第33話 ドラゴン娘、水中で戦う
三階は一階や二階と違って、天井も壁も床も緑一色のゼリー状のフロアとなっていた。高さや幅は広く、飛行も問題ない。
「あっ、モンスター」
「え、どこ?」
「そこ」
そのまま飛んで進んでいると早速モンスターを発見。床と同化していてかなり見え難いので、指さして示す。
「……ああ、わっかりにくいわねぇ!」
そいつはドロドロした水溜まりのような緑の液体で、赤い核が薄っすらと見えるだけ。『ドロロスライム』という名前で、どういう攻撃や特性をしているか想像しにくいので近寄りたくはない。
ということで無視して進む……が、少し先に天井や壁にべったり貼り付いている大量のドロロスライムが見えた。引き返そうとしたら、いつの間にか背後も同じようになっている。それどころか今いる場所にもドロロスライムが天井や壁や床の中からどろりと現れ始めていた。
「ちょっと動くよ」
「またぁ!? またなのぉ!? ――ああああああああああああ!」
高速ドロロスライムがいる中を突っ切る。
天井や壁からドロロスライムが緑の体液――『強毒』をぶっかけてくるのでしっかりと回避運動をとる。
アビリティ【弱毒耐性】を持つ俺なら多少当たっても耐えられるかもしれないが、人間のラッキーちゃんに少しでも当たった場合、死ぬかもしれない。その緊張感のおかげで一滴も当たらずに切り抜けられた。
一体も倒さずドロップアイテムがどんなものか確認もできず、階段を見つけて四階へ。
四階は一面が水色のゼリー状のフロアだった。天井と壁はやや狭く、一人でなら武器を存分に振るえるが、誰かを抱えて飛んで安全に進むには高さも幅も足りない。
仕方なく着地すれば、ばしゃんと水飛沫が舞って膝上まで冷たい水に浸かった。
「……嫌な予感しかしない」
「同感。あたしも昔はゲームをしてたんだけど、こういう水系のフロアって厄介な敵とかトラップ、めんどくさいギミックが定番よね」
「うん」
魔剣を出し、俺が先頭に立って慎重に歩いて進む。動くごとに水面が波紋となって揺れ動き、足元がよく見えなくなる。
天井からはしずくが一定間隔に落ちてぴちょん、ぴちょんと音を立てている。
……おかしい。なんにも遭遇しない!?
試練の十字架を着けているのに、数分間歩いてモンスターとの遭遇ゼロ。単に運がいいのか、確実に仕留める為の機会を窺っているのか、どちらか分からないが不気味で仕方がない。
警戒しながら歩き続けていると、このダンジョンで初めてとなる部屋に到着した。水面が広がる長方形の部屋で、数十メートル先に別の通路が見える。
怪しい……こんなの、なにかあると言ってるようなもんじゃん。
「ラッキーちゃん、どう思う?」
「明らかになにかありそうね。迂回していいかも」
「だよね」
部屋には入らず、回れ右して迂回路を探しに――足になにかが絡みつく感覚があった。
なん――
足元がゼリー状且つ水場で踏ん張りが利かず、一瞬にして体勢を崩されて水の中へ。そのまま部屋へ引きずり込まれた。
下へ下へ……かなり深くまで沈められたが、アビリティ【水中呼吸】のお陰でパニックにならず、冷静に呼吸をしながら水で歪む視界の中で敵を捉えた。
こいつか……いや多いな!?
水中に無数に浮かんで自在に動く赤いコアは、それ一つ一つが独立した個体で『ウォータースライム』という。コア以外に姿形は見えずとも、触手のような透明ななにかが大量に俺の体に絡みついてくる。手で掴もうとしても水そのものなのか掴めず、魔剣を振るっても効果がない。
ぐっ、これ以上絡まれると身動きが……打開策は幾つかあるけど、確率が高いのは――【ドランクブレス】!
口を開けて酒気を帯びた煙を大量に吐き出せば、ブクブクと大量の泡となって上昇していく。首にも触手が絡みついて締め付けようとするが、ドラゴンの筋肉で抵抗してブレスを吐き続ける。
しばらくすると赤いコアの動きが緩慢になり、まるで気絶したかのようにぷかーっと上昇し始めた。同時に透明な触手の締め付けも緩くなり、振り払えば触手の感覚が消えた。
よし、効いた!
ブレスの酒気が水に溶け込み、ウォータースライムのコアに浸透して状態異常『強酔』に陥らせることに成功したみたいだ。
さて、反撃に――いただきます。
尻尾と羽を利用しながら高速で泳ぎ、水面へと上がり出した赤いコアを手で掴んでがぶりと食べる。弾力のある噛み応えで濃厚なうま味と脂がある、サーモンのような味だ。
美味い! もっと食わせろ!
味覚的に好物なので、どんどん掴んで食べていく。
ドロップアイテムは水中にニュルッと現れた。スライムボールに似ているが違う、ボール状の青色のゼリー。『スライムローション』というもので、ダンジョン攻略にはなんの役にも立たない、凄く効能がいい美容液だ。金持ちに高く売れるだろうし、美容関係の研究に使えるだろうから全て回収。
――あっ、もうない。
食べて回収を繰り返しているとウォータースライムは全滅していた。水中から顔を出し、部屋の外で壁に背を預けて待機しているラッキーちゃんに声を掛ける。
「ただいま。もう安全だけど、ここかなり深いから気を付けて」
「……その前にちょっと、休憩させて。おえっ」
「あっ」
よく見れば顔が真っ赤なのに、気分が悪そうな表情をしている。明らかに酷く酔った状態で、ドランクブレスで周囲一帯を酒気まみれにしてしまったことを思い出した。
「なんか、ごめん」
「いいのよ。必要だったんでしょ? おえっ」
今にも吐きそうな彼を無理して動かす気になれず、ペットボトルの水を渡しながらしばらく休憩することになった。




