第44話 ドラゴン娘、災厄となる
ワフと一緒に地球の地表――誰もいなさそうな芝の生えた丘に降りれば、すぐに俺たちの気配を察知したらしい白いドラゴン娘がやってきた。
純白の角と翼を持った白い肌の美少女で、青い瞳がこちらを見定めるように見ている。
ファンタジー風の姫騎士っぽい鎧ドレスを着ており、腰には如何にも勇者が使いそうなロングソードが下げられている。剣も鎧もかなりの力を感じる。
強そうだな。神の力でレベルをちょっと拝見。
おぉ、上限の999!
俺たち神を除けば、この世界で最強っぽいな。
彼女は俺たちから数メートル離れた位置で止まると口を開いた。
「あなたたち、何者です? 空からやって来たようですが」
ワフが一歩前に出ると、彼女は剣を鞘から引き抜いて構えた。
「それ以上近づかないでください」
「……信じられないかもしれないけど、私たちは神様だよー。私はダンジョンの神のワフ。こっちは闘争の神のシルドラ」
「どうも」
彼女が強者なのは明白。戦ってみたいけど、まだダメだ。情報収集が先だ。
「……神様? 申し訳ないけど信じられない。おおかた、星の多い聖杯に願って神の称号を手に入れただけでしょ」
「……へー……そう判断するんだぁ」
あっ、こいつ終わったな。
神の力が漏れ出したワフは、指先を彼女に向けた。
「君強そうだし、ダンジョンのボスをやってみない? いや、やれ!」
「――あっ、はい……ダンジョンのボス、やります」
目が虚ろになって同意したかと思えば、小さなダンジョンの入り口が彼女の足下から生え、丸呑みすると地下へと消えた。
「ワフ、今のは?」
「ちょっと魔眼で催眠状態にして、ダンジョンのボスにしてあげた。これから調整して適当な場所に生やすけど……もしかして彼女と戦いたかった?」
「まぁ、この世界の強者がどれほどか把握はしておきたかった」
「それはごめんね。けど他にも強い奴はいっぱいいるっぽいよ?」
「……確かに」
気配を探れば地球上のあちこちに強い気配を感じられた。流石にモンスター娘が多いが、中には人間でありながら同程度の強さの奴もいる。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「いってらっしゃーい」
見送られ、俺は人口の多い都市部へ向かった。そこには強力な気配を持つ存在が一人いる。
都市部の上空に着いたところで、立ち止まって考える。
さて、どうしよう?
大声で名乗ってから大々的に行動に移して認識させるか、初手で都市を壊滅させて脅威を認識させるか……。
んー……やっぱり、初手で都市壊滅か?
「君はどっちがいいと思う? 名乗ってからやるか、名乗る前にやるか」
「あなた様の御心のままに、神様」
丁度近くにモンスター娘が来たので聞いてみたが、好きにやれと返された。
彼女は頭の上に光る輪っかがあり、白鳥のような翼を持った美少女――典型的な天使だ。
服装はシスターっぽい白いドレスで、首から十字架のネックレスを提げている。なにかしらの効果があるようで力が感じられる。
そんな彼女は空中で器用に跪くと、両手を組んで祈りのポーズを取り始めた。
「お待ちしておりました、神様……いえ、闘争の神シルドラ様。或いはジャバウォック様」
「シルドラでいいよ。君は?」
「私は天使――アークエンジェルのアンという者です。スキルによってあなた様が現れることは予見しておりました」
「そうか。今から災厄を始めるが、構わんか?」
「神の御心のままに。我々では止められませんから」
よく分かってるな。神に対抗出来るのは神だけだ。
「では始めよう」
深呼吸をして……【ファイアブレス】!
真下に向けて火を吐けば閃光となって地面へ着弾し、爆炎が津波のように全周へ広がってビルを破壊しながら呑み込んでいく。人間たちや有象無象のモンスター娘たちはなす術もなく炎に飲まれて一瞬にして死に、肉体という器を失った魂が舞い上がり始めた。
たった一撃で都市は焼け野原へと姿を変えた。
僅かに生き残ったのは力あるモンスター娘と、強力な防御手段や回避手段を持つ者だけ。
気配を基準にして生存者をロックオンし、スキル【悪食】を発動。ドラゴンの頭をしたオーラを無数に出して食らっていく。
「おっ、来るか!」
悪食を回避し、高速でこちらに飛んで来るモンスター娘が一人いた。
黒い角、蝙蝠のような翼、先端がハート型の艶のある尻尾を持つ、黒い髪に黄金の瞳を持つ妖艶な顔とスタイルの美少女――悪魔のサキュバスだ。
彼女はサキュバスらしい露出の激しいビキニ水着みたいな格好をしているが、その衣装からは力を感じた。
ある程度近づいたところでサキュバスはアイテムボックスから武器を出した。
禍々しい大鎌だ。気になってちょっと探ってみれば、効果は強烈な即死と、自身への即死無効と、即死級ダメージの一定回数無効化といったところだと分かった。
まぁそんなもので神は殺せないので特に警戒はせず、振るわれた大鎌の刃を指で摘まんで止める。
「食らえっ! 【魅了の魔眼】!」
「効かんよそんなもの」
サキュバスの目が光ったが、それだけ。神にそんなものは効かないし、そもそも俺も魔眼持ちだから、魔眼の効果は打ち消せる。
「状態異常の極致を見せてやろう。ふー」
「うっ、あ――」
息を吹き掛ける程度の力で【カオスブレス】を吐けば、サキュバスは複数の状態異常に犯され、一瞬で気を失って大鎌を手放して落下を始めた。勿体ないので【悪食】で食べておく。
「これでここは終わりだな」
「はい。この地域で最も強かったリリス――名をルーシア。私とは犬猿の仲だった彼女は死にました。私はどうされますか?」
ぶっちゃけどうでもいいが……
「君はどうされたい?」
「私は天使、神の使徒。生かすも殺すも御心のままに……ああでも、もし殺すのなら、痛みの無いよう一息にお願いします」
「ふむ」
……まぁ、従者の一人くらい居てもいいか。
「もし君が人の心を捨てているのなら、付いて来るか?」
「ありがたき幸せです。我が主」
「なら証として……その十字架に力を付与しよう」
神の力とドラゴンの力を込めて十字架を強化。これで他の神にお手付きされなくなる。それに神の加護が加わって装備者の状態異常耐性上昇、自然治癒力強化、能力全般の超強化、自動防御のバリア展開が付与された。
「あぁ……神器までお与え下さるなんて……感謝します。我が主」
感激した彼女――アンは目の前で再び跪いて祈りのポーズを取った。
事が終わったらワフに自慢しよ。
「行こう」
「はい」
俺は次の都市に災厄を振りまきに向かった。




