第4話 ドラゴン娘、火を吐く
おおおおおー……このブーツいいな!
俺は今、軽快に壁や天井を走っている。凸凹した足場なんてなんのその、体が勝手に最適な一歩を踏み出してくれるお陰で恐くない。
幾つかの部屋と道を進み、他より広い部屋に入った。
「いた」
【テイルスイング】!
奥でゴブリン数十体が一塊になっていて、手前に着地すると同時にスキルを発動。尻尾に気を纏ってぶん回せば数体が吹っ飛び、後ろにいたゴブリンたちが倒れた。
おお、凄い威力!
それじゃあもう一発。
【テイルスイング】!
起き上がったゴブリンたちにもう一度尻尾をぶん回せば、さっきと同じ光景が生まれた。
うーん……使い勝手はいいけど、こうまで敵が多いとファイアブレスで一掃したくなるな。
出せたりするかな?
ファイアブレス!
勢いよく息を吐いてみるが、ただ温かい吐息が出ただけ。
「……仕方ない。地道にやろう」
そういうわけで残ったゴブリンを蹴ったり殴ったりして倒していく。経験値のゲージがぐんぐん伸び、『Lv.2』になった。ほんのり強くなった感じはしたが、誤差レベルなのでゴブリンを倒すのが早くなったりはしない。
「これで終わりっと」
最後のゴブリンを倒したところで、ドロップしたアイテムを確認。
『薬草』
『ゴブリンの石槍』
『ゴブリンの石斧』
『ゴブリンの石ナイフ』
『毒消し草』
どれも名前通りの物だ。ゴブリンの武器は正直いらないが、初めてのダンジョンだから折角なので一つ一つ拾ってストレージ内へ収納。
「そういえば、どうしてゴブリンはここに集まっていたんだ?」
視線の先には下り階段が一つ。『2』の番号が傍の壁に描かれている。他には俺が入って来た通路以外に道はなく、逃げるならそこしかない。
近づいて見下ろせば、二メートルくらいある緑の巨漢……『ホブゴブリン』が一体、でかい木の棍棒を手にこっちを見ていた。
なるほど。だからゴブリンは下に逃げなかったのか。下に行くほど強い奴がいて、弱い奴は上へ上へ逃げ……そして収まりきらなくなると外に出ると。
ダンジョンはここだけじゃないし、今頃、他の場所はどうなってるやら。
「……まぁ、今は目の前のことに集中しよう」
ゆっくりと階段を降り、ホブゴブリンへ近づく。ドラゴン娘の俺を見ても逃げたりはせず、出口の横に移動して待ち構え始めた。
ひょっこり顔を出せば、ホブゴブリンが上段で構えていた棍棒を振り下ろしたのでサッと頭を引っ込めて回避。
風圧が通り抜け、地面の土が凹んだ。
棍棒が持ち上げられる前に蹴りを入れれば、ホブゴブリンの手から弾け飛んで、一階よりもさらに広い壁に当たって落ちた。
階段を下り切って二階に入り、横にいるホブゴブリンを見れば、驚きを隠せず固まっていた。
ハッと我に返ったそいつは蹴りを入れてきたので、横にステップして回避。そのまま落ちているでかい棍棒……『ゴブリンの棍棒』を手に掴めば、大きさが勝手に補正されて丁度いいサイズになった。
「これ、返すよ」
と言いつつホブゴブリンの顔面に向かってぶん投げる。凄い速度と円運動で飛んだ棍棒は狙い通りに顔面に直撃し、漫画みたいなめり込み方を一瞬して跳ね、天井にぶつかってから地面に落ちた。遅れてホブゴブリンが倒れた。
「おっ、経験値多い」
頭の中にあるゲージの伸び方からして、ゴブリン十体分はある。
溶けたホブゴブリンからはなにもドロップはしなかったが、棍棒が残っている。
「それでこれが報酬ね」
棍棒を拾い上げて肩に担ぎ、改めてこのフロアを見渡してみる。一階へ戻る階段の傍には『1』の番号が描かれている。地面は相変わらず土だが、壁と天井は平たい灰色の石材になっていて、かなり広く、長物を引っ掛ける心配はない。あと、当然のように光源が存在しないのに明るい。
「階層ごとに環境がガラッと変わったりするんだろうか? ……いずれ分かるか」
今は気にしないことにして移動を開始すれば、曲がり角で早速新しい敵と遭遇した。
如何にも呪術師って感じの骨の装飾品を身に着け、長い杖を持ったゴブリン……『ゴブリンシャーマン』だ。
距離が少しあるので即殺はできない。ゴブリンシャーマンは俺を見た瞬間に逃げ出し、すぐ傍の角を曲がった。俺は急いで追い掛けた。
――あっ、やば!
角を曲がった瞬間見えたのは、杖の先端をこっちに向けているゴブリンシャーマン。ギャアギャアとなにかを言うと杖が光って先端にバスケットボールくらいの火球を作り出した。
ファイアボールか!?
反射的に横へ回避行動を取った直後、火球が複数に拡散して発射された。
なにぃっ!?
小さくなった複数の火球はまるでミサイルのように曲がって俺に迫ってきた。避け切れずに防御姿勢を取り、数発当たってしまう。
あっつ!
……作業着が綿百パーセントの難燃性で良かった。
それに、スキル覚えたぞ!
直撃した瞬間、一瞬の頭痛と一緒に頭に思い浮かんだのはスキル【ファイアブレス】。
【ファイアブレス】……気を火へと変質させ、息と一緒に吐き出す攻撃。肺活量と気の強さによって威力が変わる。
「お返しだこの野郎!」
【ファイアブレス】!
息を吸い込み気合を込めて一気に吐けば、気が練られた息が炎となって先へいくほど広がるように十メートルほど放射され、ゴブリンシャーマンは炎に包み込まれた。
炎を吐くのを止めれば、ゴブリンシャーマンは丸焦げの状態で倒れていた。




