第39話 ドラゴン娘、神になる
プレゼントボックスの中に入っていたのは、一枚のメッセージカードだった。
誕生日おめでとう!
不思議な世界のたった一匹のドラゴン――“ジャバウォック”。
アリスのいないこの世界でヴォーパルソードを手に入れた君は、まさしく無敵で最強だ!
神と言ってもいい。
神を名乗っていい。
というわけで、スキル【時止め】をプレゼント!
不思議な世界は、永遠の闘争を求める新たな神を歓迎する。
読み終えると同時、脳内で『神』の称号を獲得し、種族が『ワンダードラゴン』から『ジャバウォック』に変わったのが分かった。それと新たなスキルとして【時止め】を、新たなアビリティとして【神格】と【限界突破】を手に入れた。
スキルは文字通りの効果であり、アビリティの方は神の権能を行使できるようになる。まだまだ実力と経験が不足しているが。
「よし、行こう」
メッセージカードをアイテムボックスに仕舞い、席を立ってこんにゃく屋から移動する。道は真っ直ぐ伸びているが……今なら理解できる。この道は目的を持って進めばどちらに行っても必ず目的地にたどり着く不思議な道だ。逆に言えば目的無く歩くと永遠に歩き続けることになる。
飛べば関係ないが、無粋なので歩いて道を進み、目的地である猫神チエがいるであろう場所に到着した。
そこは芝生が敷き詰められた小さな空き地だった。真ん中に長いテーブルがあり、その上には大量の茶菓子とティーカップが並び、お湯が入っているだろうポッドが数個載っている。
多くの椅子が並ぶ中、その一つに猫神チエが座り、優雅にカップを持って中の液体を飲んでいる。
彼女は俺に気付くとカップを置いて立ち上がった。
「やぁ、無事に神様になれたみたいだね。新たな住人、ジャバウォック」
「……もしかして、最初からその為に?」
「正解。この世界にはドラゴンがいなかったからね、丁度いいから仕組ませてもらった。まぁ、私の敷いたレールはここまでなんだけどね」
だろうな。進化の終着点っぽいし。
「……さて、神として対等な関係になった。ようやく、君の要望に応えられる。さぁ、構えたまえ。存分にやり合おうじゃないか!」
「ああっ!」
魔剣ヴォーパルソードをアイテムボックスから出して構えた俺は、翼で加速を得ながら真っ直ぐ突っ込んだ。
チエが指を鉄砲の形に変えてこちらに向ける。今までは見えなかったが、指先に神の力が収束し、エネルギー弾が超光速で発射された。
今なら対応出来る! 時よ止まれっ!
スキル【時止め】により世界の時間がピタリと止まり、エネルギー弾が空中で制止した。
だが、流石は神……チエは時間の止まった世界の中で平然と動き、満面のニヤついた笑みを浮かべると両手を広げた。
「ほら、その剣で私を斬ってみるといい」
「言われずともっ!」
――ぶった斬る!!
斜めにズバッと斬れば、チエは霞となって消えて真横に姿を見せた。
「フフ、残念♪ それは幻だ」
「……嘘だな」
「!」
「手応えがあった。そして分かった。猫社チエはチェシャ猫であり、不思議な世界の住人。故にどこにでもいてどこにもいない、不滅の存在。だから攻撃を受けたとしても、後出しでダメージそのものを無かったことに出来る。つまり……答えは、現実と幻、両方が混じった状態だ! あってる……よね?」
「…………フフフフフ……アハハハハハ……ハーッハッハッハ! 正解だよジャバウォック!! じゃあここからはおふざけ無しで、真剣にやろうか!」
――来る! っ、速い!?
まるで早送りしているかのようにチエが高速で動き、ドラゴン娘であり神でもある、超反応の動体視力をもってしても捉えられず殴られた。
威力も尋常でなく、一撃で吹っ飛ばされて空き地の壁を貫通し、木々が素早く避けて地面をゴロゴロ転がる。
「くっ」
「後ろだよ」
魔剣を地面に刺して勢いを殺し体勢を立て直した直後、既に背後に回っていたチエに尻尾を掴まれ、ぐるぐるぶん回されて空へ放り投げられた。
そこから連続で殴られ蹴られ、ボールのようにあっちこっちに吹っ飛ばされた。
ぬぅ……――そこっ!
気配を探り、動きを予測し、翼を使って空中で急停止すると同時、また背後に現れたチエに魔剣を振るった。
「っ!?!」
「ダメダメ。神の力を込めてない攻撃なんて、余程特殊な力じゃないと神には通じないよ」
指摘するチエは人差し指一本どころか、指先に伸ばした猫のような鋭い爪で簡単に受け止めていた。
言われた通り神の力を込めて押し込めば爪が切れ、空いている片方の手の親指と人差し指で摘まんで魔剣を止められた。
「いいね。でも残念ながらレベルが圧倒的に足りない。どれぐらい足りないかって言われると桁が三つくらい足りない」
「じゃあどうしろと……!」
対等な関係になったとしても、力の差があり過ぎたら勝負にならないじゃないか!
「……大丈夫。今から極短時間で大量の経験値が入るように特訓してあげる。ちょっと私にひたすら殴られたり蹴られたりすることになるけど、闘争心が消えない君なら耐えられるよね?」
「……絶対一撃入れてやる」
「その意気だよ。じゃあ、私が本気で動くから……頑張って耐えてね♪」
――あっ――
直後、神として圧倒的な格を見せつけるように、膨大な量の神の気を体から発したチエは、今まで以上に加速し、殴打によるラッシュを始めた。目では分からないが、撃ち込まれる衝撃が肌で分かる。数えきれない攻撃を全身くまなく当てられ、同時に、脳内でレベルがタイマーのミリ秒並みの速度で上がっている。
ただ、一撃を入れる隙も無く、俺は意識をあっさりと手放した……。




