第34話 ドラゴン娘、一休みする
ラッキーちゃんは日本人にしてはお酒に強いのか、しばらくすると普通に移動する分には問題ない程度に回復した。
ので、俺が船になって部屋を泳いで渡り先の通路を進む。進んだ先では大量のウォータースライムのコアが水面にプカプカ浮いていた。恐らく待伏せしようとしていたのが、フロア全体に行き渡った酒気のせいで台無しになったのだろう。
手に取って食べていく。
「ねぇシルドラちゃん、それ美味しいの?」
「ん。美味しい。食べます?」
「……遠慮しておくわ」
美味しいのに……まぁいいか。
「じゃあこれいります?」
ドロップアイテムのスライムローションが出たので、そっちを差し出してみる。
「これは?」
「スライムローション。凄い効能の美容液」
「あら~いいじゃない。けど今はちょっと貰えないわ。荷物がいっぱいだし、無事にダンジョンから出られたら改めて貰うわ」
「分かりました」
そういうことなので、拾ったスライムローションはアイテムボックスへ入れていく。
おっ、レベルが上がった。
けど、このダンジョンは経験値効率が悪いな。
現在レベルは『32』から『33』に。
大半のモンスターを無視しているとはいえ、以前のダンジョンと比べるとレベルアップが遅い。
まぁ、守りながらだから仕方ない。
ウォータースライムのコアを食べながら進み、食べ終わる頃になって階段へ到着。降りると休憩所のドアがあった。
「休憩所なんてあるのね」
「モンスターも出てこない安全地帯なんで、ここで待機しててください」
「そうさせてもらうわ」
念の為に俺がドアノブを回して入れば、壁や床どころか、必要最低限設置されている家具やトイレや水飲み場の全てがスライムみたいなゼリー状の部屋になっていた。
うっっわースライム版のフロアイミテーターっぽくて、入りたくねー。
警戒しながら中に入るが何も起きない。ラッキーちゃんがテーブルセットの椅子に座って一息ついても同様だ。
なにも起きない? それはそれでいいんだけ、ど……!?
スライムの床の一部が盛り上がり始めた。
「ラッキーちゃん!」
「なになに!? 敵?」
休んでいたラッキーちゃんが慌てて立ち上がり、俺の背後に移動。盛り上がったスライムの床は人の形を取り始め、最終的にコアの無い、見覚えのある体型と顔のスライム娘になった。
「……スラスラさん?」
「おや? ぼくを知ってる……ああ、ワフ様から教えられたんだね。初めまして、このダンジョンのボスを担当してるスラスラだよ」
は?
ボスを担当?
俺を覚えてない?
記憶喪失?
既にダンジョンに取り込まれたモンスターなら殺さないと! ――でも、コアがないから今はやるだけ無駄か。
それだけ思考が巡り、拳を解く。
「で、用件は?」
「この休憩室は長く居ると消化液が分泌されるようになるって説明に来た。それだけだから、じゃあね」
本当にそれだけだったようで、スラスラさんだったスライム娘のモンスターは元の床へと戻った。
生きて帰さない為にここまでするか。ほんっと意地悪だな!
「……とりあえず、休憩しましょう。シルドラちゃん」
「……」
ラッキーちゃんに促され、俺は椅子に座ってアイテムボックスに仕舞っていた弁当を出してやけ食いすることにした。
ラッキーちゃんはベッドに横になって目を閉じて仮眠を始めた。小さな寝息が聞こえる。
食事も終わり、トイレも済ませ、俺もラッキーちゃんにならってソファーに寝転がって目を閉じる。意識自体は保ったまま、瞑想するように……。
『やぁシルドラ、チエだよ』
と思ったら、なんか頭の中に神様であるチエの声が聞こえ始めた。
なんです神様? 今休憩中なんですけど?
『まぁまぁそう言わずに。神様の有り難いお告げと思って話に付き合ってほしいな』
はぁ。
『君が順調に様々な物を食べているのを見させてもらっていたけど、実はまだ、固定した進化先の条件に必須のモノを食べていないんだよね』
それは?
『教えない。流石にそれを言うと君の物語としてはつまらないだろう?』
……まぁ。
『そういうわけだから、必須の食べモノは自力で見つけてほしい。ただこの先のフロアはかなり邪悪なことが待ち構えているとだけ伝えておく』
邪悪?
『そう、邪悪。覚悟しておくように』
はい。ところで神様がこんなに干渉していいんです?
『これくらいなら問題無いよ。それに過剰な干渉は彼女の方から始めたからね。あっちがその気なら、こっちだってルールの範囲内で好き放題させてもらうまでさ』
神様にもルール、あるんですね。
『そりゃああるよ。そうじゃないと世界がぐちゃぐちゃになるからね。それより、そろそろ起きた方がいいよ』
「うわっ!」
バシッと叩かれる感覚があって飛び起きて周囲を確認すれば、スライム状の床全体が一センチくらい浸水していた。
これって……消化液、だよな?
指ですぐって舐めてみれば、胃液のような味がした。不味いしマズイ。
ベッドで寝ているラッキーちゃんの傍に行き、体を揺すって起こす。
「ラッキーちゃん起きて、時間みたい」
「ん……もうなの? 仕方ないわね」
「……靴が溶けたら面倒だし、背負うよ」
「あら悪いわね」
ダンジョン産の装備をしている俺は大丈夫だが、普通の靴だと溶けてしまいそうなのでラッキーちゃんを背負って休憩所を出た。




