第40話 ドラゴン娘、新たな装いをする
――――はっ!
「おはよう」
目が覚めると、ニヤついた笑みを貼り付けたチエが俺の顔を覗き込んでいた。
「……今、死んでた?」
「死んでたよー。でもレベルは充分。もう元の世界で勝てる存在はいない」
「……だろうね」
脳内のレベルは五万を超えている。これ以上は最早数値の意味が無いと直感的に分かり、ちょっと設定を弄ってレベルアップの報告や表示を消した。
「さぁ、最後に私からとっておきのプレゼントだ。受け取りたまえ」
差し出されたのは綺麗にラッピングされた袋のプレゼント。リボンを解いて中の物を取り出せば、それは服――黒いドレスだった。
『怪物ドレスセット』……猫神、猫社チエが作成した、ジャバウォックに相応しい漆黒のドレス。専用のシューズ、ニーハイソックス、ロンググローブ、下着付き。あらゆる耐性、全能力向上、無数の技能付与がされており、これ一着で冠婚葬祭から冒険や戦闘までこなせる。
チエが個室を出してくれたのでそこに入って着替える。壁の一部が鏡になっていて、そこに映る自分の姿を爪先から頭のてっぺんまで確認。
……美しいな。それでいて動きやすい。
ファンタジー風のドレスで、着飾るだけでなく戦闘も考慮した動きやすい構造をしている。
胸元や大腿部、背中の素肌が見えて露出度は高い。
前面がショート丈のフィッシュテールスカートで、ヒラヒラしていて動きを阻害せず、ニーハイソックスによってスカートとの間に絶対領域が出来ている。
個室から出て聞いてみる。
「どう?」
「うん、似合ってるよ」
「ええ、いいわね」
「ルシエール!?」
なぜここにっ!?
チエの隣で扇子を扇ぎながら立っている。急いで魔剣を出そうとして――アイテムボックスの無いことに気付いた。
ヴォーパルソード……殴られた時に手放してたな。
「はいこれ」
「あっ、どうも」
チエがヴォーパルソードを差し出してくれたので、受け取って構える。
「……ルシエール、なぜいる?」
「新たな神の誕生を祝いに来たわ。ついでに勝利宣言もしようとね」
「勝利宣言?」
「ええ」
ルシエールは俺ではなく、チエの方に向いた。
「今回は私の勝ちよ、チエ」
「……それはどうかな?」
「……ウフフ」
「……フフフ」
この二人、実は仲良かったりする?
このままでは話が進まないので、魔剣を二人の間に差し込んでこっちに振り向かせる。
「お二人さん、そういうのは別のところでやってくれません?」
「だってさルシエール」
「……じゃあ、祝いの言葉を述べて戻るわ」
ルシエールは扇子を閉じ、一度深呼吸をすると神様らしい威厳を持って行った。
「……シルドラ、神への昇格をここに祝福します。おめでとう。あなたは今後、神として幾多の世界に関わることになるでしょう。その時に私たちと敵対するか協力するかは分かりませんが……せいぜい、己の役割を果たすことです。それがあなたの幸福に繋がり、神としての格の上昇になります。それでは、すぐに会うことになるでしょうけど、これで失礼するわ」
再び扇子を開いた彼女は、真横に出現したドアを開けて不思議な世界から出て行った。
「……ところで、勝利宣言ってなんだったの?」
チエの視線が露骨に泳ぎ、顔を逸らした。
「……あー……それはー……ごめん、言ったら面白くないから自分の目で確かめて」
あっ逃げた。
言い終わった瞬間にチエはパッと消えた。
自分の目で確かめろねぇ……嫌な予感しかしないけど、元の世界に戻るか。
ドアを出して元の世界に戻る。戻った場所はさっきまでいたダンジョンのボス部屋。
「……特に変わったところはないな」
なんだったんだろうか?
……まぁいいや、とりあえずダンジョンを食べながら出よう。
スキル【悪食】でドラゴン頭のオーラを複数出して、削り取りながらダンジョンを上がっていく。
ボス部屋を過ぎればスライム状のダンジョンに戻り、端から削っていく。ついでにおやつ代わりで手ですくって食べていく。ゼリーっぽくて食感がいいので、土よりは美味しい。
ボスを倒したからか道中にモンスターが現れることはなく、ゆっくりのんびり、フロアを一つずつ上がる。
「おっ、宝箱」
部屋にぽつんと一つ、あからさまな罠っぽい宝箱があった。
あの時はラッキーちゃんがいたから、こういうの開けなかったんだよなぁ。
まぁ、今となっては余程のモノでないと、開けてもいらないんだけど。
とか思いつつも、やっぱり宝箱自体を開けるのは心が躍るもの。神になった以上は罠とか効かないので堂々とオープン。
すると足元に魔法陣が浮かび上がって光った。
転移の魔法陣だ。
「おぉ、どこに移動するんだろ?」
魔法陣の効果を無効化もやろうと思えば可能だが、興味が勝ってそのまま転移されてみた。
体に一瞬浮遊感があり、一瞬で転移して視界に映る景色が変わる。
「わーお」
これは凄い……!
でも、神になった以上はいらねぇっ!!
その部屋は眩いばかりに輝く、キンキラキンな黄金の部屋だった。広さはかなりのもので、床も壁も天井も金色だ。その壁や床がスライム状なのは変わらないが、どうやら純金を含んでいるらしく、採取して加工すれば金が手に入るっぽい。
しかも、バスケットボールサイズの、全身が純金の『ゴールデンスライム』が大量にぴょんぴょん跳ねたり転がってりしている。倒せば純金をそのまま手に入れられそうだ。
が、ここで一つ問題がある。
「おっと」
ゴールデンスライムが侵入者である俺を認識するや否や、一斉に飛び掛かってきた。一体を手で受け止めたが、どうも金と同じ比重があるっぽくてかなり重い。しかも形を変えて手を包み込もうと動きだした。
うわっ、こいつ……特殊状態異常『金化』持ちかよ!
もう効かないから大丈夫だけど、神になる前ならヤバかった!
手を一瞬だけ消してゴールデンスライムを落とし、まとわりつかれないように飛んで空に移動。それから【悪食】で食らいつつ、一気に殲滅する為に大きく息を吸った。
【ファイアブレス】!
神になって初めてのブレスは思った以上に火力があって……視界が爆炎に包まれた。
すぐにブレスを止めれば――――黄金部屋が消し飛んでいた。
一応、それで部屋の脱出条件を満たしたのか、元の場所に戻る為の魔法陣が浮いていた。
「…………うん、寄り道せずにダンジョンでよう」
そう決めた俺は、魔法陣を使って元の場所に戻ってから、真っ直ぐ地上を目指した。




