
溶けて消えてしまったジェネラルにお礼を言い、大剣の柄を掴む。すると大きさが補正されて、鞘があれば背中に担げる程度の大きさになった。
ただ持ち歩くのも邪魔なので、ストレージに仕舞っておく。
「他のドロップは……微妙だな」
ゴブリンナイトたちから出たのは、こんがり肉が二個と、大剣が一本だけ。
『バスタードソード』……大剣。鉄製の両刃両手持ちの剣。とても頑丈。扱うにはかなりの筋力が必要。
まぁ、予備として貰っておこう。売れば多少の金にはなるだろうし。
バスタードソードとこんがり肉をストレージに仕舞う。
「よし帰ろう」
静かになったボス部屋を見渡すが、脱出の為の魔法陣とかは見当たらない。
「……なるほど。帰るまでがダンジョンか」
どうやら自分の足で地上まで戻らないといけないらしい。レトロなダンジョンゲームで悪戦苦闘していたことを思い出しながら、俺はボス部屋を後にした。
見慣れたゴブリンたちを【ファイアブレス】で燃やしてこんがり肉を手に入れつつ、特に変わった事もなく順調に地上への入り口まで戻ってきた。
「はぁ、ようやく地上だ」
初めてのダンジョン故の精神的な疲労を自覚しつつ、ダンジョンから脱出。春の空はまだ明るく、久々の陽射しが眩しくて目を細めてしまう。
……そのせいで、気付くのが遅れてしまった。
「そこの女、動くな! 止まれ!」
キツイ口調の男の声が聞こえた。
えっ、女? ――ああ俺か。
……参ったな。こうなること、忘れてた。
目が外の明るさに慣れてはっきり見えたところ、待ち構えるかのように完全武装した大勢の自衛官が、小銃や機関銃やロケットランチャーなどをこちらに向けていた。
俺は両手を上げて、反抗の意思が無いことを示した。
背後で揺れと物音が聞こえ、振り返ればダンジョンが沈んで消えていった。




