第3話 ドラゴン娘、スキルを習得する
ダンジョンの中は真っ暗……ということもなく、光源が存在しないのに不思議と明るい。綺麗な下りの石階段があり、横幅は五人並んで歩けるほど広く壁はゴツゴツとした岩でできている。天井も岩で、二メートル半ほどあるが、凸凹が激しく長物の武器を縦向きに振り回すには気を使う必要がある。
ゴブリン共は俺を見た瞬間に奥へ奥へと逃げ始め、一匹が転倒して置いていかれた。飛び降りるように階段を下って逃げるゴブリンの背中に蹴りを入れる。
ぐえっ、とヒキガエルのような汚い声を出して階段の一番下まで転がり落ちると、動かなくなった。
「ん、レベルの概念あるんだ……」
頭の中に『Lv.1』という文字が浮かび上がり、経験値が入ったことで下にあるゲージがちょっとだけ伸びた。
「うわっ、エグ」
死んだゴブリンが、まるで溶けるように地面に吸収されて消えた。報酬と言わんばかりに残されたのは、ヨモギっぽい緑の葉っぱ一掴み分。目にした瞬間に頭に名前と使い方が思い浮かんだ。
『薬草』……食べると多少の傷が治る。ポーションの材料。
「まるでゲームみたいだ」
手に取れば、また新たなことが思い浮かんだ。
『ストレージ』……モンスター娘に備わる神の恩寵。手に触れた物を個人用の亜空間に収納できる。生きた生物は不可。容量は筋力に比例。
「ゲームじゃん。まぁ便利だからいいけど」
ストレージに仕舞おうと思ったら、持っている薬草がパッと消えた。
「さて……ここからダンジョンの本番か」
今立っている場所は平らな土の地面になっている。硬くて踏み込みやすく、移動はしやすい。ただ壁や天井は変わらずゴツゴツとした岩で、長物の武器を扱う場合は注意が必要だ。また、死角ができやすいので罠や待ち伏せにも注意。
自分がドラゴンだからって油断せずに慎重に進んでいると、不気味な棒状の飾りがY字路の中央に設置されていた。
『ゴブリントーテム』……ゴブリンたちの縄張りの印。
罠かもしれないので振り返ってみる。
あっ、いたわ。
死角になっている斜め後ろに細い横穴があった。そこには息を殺して石槍を構えているゴブリンが一匹いて、目が合うと絶叫しながら突撃してきた。
その心意気や良し! だが――
「遅い!」
完全に見切った俺は横に回避しながらくるりと勢いよく体を回し、尻尾で薙ぎ払った。ゴブリンの顔面にベチンと当たれば吹っ飛んで壁に激突して倒れ、動かなくなった。
「おぉ、上手くいった」
ゲームで尻尾のあるキャラがよく使う技、テイルスイングというやつだ。
「う――マジか」
ズキッと一瞬の頭痛のあと、頭に思い浮かんだのはスキル【テイルスイング】だ。
スキル……発声の必要がなく、体力を消費して発動。
【テイルスイング】……気のオーラを纏った強力な尻尾攻撃。
早速試したいけど相手がいない。倒したゴブリンはさっきと同じように溶けて消え、残ったのは石槍一つ。
『ゴブリンの石槍』……ゴブリンが手作りした粗悪な槍。
「粗悪な槍か――ん?」
拾ってみれば、人間が使うには短い槍だったのが、ちょっと伸びたように見えた。立ててみると自分と同じくらいの長さがある。
「……気のせい、か?」
首を傾げてしまう。
「まぁ、いいか」
陸自の祖父に銃剣術も教え込まれているので槍も扱えるし、なにかの役には立つだろうと持っておく。
そのまま横穴を調べてみる。数メートル先は行き止まりだった。石槍で壁とか床とか天井とか突いてみたけど異常なし。待ち伏せ用っぽい。
Y字路を左へ進めば、 すぐにちょっとした小部屋の行き止まりに当たった。奥にあからさまに怪しい宝箱が一つぽつんと設置されている。
「罠……だよなぁ」
宝箱自体は視認しても名前とか出たりはせず、人一人が収まる大きさの小綺麗な赤い箱といった印象。
部屋の方に罠がないかと石槍で地面を小突きながら慎重に近づき、宝箱から見て斜め前から石槍で小突いてみる。なにも起きない。
今度は蓋の間に刃を通して開けてみる。鍵は掛かっていなかったようで、ギィ、と音を立てて開いた宝箱から、正面に向けてぴゅーっと薄い紫の液体が飛び出し、すぐに止まった。
「毒か」
『毒』……耐性が無ければ体調を悪化させ、徐々に生命力を奪う。
流石に二段構えはないだろう。……ないよな?
慎重に近づき、宝箱の中を覗き込む。
「おっ、ブーツ!」
中には編み上げの皮ブーツが入っていた。頭に浮かんが情報によると防具らしい。
『軽業のブーツ』……足防具。履いた者の運動能力を向上させ、アクロバットな動きが出来るようになる。
早速、今履いている安全靴から履き替えてみれば、少しブカブカだったがすぐに自分の足のサイズに補正されてぴったりになった。
「サイズ補正あるんだ……石槍が伸びたのは気のせいじゃなかったんだな。それに――」
ちょっと壁蹴りバク転を試してみれば、本来出来ないはずのアクロバティックな動きでくるんと一回転して立ったまま着地できた。
「うん、効果も本物。これなら壁走りもできるな」
石槍をストレージに仕舞い、練習を兼ねて壁や天井を走りながら移動を始めた。




