第38話 ドラゴン娘、不思議な世界を訪れる
体の内側から熱が発生して光に包まれて進化が始まり、肉体が完全に変質して光りが収まると、『ワンダードラゴン』という言葉と、新しいアビリティが頭に浮かび、互換性のある下位のアビリティが置換された。
アビリティ
【不思議な世界の住人】……ワンダーワールドへの扉をいつでもどこでも自由自在に出せる。また、《《どこにでもいてどこにもいない不滅の存在》》となる。
【状態異常完全無効】……あらゆる状態異常が効かなくなる。ただし、任意で自ら状態異常に掛かることは可能。
不思議な世界……それに状態異常完全無効……行く所まで行ったって感じだな。
体の方は……スタイルがさらに良くなった?
それに、髪の毛に紫のメッシュが入って、翼とか尻尾がカッコ良くなってる。鏡が無いから分からないけど、顔も良くなってるんだろうな。
「っと、聖杯……なにを願おう?」
地面に転がっている『聖杯(★1)』を手に取って考える。
特殊状態異常の『祟り』は消えてるし、神様に普通に会えそうな気がするからわざわざ召喚する必要もないんだよなぁ。
やっぱりここは更なる強さを願うべきか?
それともテキトーに役立つスキルの追加とか?
うーーーん…………あっ、魔剣の強化でもしよう。愛着湧いてるし。
魔剣『ペインソード』をアイテムボックスから出して聖杯に願う。
「聖杯よ、《《この手にある魔剣をより強くしてほしい》》」
願いが聞き届けられたのか聖杯は光り輝いて粒子となって消えた。
直後、魔剣が光って形を変えた。
以前の牛刀みたいな紅い大剣から、ルビーのような赤い輝きを放つ宝石のような片刃の大剣になった。
名前も変わった。
魔剣『ヴォーパルソード』……不思議な世界の伝説の剣。斬った相手に必ず致命傷を与える。その傷は治癒せず、痛みがいつまでも残り続ける。
「必ず致命傷とか、えげつないな……」
試してみたい……けど、ここには相手がいないな。
仕方なくアイテムボックスに仕舞う。
「……さて、不思議の世界とやら、行ってみるか!」
思うだけで、目の前に木のドアがなんの前兆も無く突如として出現した。
ドアノブを捻って開ければ、馬車がすれ違えるほどの幅の土の道が一本伸びていて、左右には木々が所狭しと連なり、天気の良い青空が見えた。
「ふむ……特に変わった様子はないか」
中に入ってドアを閉めれば、全ての木から急に二本の手が生え、隠し持っていた様々な楽器を軽快に引き始めた。路端の小さな花でさえ楽器を弾いている。
訂正。めっちゃ変わってる!!
夢を提供するテーマパークみたいな状況にただただ突っ立っていると、背後から拍手が聞こえた。振り返れば全身に包帯を巻いた長身痩躯の男が拍手をしながら立っていて、口元に笑みを浮かべていた。
「ようこそようこそ、不思議な不思議な世界へ! この世界は君を歓迎し、僕らも新たな住人の誕生を歓迎している!」
「はぁ」
……誰?
「おやおやおやおや、困惑しているみたいだね。まぁまぁそれは当然、こんなおかしな場所に好き好んでいる奴なんて、頭のネジがいかれた狂人ばかりなのだから」
「……」
それ、自分で言う?
「……と、立ち話もなんだから僕のお店に寄って行かないかい? 今なら今なら、新作のこんにゃくを出してあげるよ」
「こんにゃく?」
「僕はこう見えても『こんにゃく屋』だからね。こんにゃくを売っているのは当然さ。それにそれに、この世界で一番のお店だよ」
「はぁ」
「じゃあじゃあ、案内しよう」
ミイラ男は勝手に案内を始めて歩き出した。チエに会おうにも、道をどっちに進めばいいのか分からないので、とりあえずついて行ってみる。
「はいはい到着!」
「はっや……」
歩いて十歩くらいで、路端に忽然と屋台が現れた。昔ながらの人力で押せる木造屋台で、暖簾にはしっかりと『こんにゃく屋』と書かれている。
ミイラ男が屋台の厨房に入ったので、俺は暖簾をくぐって椅子に座る。おでんを入れるような四角い鍋には多種多様なこんにゃくが熱々のお湯に浸かっていた。
……ちょっと美味しそうかも。
「はいはいどうぞどうぞ、これが新作のこんにゃく……名付けて『コこんにゃく』だよ」
「コこんにゃく?」
小さな皿に載せて差し出されたのは、コの字になった円柱のこんにゃく。灰色で黒い粒粒が中にびっしり入っているが……中の粒もコの形になっている。
正直言って、集合体恐怖症を引き起こす見た目で食欲が失せた。
「……ごめん、いらないわ」
「そっかそっか。僕もこれはダメなんじゃないかなと思ってたんだよね!」
思ってたのかよ。というか捨てるんだ……。
ミイラ男は小皿を後ろへひょいと投げた。背後では一本の木がコこんにゃくナイスキャッチし、口が現れてぱくりと食べた。木がコの字に曲がった。
「さてさて、僕のお店にせっかく立ち寄ってくれたんだ。お礼にいいことを教えてあげるけど……聞くかい?」
「聞く」
聞くだけならタダだし。
「よしよし。拒否されたら首を落として聞かせるつもりだったけど、手間が省けた」
えぇ……こわっ。
「じゃあじゃあ教えよう。もし神とまともに戦いたいのなら……最低でも《《時間か空間を操る力》》が必須だよ」
……確かに、神に挑むのならその力は必須かも。
チエは時間を巻き戻したし、ルシエールは攻撃が速すぎた。
どちらも対処出来なければ、勝負は一瞬でついてしまう。
「ではでは、時間や空間を操る力はどうやって習得するか? そんな君に朗報だ。新たな住人の誕生を祝して、不思議な世界が君に力を与えてくれる。ここにその力が入ってる。是非是非開けて欲しいけど――――開けたらもう、本当に後戻りはできなくなるよ」
最後だけ真剣な眼差しと口調で言ったミイラ男は、厨房の下からプレゼントボックスを出して俺の前に置いた。丁寧にラッピングされてリボンが結ばれている。
……?
音が……止んだ。
さっきまで歓迎の音楽を奏でていた木々たちが、いつの間にかアニメチックな顔を出して、両手を祈るように握って固唾を飲んで見つめていた。
――あれ? いない!?
一瞬目を離した隙に、ミイラ男の姿が消えていた。その場から動かずに探しても見つからず、気配すら無い。
「……せめて、チエがどこにいるか教えてほしかったな。まぁいいけど」
後戻りはできないと言っていたが、今更戻るつもりもないのでプレゼントを手に取り、リボンの結び目を解いて開けた。




