最終話 ドラゴン娘、次の世界へ
次の都市に到着。
あっ、災厄をやるんなら、どうせだし黙示録っぽくしよう。
ラッパを生成して……。
「よしアン、終末ラッパを頼む」
「はい」
ラッパを受け取ったアンは大きく息を吸い、力強く拭いた。
プーーーッ!
と音が世界に響く。それに合わせて俺は神の力を使い、触れれば即死する血の雨を降らせた。それだけじゃ即死耐性持ちや屋内にいる人間は死なないので、追加効果で即死耐性と無機物を貫通させるようにする。
勿論、アンは死なないように保護。
それだけで人間はバッタバッタと倒れ、死に絶え、都市は僅か数十秒にしてゴーストタウンに変貌した。
「よし次」
次の都市へ移動。
アンがラッパを吹いて、俺が神の力で遥か上空に巨大な岩を生成して高速で落下させる。
メテオストライクってね!
――来たか。
頭上にある隕石が爆発し、小さな破片となって周辺へ降り注ぐ。
そんな中、目の前にスッと現れたのは猫神――猫社チエ。ニヤついた笑みを浮かべているが、目が笑っていない。
「なにやってるの、シルドラ。多少のご乱心なら笑って観てられるけど……流石に度が過ぎてる」
「だろうな。ワフとの闘争がちょっと物足りなくてね、チエかルシエールのどちらかともう一度戦いたくなった」
「それならこの世界の外か、不思議な世界で呼んでくれれば相手をしてあげたよ」
「……ごめん、それは気付かなかった」
いやほんとマジで。
マズったなぁ、早まった!
でも叛逆を止めるつもりはない。そっちの方が本気の闘争ができそうだし。
「それでシルドラ、君はいったいなにがしたいんだい?」
「闘争……いや、あんたとのタイマンだ」
タイマン空間展開ッ!
アンをその場に残してチエを閉鎖空間へ閉じ込める。
さっきと同じアリーナへと景色が変わり、軽く周囲を見渡したチエが言った。
「なるほど。純粋な力と技術以外を制限した、闘争の空間ってわけか」
「その通り。俺の挑戦を受けてくれるよな?」
「フフフ……勝利を確信しているみたいだけど、甘い。甘いよシルドラ。確かに猫とドラゴンとじゃあ種族による力の差は歴然だけど、神としての格はまだ天地の差がある」
「……というと?」
「この空間はよく出来てるけど、抜け穴があるってことさ。それに私が《《いつ》》本気を出した? 君が思っているほど私は非力ではないよ。ルシエールもね」
うそぉ……。
チエが横に手を伸ばすと、普通に不思議な世界のドアが現れて開けられ、ルシエールがアリーナに入ってきた。
「さっきぶりね、シルドラ。せっかく一巡した世界をすぐに終わらせようとするなんて酷いわ。神の先輩として、ちょっとキツメのお灸が必要みたいね」
「私も一緒にやるからそのつもりで。それじゃあ君の望んだ通り、闘争を始めようか。地獄の、だけど」
ワフ、早めに頼むわ……。
なんかもう悲惨な目に遭う予感しかせず、モチベーションが下がった俺はなにも出来ずに殺された。
復活しても即座に、様々な方法で、何度も何度も何度も何度も何度も殺され…………――――――――俺はいつしか考えるのを止めた。
どれくらい時間が経ち、どれほどの回数を殺されただろうか……二人の筆舌に尽くしがたい苛烈極まる攻撃が止んだ。
仰向けに倒れているだけの俺の視界に、チエが映る。
「どう? ちょっとは反省した?」
「……いつか絶対勝つ」
「ハッハッハ……反省したみたいだね。それで? ワフと君はなにを企んでるのかな?」
バレた!?
いや、まだバレてないはず。だって心や思考を読まれてる感覚がないし。
「……なんのことです?」
「またまたぁ。世界が一巡してこのタイマン空間? が消えてから、ワフと君は一緒に行動していた。あれだけ因縁が生まれていたのにも関わらず。なにかがあって協力関係を築いたと考えるのが自然だよ」
「……まぁ、なにかはありました」
「素直だね。で、内容は? あんまり他人の思考とか心とか読みたくないから、話してくれると嬉しいんだけど」
ダメだこれ、誤魔化せない。
「…………その前にタイマン空間、閉じていいです?」
「いいよー」
「……ところでルシエールは?」
「飽きて帰った」
「あっはい」
まぁ一方的な攻撃を続けてたら飽きるわな。
タイマン空間を閉じて元の場所に戻ると、アンが寄ってきた。
「お疲れさまでした我が主。猫神様も」
「ああ。状況は?」
「あなた様の思う通りにことが進んでいるかと」
「ふむ」
「で、シルドラ……なにを企んでる?」
「先輩神たちへのちょっとした叛逆です。ワフの首尾はどうなってるか、ちょっと聞いてみます」
神の力で念話をしてみると、応じてくれた。
「どうしたのシルドラ?」
「悪い知らせだ。二人になにか企んでるのがバレてる」
「……まぁ予想通り。時間稼ぎはしてくれたんでしょ?」
「うん、した」
「なら大丈夫! もう準備が完了したから。そこに二人がいるんなら伝えておいて、今から面白いことが起こるって」
「あいよ」
念話終了。
「今から面白いことが起こるって」
「へぇ、面白いことね……」
チエが、まるで映画鑑賞でもするかのように座席を無からポンッと生成して座ると、流れるようにキャラメルポップコーンを食べてジュースを飲み始めた。
俺もそれに倣って二人分の座席とポップコーンとジュースを生成し、座ってからアンにも座るよう手で促す。
「ありがとうございます」
座ったアンはトランペットをアイテムボックスに仕舞い、ポップコーンを食べてジュースを飲み始める。
三人で黙々と食べて飲んでしていると、世界に変化が起こり始めた。
ダンジョンが次々と生えたかと思うと霞のように消えていく。それによって世界そのものが徐々にダンジョン化している気配が強まっていき、空間に亀裂が入り始めた。
「……ハハハ……これはちょっと……笑うしかないかも」
チエが呆れたように笑い、ポップコーンをひじ掛けのホルダーに置いて立ち上がった。
空間の亀裂は少しずつ数が増え、ヒビが大きくなっていく。
大きく息を吸ったチエが声を上げた。
「全くもうっ! 最高のサプライズをしてくれるじゃないか君たちはッ!! アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
亀裂が限界に達し、世界の境界が砕けた。
この世界が終わりを迎えた。
世界を独立したモノとして支える境界が壊れてしまったことで、この世界そのものは形を保てず崩壊を始めた。
無機物はバラバラに砕けて粒子状になり、生命はドロドロに溶けていく。空間は歪んで薄くなり、俺たちのいる場所は宇宙のように見える世界の狭間になった。
狭間は数多の世界がビー玉のような形で浮いていて、崩壊した世界は近くにある複数の世界へと流れ込み始めた。
ひとしきり笑ったチエが振り返る。
「お疲れさま、シルドラ。世界にとってはバッドエンド――いや、見方によればハッピーエンドかな? ……まぁいいや。君にとってこの結末は、ハッピーエンドかい?」
「……んーまぁ、神になったし、新たな闘争の予感もするし……ハッピーエンドかな」
「フフ、それならいい。強くてニューゲームはしなくて良さそうだ。天使の君はどうかな?」
「間違いなくハッピーエンドです。私が五体満足で精神に影響もなく生きてますので」
そう言ってジュースを飲む。飲み干したのか、ズズズッと音がした。
「そう。じゃあ、この世界はもう終わりでいいかな?」
「うん、終わりでいい」
「……それじゃあ、いつかまた会おう」
「ああ。今度会ったらタイマンで勝つから」
「フフ……」
チエは笑うだけで答えず、フッと消えた。
「さて、責任取って世界の一つでも救うか」
「お供します」
手始めに今回の件で最も影響を受けた世界の一つに干渉しよう。
ポストアポカリプスの世界……闘争の気配がするな。
「――ん?」
※いつか書く次の物語――の始まる前のシーン(エンディング後の映画予告的な)
「こちらから救護が必要な気配がします!」
一人の女性が世界の壁を拳でぶち抜いてやって来た。
赤と青のメッシュが入った白髪を後ろでお団子にしており、軍服の上から白衣を羽織っている。
「やれやれ、全て片付いたとはいえ、勝手に世界を抜けださないでほしいな。――ん、君たちは……」
遅れてやって来たのは、ハットにステッキが特徴の……如何にも奇術師ですと言わんばかりの見た目の少女だ。
ボリュームのあるくせ毛の黒髪で、着ている服は奇術師風の黒と紫を合わせたブレザー制服っぽいもの。
彼女は俺を観察し、フッと不敵な笑みを浮かべた。
「なるほど、君もまた神か。そして隣は天使……ならこの場は任せよう」
指パッチン。
彼女が鳴らした瞬間、目の前から消えていた。
「どなかは存じませんが、この世界を救うのでしょう? さぁ行きましょう!」
「お、おう」
なんだこいつ……。
戸惑いながら、俺とアンは彼女と一緒に世界へ降り立った。
思いもよらない展開になるとは、つゆ知らず…………。




